世界終焉
第二十四章
北方戦線
ヴァルグラン帝国北部。
ベルク山脈上空。
⸻
空が、壊れていた。
⸻
巨大空間断裂。
黒い穴。
⸻
その周囲では、
現実そのものが歪んでいる。
⸻
雲が途中で消える。
雷が停止する。
光が曲がる。
⸻
帝国軍第一・第二・第三空中艦隊。
総艦数、四百二十七。
⸻
世界最大軍事国家、
ヴァルグラン帝国。
⸻
その主力艦隊が、
北方空域を埋め尽くしていた。
⸻
空中戦艦。
超大型魔導砲。
対城殲滅術式。
飛行機兵群。
⸻
一国家戦争どころではない。
⸻
これは。
⸻
“世界防衛戦”
⸻
だった。
⸻
艦橋中央。
帝国北方総司令、
レオニード・ヴァルツは、
空を睨んでいた。
⸻
六十代。
隻眼。
⸻
数十年、
帝国最前線を生き抜いた怪物。
⸻
その彼が。
⸻
今。
⸻
震えていた。
⸻
「……何なんだ、
あれは」
⸻
裂けた空。
⸻
そこから、
白銀巨人達が降りてくる。
⸻
数十。
いや。
⸻
もう百を超えていた。
⸻
しかも。
⸻
問題は数ではない。
⸻
質量でもない。
⸻
存在そのものが、
この世界と噛み合っていない。
⸻
先程。
帝国軍は、
第一斉射を放った。
⸻
超大型魔導砲、
同時二百門。
⸻
国家級殲滅砲撃。
⸻
山脈を蒸発させる火力。
⸻
だが。
⸻
届かなかった。
⸻
砲撃が、
“途中で消えた”。
⸻
空間が繋がっていない。
⸻
法則が違う。
⸻
通常兵器が、
成立していない。
⸻
レオニードが、
歯を食いしばる。
⸻
「第二斉射準備!!」
⸻
艦橋内が動く。
⸻
魔力収束。
照準固定。
空間座標再計算。
⸻
だが。
⸻
その時。
⸻
白銀巨人の一体が、
ゆっくり腕を動かした。
⸻
次の瞬間。
⸻
帝国第七艦隊が、
消えた。
⸻
爆発ではない。
⸻
破壊でもない。
⸻
“消失”
⸻
空間ごと。
⸻
戦艦。
兵士。
魔力。
熱量。
⸻
全部。
⸻
そこだけ、
存在が削除された。
⸻
艦橋が凍る。
⸻
数万人。
⸻
一瞬だった。
⸻
誰も悲鳴すら上げられない。
⸻
理解が追いつかない。
⸻
その時。
⸻
観測術師が叫んだ。
⸻
「高次反応接近!!」
⸻
「何!?」
⸻
次の瞬間。
⸻
世界が静かになった。
⸻
風が止まる。
魔力が沈む。
空気が凍る。
⸻
レオニードが、
息を呑む。
⸻
知っている。
⸻
この感覚を。
⸻
昨日。
アーカディアで。
⸻
終焉の覇者が現れた時と、
同じだ。
⸻
黒い道が、
空へ走る。
⸻
裂けた世界を貫くように。
⸻
そして。
⸻
そこを。
⸻
一人の男が歩いてきた。
⸻
黒衣。
金色の片目。
⸻
ゼロ。
⸻
終焉の覇者。
⸻
帝国軍全艦隊が、
沈黙した。
⸻
敵味方関係ない。
⸻
全員。
⸻
本能で理解する。
⸻
“本物”が来た。
⸻
白銀巨人達が、
一斉に止まる。
⸻
初めて。
⸻
明確に。
⸻
恐れるように。
⸻
後退した。
⸻
レオニードの喉が震える。
⸻
あり得ない。
⸻
世界を壊している怪物達が。
⸻
ゼロを見て、
退いている。
⸻
その時。
⸻
裂け目奥。
⸻
巨大な“何か”が、
ゆっくり動いた。
⸻
白銀巨人達より、
遥かに巨大。
⸻
世界そのものが、
軋み始める。
⸻
観測術師達が、
同時に絶叫した。
⸻
「認識限界突破!!」
⸻
「計測不能!!」
⸻
「空間維持率崩壊!!」
⸻
レオニードは、
空を見上げた。
⸻
巨大影。
⸻
まだ完全には出ていない。
⸻
だが。
⸻
分かる。
⸻
あれが出れば。
⸻
帝国どころでは済まない。
⸻
世界そのものが終わる。
⸻
その時。
⸻
ゼロが、
初めて口を開いた。
⸻
裂け目の向こうへ。
⸻
「……お前か」
⸻
静かな声。
⸻
だが。
⸻
その瞬間。
⸻
巨大影が、
止まった。
⸻
まるで。
⸻
“ゼロを知っている”】
⸻
みたいに。




