終焉の覇者
第二章
終焉の覇者
最初に異変へ気づいたのは、議場ではなかった。
アーカディア全域。
三千万の住民達だった。
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空中列車が止まる。
浮遊航路が沈黙する。
街区照明が消える。
魔導昇降機が停止。
空中庭園の制御術式が落ち、
巨大樹が根元から傾き始める。
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そして。
都市全体が、ゆっくり沈み始めた。
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数秒遅れて。
悲鳴。
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アーカディア全域へ、
非常警報が鳴り響く。
『緊急事態――』
『浮遊炉心停止――』
『全住民は直ちに――』
そこで放送が途切れた。
魔力通信そのものが死んだ。
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都市が傾く。
巨大建造物が軋む。
窓ガラスが割れる。
空中道路から無数の車両が落下し、
雲海へ吸い込まれていく。
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議場も激しく揺れた。
レンカが倒れそうになる。
ヤクモが片手で支える。
「っと」
「筆頭!! 何が起きてるんですか!?」
ヤクモは答えない。
ただ外を見ていた。
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巨大硝子壁の向こう。
空中都市外縁。
雲海の上。
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そこに。
黒衣の男が立っていた。
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誰も、
彼がどうやって空中へ立っているのか理解できない。
翼もない。
足場もない。
飛行術式もない。
なのに。
彼は空へ立っていた。
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片目だけ金色。
黒衣。
腰に一本の剣。
それだけ。
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なのに。
議場全員が理解する。
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終わった。
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グラウスが、
人生で初めて汗を流していた。
炎帝。
単独で国家群を焼き滅ぼした怪物。
その男が。
本能的恐怖で、
一歩後退していた。
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「……ゼロ」
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その名を、
ミカエルが静かに口にした。
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空気が重い。
違う。
空気そのものが、
“存在を拒絶”している。
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魔力が流れない。
術式が成立しない。
世界法則そのものが、
ゼロ周辺だけ崩れている。
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アステリアが、
震える声を漏らした。
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「未来が……ない」
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彼女の未来視は、
数千分岐を同時観測する。
その彼女が。
ゼロ周辺だけ、
何も見えない。
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いや違う。
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“未来そのものが存在しない”
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アステリアは理解した。
これは人類ではない。
生物ですらない。
もっと根本的な、
何か。
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レヴィアの分身体が揺らぐ。
水が維持できない。
深海王は低く呟いた。
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「海が怯えている」
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誰も意味を理解できなかった。
だがレヴィアは本気だった。
深海生物達が、
一斉に海底へ逃げている。
超大型海魔ですら、
浮上を拒絶している。
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ミカエルが、
静かにゼロを見る。
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「あなたは何者ですか」
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ゼロは答えない。
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都市崩壊を見ている。
人々の悲鳴。
崩れる塔。
落下する飛行艇。
泣き叫ぶ子供。
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全部を、
ただ見ている。
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そこに感情はない。
怒りも。
憎しみも。
慈悲も。
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まるで。
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「何度も見た光景」
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のようだった。
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グラウスが歯を食いしばる。
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「貴様ァ……!!」
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炎が爆発する。
議場温度急上昇。
本来なら都市区画ごと蒸発する熱量。
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帝国最終殲滅術式。
《神滅焦熱》。
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巨大火球が空へ出現する。
第二の太陽。
大気が赤熱する。
雲海が蒸発。
都市下層の海面すら沸騰を始める。
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レンカが絶句した。
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これが。
人類最強格。
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国家戦力。
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グラウスが吠える。
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「消えろォォォ!!」
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次の瞬間。
火球が消えた。
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爆発ではない。
防御でもない。
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“消失”
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そこにあった超高密度熱量体が、
存在ごと消えている。
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グラウスが固まった。
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あり得ない。
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《神滅焦熱》は、
山脈を蒸発させる。
海を割る。
国家を焼く。
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それを。
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何もせず消した。
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ゼロは、
グラウスを見てもいない。
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ただ。
静かに、
崩れる都市を見下ろしていた。
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そして。
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「……変わらないな」
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小さな声。
感情のない声。
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だが。
その瞬間。
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アーカディア中央魔導炉、
完全停止。
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都市落下速度急上昇。
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警報。
崩壊。
悲鳴。
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人口三千万の都市が、
空から落ちていく。
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ミカエルが叫ぶ。
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「まずい!!」
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アステリアが青ざめる。
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「このまま落ちれば、
下層都市群が消える!!」
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アーカディア下層には、
複数の中立交易都市が存在する。
総人口。
二億超。
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都市落下だけで、
国家級災害。
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さらに。
中央浮遊炉。
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もし炉心暴走すれば。
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半径八百キロ蒸発。
死者予測。
数億。
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レンカが震える。
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「こんなの……
止められるわけ……」
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その時。
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ヤクモだけが、
妙に静かだった。
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酒を飲む。
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「やれやれ」
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グラウスが睨む。
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「何がおかしい」
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ヤクモは、
窓の向こうを見たまま言う。
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「別に」
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「いつも通りだなぁって」
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その言葉だけ。
妙に、
古かった。




