変わらぬ世界
第二十章
変わらない世界
「人間って、変わらないんだよ」
その言葉は、
妙に静かだった。
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怒りじゃない。
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諦めでもない。
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もっと。
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長い時間の果てに、
削れ切った感情。
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レンカは、
何も言えなかった。
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空中庭園。
夜空。
修復光。
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世界は綺麗だった。
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だが今。
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その全部が、
薄く見える。
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もし本当に。
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世界が何度も繰り返されているなら。
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この空も。
この星も。
この文明も。
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全部。
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“何度目か”
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なのかもしれない。
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グラウスが、
低く言った。
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「……なら、
ゼロは何故生きている」
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「何故、
終わらせない」
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炎帝らしい質問だった。
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敵なら殺す。
脅威なら潰す。
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単純。
だから強い。
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ヤクモは、
少し考える。
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「どうだろうねぇ」
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「分からんのか」
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「本人じゃないし」
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軽い調子。
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だが。
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その目だけ、
少し遠かった。
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「ただまぁ」
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ヤクモは、
夜空を見る。
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「昔より、
かなり静かになった」
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レンカが聞く。
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「静か?」
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「昔は、
もっと怒ってた」
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風が吹く。
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ヤクモは、
少し笑った。
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「世界ぶっ壊して、
全部終わらせようとしてた時期もあるし」
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レンカの血の気が引く。
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冗談みたいな口調。
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でも。
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誰も、
冗談だと思えなかった。
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ミカエルが、
静かに目を閉じる。
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聖皇。
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人類を導く側の男。
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だが今。
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彼は初めて、
“人類の限界”を見ていた。
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もしヤクモの話が本当なら。
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ゼロは。
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世界を守り続けて、
壊れた。
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アステリアが、
震える声で言う。
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「……じゃあ、
あの人は敵じゃない」
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誰も答えない。
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その問いは、
重すぎた。
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ゼロは、
都市を落とした。
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だが。
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止めた。
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裂けた空を、
閉じた。
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白銀巨人を、
消した。
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敵なのか。
味方なのか。
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誰にも分からない。
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その時だった。
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アーカディア全域へ、
新たな警報が鳴り響く。
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『超長距離観測反応確認』
『北方大陸上空』
『繰り返します――』
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グラウスが顔を上げる。
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「北方?」
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次の瞬間。
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アステリアの未来視が、
強制起動した。
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視える。
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北方大陸。
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ヴァルグラン帝国北部。
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空。
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そこに。
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巨大な“穴”が開いていた。
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黒い円。
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空間そのものが、
抉れている。
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そして。
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その穴の向こう側。
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無数の白い影。
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並んでいる。
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レンカが息を呑む。
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白銀巨人。
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一体じゃない。
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何十。
何百。
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数え切れない。
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アステリアの顔色が、
完全に消える。
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「……嘘」
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未来視の先。
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北方大陸が消えていく。
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都市。
国家。
山脈。
海。
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全部。
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白へ塗り潰される。
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グラウスが、
初めて叫んだ。
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「帝国が……!!」
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その瞬間。
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ヤクモの笑みが、
完全に消えた。
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レンカは凍る。
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初めて見る顔だった。
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黒狐ヤクモ。
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数千年を生きた男。
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その男が。
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本気で焦っていた。




