変わらぬ世界
第二十一章
北方崩壊予測
「……数が違う」
ヤクモの声は、
低かった。
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軽くない。
冗談でもない。
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本気。
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レンカの背筋へ、
冷たいものが走る。
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この男が、
焦っている。
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それが何より、
危険だった。
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アステリアは、
未来視を維持していた。
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だが。
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視界が壊れていく。
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北方大陸。
ヴァルグラン帝国。
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人口十八億。
世界最大軍事国家。
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その北部上空。
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巨大空間断裂。
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そして。
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白銀巨人群。
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無数。
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空を埋め尽くすほど。
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未来視の中で。
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帝国軍が、
迎撃を始めている。
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空中戦艦群。
魔導砲撃。
超大型術式。
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だが。
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効かない。
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白銀巨人達は、
空間そのものを無視して進んでいる。
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砲撃が届かない。
術式が曲がる。
重力が崩れる。
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まるで。
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“世界側の存在”へ、
人類法則が届いていない。
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グラウスが、
アステリアの肩を掴む。
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「どこだ!!」
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「帝国北部……
ベルク山脈上空……!」
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炎帝の熱量が爆発する。
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床が焼ける。
空気が震える。
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ヴァルグラン帝国。
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軍事国家。
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だが同時に。
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グラウスの故郷。
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帝都。
軍学校。
戦友。
部下。
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全部、
北方にある。
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グラウスは、
即座に動こうとした。
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だが。
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ヤクモが止めた。
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「待て」
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グラウスが振り返る。
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「何だ」
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ヤクモの目は、
珍しく鋭かった。
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「今行っても、
死ぬだけだよ」
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「貴様ァ……!!」
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熱量膨張。
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空中庭園が赤熱。
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レンカが呼吸を失いかける。
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だが。
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ヤクモは、
全く動じない。
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「落ち着けって」
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「帝国が消えるんだぞ!!」
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「だからだよ」
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初めて。
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ヤクモが、
明確に苛立った。
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グラウスが止まる。
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レンカも固まる。
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ヤクモは、
頭を掻いた。
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「数百体規模の観測者なんて、
想定より早すぎる」
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「普通なら、
まだ来ない」
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ミカエルが静かに聞く。
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「……何故分かるのです」
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ヤクモは答えない。
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いや。
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答えるまで、
少し時間がかかった。
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「見てきたから」
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その声だけ。
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妙に重かった。
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アステリアが、
未来視の中で震える。
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視える。
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白銀巨人達。
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その後ろ。
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さらに巨大な“何か”。
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まだ裂け目の奥。
完全には出ていない。
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だが。
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圧倒的。
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白銀巨人達ですら、
比較にならない。
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アステリアの未来視が、
悲鳴を上げる。
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「っ――!!」
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鼻血。
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未来視強制切断。
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彼女が倒れ込む。
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ミカエルが支える。
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「何を見た」
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アステリアは、
震える唇で言った。
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「まだ……
いる……」
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「何?」
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「向こう側に……
もっと大きいのが……」
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沈黙。
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グラウスですら、
息を止めた。
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その時。
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空が、
静かになった。
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風が止まる。
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魔力流が沈黙。
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ヤクモが、
ゆっくり空を見る。
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レンカも気づく。
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この感覚。
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知っている。
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ゼロ。
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終焉の覇者が、
動く時の空気。
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次の瞬間。
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空中庭園上空。
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黒い影が、
静かに現れた。
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ゼロ。
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誰も、
出現を見ていない。
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最初から、
そこにいたみたいに。
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黒衣。
金色の片目。
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感情のない目。
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だが今。
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ほんの僅かだけ。
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その目に、
“殺意”があった。
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レンカは、
初めて理解する。
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今までのゼロは。
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“本気じゃなかった”。




