ゼロ再び
第二十二章
終焉の覇者
ゼロが現れた瞬間。
世界の空気が変わった。
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重い。
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違う。
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“静かすぎる”
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風が止まる。
雲が止まる。
魔力流が止まる。
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アーカディア全域。
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三千万都市そのものが、
息を潜めていた。
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レンカは、
呼吸するのも怖かった。
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今までとは違う。
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明らかに。
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ゼロの“温度”が違う。
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感情がない男。
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世界すら見飽きたような目をした存在。
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そのゼロが今。
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北方空を見ている。
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そこに。
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“敵”を見る目で。
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グラウスが、
低く呟く。
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「……何だ、その顔は」
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炎帝は理解していた。
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今まで。
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ゼロは、
誰も見ていなかった。
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人類。
国家。
戦争。
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全部。
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どうでもいいものみたいに。
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なのに今。
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北方を見ている。
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本気で。
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ヤクモが、
静かに言った。
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「来るね」
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レンカが震える。
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その声だけで、
嫌な未来を確信してしまう。
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次の瞬間。
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北方空。
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巨大空間断裂が、
さらに広がった。
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夜みたいな暗闇。
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その向こう側。
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白。
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無数の白銀巨人。
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そして。
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“それ”が動いた。
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裂け目奥。
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まだ完全には現れていない。
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巨大影。
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白銀巨人達より、
遥かに大きい。
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都市規模。
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いや。
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山脈規模。
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距離感そのものが、
壊れている。
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レンカの脳が、
認識を拒絶した。
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アステリアの未来視が、
再び強制起動する。
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見えてしまう。
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北方大陸。
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ヴァルグラン帝国北部。
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空が割れる。
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山脈が消える。
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帝国軍空中艦隊、
一瞬で消失。
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死ではない。
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“存在が削除されている”
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未来視の中。
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数百万。
数千万。
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人が消える。
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世界地図が、
白へ塗り替わる。
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アステリアが、
悲鳴を上げた。
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「止めないと……!!」
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グラウスが空を見る。
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帝国。
故郷。
国民。
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全部、
あそこにある。
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炎帝の熱量が爆発する。
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《神滅焦熱》。
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第二の太陽が、
空へ出現しかける。
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だが。
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ゼロが、
前へ出た。
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ほんの一歩。
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それだけで。
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グラウスの炎が、
沈黙する。
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炎帝が、
目を見開く。
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止められた。
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術式そのものを。
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ゼロは、
北方を見たまま言う。
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「お前達は動くな」
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静かな声。
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だが。
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それだけで、
全員動けなくなる。
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命令ではない。
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“世界が従わせている”
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ような感覚。
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ミカエルが、
静かに問う。
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「……あなたは、
何をするつもりです」
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数秒。
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沈黙。
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そして。
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ゼロが、
初めて感情を見せた。
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怒り。
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ほんの僅か。
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だが。
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世界が軋むほど、
重い怒り。
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「消す」
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その瞬間。
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北方空全域の雲が、
吹き飛んだ。
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海が割れる。
山脈が震える。
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アーカディアの術師達が、
同時に吐血する。
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ただ。
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ゼロが、
“殺意”を向けただけで。
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世界法則が、
耐えきれなくなっていた。
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レンカは、
震えながら理解した。
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これが。
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終焉の覇者。




