変わらぬ世界
第十九章
長すぎた時間
誰も、すぐには喋れなかった。
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空中庭園。
夜風。
遠くの修復光。
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世界は、
いつも通り動いている。
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なのに。
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空気だけが、
決定的に変わってしまっていた。
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文明をやり直す。
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世界を再演算する。
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観測者。
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そして。
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繰り返される世界。
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レンカは、
頭が追いつかなかった。
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理解不能。
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だが。
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本能だけが、
叫んでいる。
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“聞いてはいけない話だ”
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グラウスが、
低く口を開く。
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「……つまり何だ」
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炎帝の声は、
わずかに掠れていた。
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「世界は、
何度も滅んでいると?」
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ヤクモは答えない。
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酒瓶を揺らす。
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中身は、
もうほとんど空だった。
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ミカエルが静かに聞く。
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「あなたは、
何を知っているのです」
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ヤクモは、
少し困ったように笑う。
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「知ってるっていうかねぇ」
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その笑みが、
妙に弱かった。
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「長く見すぎただけだよ」
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レンカの背筋へ、
寒気が走る。
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まただ。
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この男。
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時々。
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“人間の時間感覚”で喋らない。
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アステリアが、
ゆっくり顔を上げた。
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未来視暴走のせいで、
瞳が赤く充血している。
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「……ゼロは」
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彼女の声が震える。
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「何なんですか」
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沈黙。
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ヤクモは、
空を見る。
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星。
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無数の光。
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遠い月。
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そして。
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ほんの少しだけ、
目を細めた。
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「さぁ」
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小さく笑う。
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「本人に聞けば?」
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グラウスが怒鳴る。
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「ふざけるな!!」
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熱量が爆発。
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周囲温度急上昇。
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修復術師達が、
遠方で悲鳴を上げる。
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だが。
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ヤクモは、
微動だにしない。
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炎帝が睨む。
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「貴様は、
恐怖がないのか」
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数秒。
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沈黙。
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その質問だけ。
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妙に重かった。
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ヤクモは、
少しだけ考える。
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そして。
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「あるよ」
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静かな声。
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全員が固まる。
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初めてだった。
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ヤクモが、
ゼロを恐れていると認めた。
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レンカが息を呑む。
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だが。
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ヤクモは続ける。
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「でもねぇ」
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酒瓶を空へ向ける。
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「怖いっていうより、
もう見てられないんだよ」
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その言葉だけ。
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妙に、
悲しかった。
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アステリアが、
震える声で聞く。
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「……何を」
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ヤクモは答えない。
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いや。
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答えられなかった。
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長い沈黙。
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風だけが吹く。
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やがて。
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「昔さ」
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ヤクモが、
ぽつりと呟く。
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「ゼロって、
もっと人間っぽかったんだよ」
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空気が止まる。
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レンカが、
目を見開く。
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グラウスも。
ミカエルも。
アステリアも。
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全員、
言葉を失った。
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ゼロ。
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終焉の覇者。
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世界法則すら歪める存在。
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あれが。
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“人間っぽかった”?
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ヤクモは、
遠くを見る。
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昔を見ていた。
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「笑ったり」
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「怒ったり」
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「馬鹿やったり」
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「まぁ、
普通に生きてた」
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その声は、
あまりにも自然だった。
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まるで。
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本当に、
昔の友人を語るみたいに。
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レンカが震える。
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この男。
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本当に。
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“ゼロと同じ時代”を知っている。




