ゼロ再び
第二十三章
北へ
「消す」
その一言で。
世界が震えた。
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空が軋む。
海が割れる。
大地が唸る。
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アーカディア全域の魔導術式が、
一斉に警報を鳴らした。
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『超高次魔力反応確認』
『危険域突破』
『計測不能』
『計測不能』
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術師達が倒れる。
観測装置が焼き切れる。
未来演算機関が停止。
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レンカは、
膝をついた。
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頭が痛い。
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違う。
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“世界そのもの”が、
悲鳴を上げている。
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ゼロは、
ただ北方を見ていた。
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黒衣。
静かな目。
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だが今。
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その背中だけで、
空気が裂けそうだった。
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グラウスが、
歯を食いしばる。
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「貴様……
何をする気だ」
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ゼロは答えない。
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その代わり。
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北方空間断裂側。
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白銀巨人達が、
初めて“後退”した。
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レンカが息を呑む。
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白銀巨人。
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世界を壊しかけた存在。
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観測者。
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その群れが。
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ゼロを見て、
退いている。
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アステリアが、
震える声で言う。
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「怖がってる……?」
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あり得ない。
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あの存在達は、
人類を見ていなかった。
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虫を見るみたいに。
数字を見るみたいに。
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感情がなかった。
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なのに今。
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裂け目向こうの群れが、
明確に動揺している。
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ヤクモが、
小さく笑った。
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「そりゃそうだ」
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レンカが振り返る。
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ヤクモの目は、
ゼロを見ていた。
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懐かしむように。
悲しむように。
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「昔から、
あいつ怒ると面倒だったし」
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その言葉。
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妙に、
日常的だった。
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まるで。
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“人類最終災害”を、
昔の友人みたいに語っている。
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その時。
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ゼロが、
空へ一歩踏み出した。
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瞬間。
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空間が割れた。
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転移ではない。
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空そのものへ、
黒い道が走る。
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北方大陸まで。
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一直線。
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レンカは、
本能で理解した。
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世界が、
ゼロのために道を作った。
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ミカエルが、
静かに目を細める。
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「……因果移動ですか」
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アステリアが首を振る。
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「違う」
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未来視保持者の声は、
震えていた。
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「空間移動じゃない」
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「世界座標を書き換えてる」
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沈黙。
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グラウスですら、
言葉を失う。
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それはもう。
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術式じゃない。
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世界操作。
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ゼロは、
振り返らない。
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ただ。
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北方へ歩いていく。
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その背中を。
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レンカは、
何故か寂しいと思った。
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一人だ。
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ずっと。
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この男は、
一人で歩いてきた。
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そんな気がした。
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その時。
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ヤクモが、
小さく呟く。
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「……また、
一人で行くのか」
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レンカが、
思わず振り返る。
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ヤクモは、
笑っていなかった。
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初めて見る顔。
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疲れ。
諦め。
後悔。
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全部混ざったような顔。
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そして。
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ほんの小さく。
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「今度こそ、
終わらせる気かねぇ」
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その声だけ。
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妙に、
怖かった。




