世界終焉
第二十七章
無音
世界が、消えた。
⸻
レオニードは、
何も見えなくなった。
⸻
空も。
海も。
山脈も。
⸻
音すらない。
⸻
白でも黒でもない。
⸻
認識不能の空間。
⸻
いや。
⸻
“世界が存在しない”
⸻
場所。
⸻
呼吸感覚も消える。
重力もない。
時間もない。
⸻
帝国軍艦隊。
白銀巨人。
裂け目。
⸻
全部、
消えている。
⸻
レオニードは、
自分が死んだのかと思った。
⸻
だが。
⸻
違う。
⸻
一つだけ。
⸻
存在している。
⸻
黒衣の男。
⸻
ゼロ。
⸻
彼だけが、
そこに立っていた。
⸻
静かに。
⸻
何もない場所へ。
⸻
巨大存在も、
動きを止めていた。
⸻
『――領域変質確認――』
⸻
初めて。
⸻
その声へ、
僅かな乱れが混じる。
⸻
『――世界基盤消失――』
⸻
『――管理権限異常――』
⸻
ゼロは、
静かに前へ歩く。
⸻
足音すらない。
⸻
だが。
⸻
彼が進むたび。
⸻
周囲へ、
世界が“再定義”されていく。
⸻
空間。
重力。
光。
⸻
全部。
⸻
ゼロ基準で、
書き換わる。
⸻
レオニードは、
理解してしまった。
⸻
この男。
⸻
“世界より優先されている”。
⸻
巨大存在が、
初めて後退した。
⸻
『――逸脱率、
危険域突破――』
⸻
『――管理者個体:
制御不能――』
⸻
『――最終封鎖承認――』
⸻
その瞬間。
⸻
何もない空間へ、
巨大な光輪が出現した。
⸻
無数。
⸻
世界規模術式。
⸻
いや。
⸻
術式じゃない。
⸻
もっと上位。
⸻
“世界修正機構”
⸻
レオニードは、
本能で悟る。
⸻
あれが発動すれば。
⸻
世界ごと消える。
⸻
文明も。
歴史も。
人類も。
⸻
全部。
⸻
“最初から無かったこと”になる。
⸻
巨大存在の声が響く。
⸻
『――世界初期化開始――』
⸻
その瞬間。
⸻
ゼロが止まった。
⸻
ほんの一瞬。
⸻
静止。
⸻
そして。
⸻
小さく、
目を閉じる。
⸻
レオニードは、
何故か思った。
⸻
疲れている。
⸻
この男は。
⸻
本当に。
⸻
どうしようもなく。
⸻
疲れている。
⸻
やがて。
⸻
ゼロが、
静かに口を開いた。
⸻
「……もういい」
⸻
その声だけ。
⸻
とても、
人間らしかった。
⸻
『――確認――』
⸻
巨大存在が応答する。
⸻
『――世界終了を承認するか――』
⸻
沈黙。
⸻
長い。
⸻
永遠みたいな沈黙。
⸻
そして。
⸻
ゼロが、
小さく笑った。
⸻
初めてだった。
⸻
レンカ達が見たこともない。
⸻
寂しくて。
⸻
どこか、
懐かしい笑い方。
⸻
「昔の俺なら、
そうしてた」
⸻
レオニードは、
意味が分からない。
⸻
だが。
⸻
ゼロは、
静かに空を見る。
⸻
何もない世界を。
⸻
そして。
⸻
小さく呟く。
⸻
「でも、
あいつに怒られる」
⸻
その瞬間。
⸻
ヤクモの顔が、
一瞬だけ脳裏へ浮かんだ。




