世界終焉
第二十五章
管理者
裂け目の奥。
巨大影が、止まっていた。
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白銀巨人達も動かない。
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帝国軍も。
空も。
海も。
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世界そのものが、
息を止めている。
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ゼロだけが、
前へ立っていた。
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ベルク山脈上空。
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黒衣の男。
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その背中は、
あまりにも小さい。
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なのに。
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裂け目の向こう側にいる、
“世界外の存在達”より。
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圧倒的に、
恐ろしく見えた。
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レオニードが、
震える声を漏らす。
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「……何なんだ、
あれは」
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返事はない。
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帝国軍兵士達は、
誰も動けなかった。
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数百万軍勢。
世界最大軍事国家。
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だが今。
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全員が、
ただの観測者になっている。
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その時。
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裂け目の奥から、
“声”が響いた。
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前とは違う。
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もっと。
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巨大。
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重い。
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『――確認――』
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『――識別完了――』
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『――管理者個体:
ZERO――』
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空が軋む。
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レオニードの頭へ、
激痛が走る。
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理解してはいけない。
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なのに。
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脳が無理矢理、
意味を理解させられる。
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管理者。
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個体。
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ゼロ。
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その単語だけで、
嫌な予感がした。
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裂け目奥の巨大影が、
ゆっくり輪郭を持ち始める。
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白。
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巨大。
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人型。
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だが。
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白銀巨人達とは、
比較にならない。
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存在密度そのものが違う。
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周囲空間が、
押し潰されている。
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山脈が崩れる。
空が割れる。
海が蒸発する。
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まだ半分も出現していない。
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それだけで、
世界が壊れ始めていた。
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帝国軍艦隊が、
次々沈黙していく。
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術式停止。
魔導炉停止。
観測系崩壊。
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レオニードは、
初めて理解した。
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これは戦争じゃない。
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災害でもない。
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“世界同士の衝突”
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だ。
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ゼロは、
巨大影を見ていた。
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感情のない目。
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だが。
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その奥にだけ、
微かな怒りがある。
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『――管理者個体:
逸脱確認――』
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『――世界維持プロトコル
違反――』
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『――再初期化を提案――』
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その瞬間。
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帝国軍全員の血の気が引いた。
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再初期化。
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意味は分からない。
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だが。
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本能だけが理解する。
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それは。
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“世界終了”
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を意味している。
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ゼロが、
静かに口を開いた。
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「断る」
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瞬間。
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世界が揺れた。
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轟音。
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空間崩壊。
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裂け目周辺数百キロの雲が、
一瞬で吹き飛ぶ。
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巨大影が、
初めて揺らぐ。
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『――拒否確認――』
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『――管理権限衝突――』
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『――再演算開始――』
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次の瞬間。
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白銀巨人達が、
一斉に動いた。
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帝国軍ではない。
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全部。
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ゼロへ向かう。
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数百。
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空を埋め尽くす白い群れ。
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その瞬間。
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レオニードは、
絶望した。
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終わる。
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こんなの、
止められるわけがない。
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だが。
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ゼロは動かなかった。
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逃げない。
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構えない。
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ただ。
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静かに立っている。
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そして。
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白銀巨人群が、
ゼロへ触れた瞬間。
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消えた。
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音もない。
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爆発もない。
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存在そのものが、
静かに消滅していく。
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一体。
二体。
十体。
百体。
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まるで。
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“世界が異物を消去している”
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みたいに。
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帝国軍全員が、
言葉を失った。
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ゼロは、
ただ前へ歩く。
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白銀巨人達が、
近づくだけで消える。
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世界が。
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ゼロを中心に、
正常化されていく。
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その姿を見て。
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レオニードは、
本能で理解した。
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終焉の覇者。
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違う。
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この男は。
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“世界を終わらせる者”じゃない。
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“終わった世界を、
片付け続けてきた者”だ。




