世界終焉
第二十八章
約束
何もない世界。
音も。
光も。
時間すら存在しない空間。
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その中心で。
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ゼロだけが、
静かに立っていた。
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巨大存在は、
沈黙している。
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世界初期化機構。
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無数の光輪が、
空間全域へ展開されていた。
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あれが発動すれば。
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全部終わる。
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人類も。
文明も。
記憶も。
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何度繰り返された世界も。
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全部、
最初から消える。
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だが。
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ゼロは、
動かなかった。
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ただ。
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昔を見ていた。
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レオニードには、
分からない。
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なのに。
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何故か見えてしまう。
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長い時間。
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数え切れない世界。
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燃える都市。
崩壊する文明。
死んでいく人々。
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何度救っても。
何度止めても。
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同じように、
世界は壊れていく。
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ゼロは。
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ずっと、
それを見続けてきた。
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巨大存在の声が、
再び響く。
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『――管理者個体:
ZERO――』
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『――感情汚染率、
限界値突破済――』
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『――管理権限返還を要求――』
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ゼロは、
小さく息を吐く。
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「嫌だね」
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静かな声。
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『――理由を要求――』
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数秒。
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沈黙。
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やがて。
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ゼロが、
ほんの少しだけ笑った。
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「約束したから」
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レオニードが、
目を見開く。
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約束。
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こんな存在が。
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世界より古い怪物が。
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そんな言葉を使う。
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巨大存在が、
応答する。
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『――記録照合――』
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『――該当記憶確認――』
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『――初期周期:
WORLD-01――』
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その瞬間。
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レオニードの脳へ、
断片が流れ込んだ。
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最初の世界。
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まだ文明も小さい頃。
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夜空の下。
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焚き火。
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黒髪の青年。
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今よりずっと、
人間らしいゼロ。
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その隣で。
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笑って酒を飲んでいる男。
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ヤクモ。
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若い。
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だが、
今と同じ目をしている。
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青年ゼロが、
静かに言う。
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『また失敗した』
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ヤクモが笑う。
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『じゃあ次頑張れば?』
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『人類は変わらない』
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『変わらなくてもいいじゃん』
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焚き火が揺れる。
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ヤクモは、
酒を飲みながら言う。
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『お前、
全部背負いすぎなんだよ』
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『……』
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『世界が終わるなら、
またやり直せばいい』
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『でもさ』
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ヤクモが、
少し真面目な顔になる。
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『その度に、
お前まで終わる必要ないだろ』
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沈黙。
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そして。
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ヤクモが笑う。
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『次は、
もうちょい肩の力抜けよ』
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『一人で世界守ろうとすんな』
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『じゃないと、
そのうち本当に壊れるぞ』
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記憶が途切れる。
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レオニードは、
呆然としていた。
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今のは。
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記憶。
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ゼロの。
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いや。
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“最初の世界”の記録。
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巨大存在の声が、
静かに響く。
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『――非合理確認――』
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『――人類は全周期で、
同一結果へ収束する――』
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『――保存価値なし――』
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ゼロは、
静かに巨大存在を見る。
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そして。
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初めて。
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はっきりと、
怒りを見せた。
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「だから、
お前達は何も分かってない」
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その瞬間。
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無の世界へ、
ヒビが走った。
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世界そのものが、
ゼロの感情へ共鳴していた。




