白銀の巨人
第十六章
再演算
空が、止まっていた。
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裂け目。
白銀の巨人。
世界を押し潰していた重圧。
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その全部が、
静止している。
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ゼロの一言で。
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誰も動けなかった。
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グラウスですら、
息を呑んでいる。
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炎帝は理解していた。
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今までのゼロは、
まだ“人類側の延長”だった。
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強い。
異常。
法則外。
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だが。
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まだ“存在”として理解できた。
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しかし今。
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違う。
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世界そのものが、
ゼロへ従っている。
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命令ではない。
支配でもない。
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もっと自然。
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まるで。
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「それが当然」
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みたいに。
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白銀巨人の“黒い穴”が、
ゆっくりゼロへ向く。
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顔はない。
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なのに。
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全員が感じた。
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見られている。
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レンカの全身へ、
鳥肌が走る。
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その瞬間。
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再び“声”が響く。
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『――観測対象確認――』
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『――管理権限照合――』
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『――識別コード――』
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言葉。
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今度は、
少しだけ意味が分かる。
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だが。
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それが逆に恐ろしかった。
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管理。
権限。
コード。
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まるで。
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世界そのものが、
人工物みたいな言葉。
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アステリアが震える。
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未来視が、
断片だけ映していた。
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巨大構造物。
終わった文明。
光の海。
無数の黒い空。
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そして。
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空へ浮かぶ、
“別の世界”。
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アステリアは、
吐き気を覚えた。
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これは。
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見てはいけない。
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その時。
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ゼロが、
白銀巨人へ歩き出した。
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空中を。
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足場もない。
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なのに。
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彼が進むたび、
裂けた空間が安定していく。
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空間断裂が、
修復されている。
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ミカエルが、
小さく呟く。
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「閉じている……?」
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レンカが振り返る。
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「え?」
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ミカエルの顔は、
青ざめていた。
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「彼が歩いた場所だけ、
世界が正常化している」
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つまり。
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世界崩壊現象より。
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ゼロの存在の方が、
優先度が高い。
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その異常さへ、
全員が気づき始めていた。
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白銀巨人が、
ゆっくり腕を動かす。
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空間が軋む。
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その動きだけで、
アーカディア全域へ衝撃波。
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超高層塔群が揺れる。
雲海が吹き飛ぶ。
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レンカが叫ぶ。
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「っ……!!」
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だが。
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ゼロが、
右手を上げた。
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それだけ。
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その瞬間。
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白銀巨人の動きが、
完全停止する。
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凍結。
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時間停止ではない。
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もっと根本的。
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“動作権限そのものが奪われた”
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ような静止。
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そして。
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ゼロが、
初めて感情らしいものを見せた。
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ほんの僅か。
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面倒そうに。
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「帰れ」
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小さな声。
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だが。
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その瞬間。
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白銀巨人の身体へ、
無数の亀裂が走った。
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空間ごと砕ける。
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裂け目が崩壊。
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世界の傷が、
閉じ始める。
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『――警告――』
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『――再演算不能――』
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『――管理権限衝突――』
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巨人の声が、
初めて乱れた。
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ノイズ。
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悲鳴にも似た、
電子的破裂音。
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そして。
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白銀巨人が、
消えた。
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存在ごと。
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裂けた空も、
閉じる。
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青空が戻る。
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風。
雲。
光。
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全部。
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何事もなかったように。
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アーカディアへ、
日常が戻る。
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だが。
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誰一人、
安心していなかった。
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なぜなら。
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今。
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全員、
理解してしまったから。
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ゼロは。
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“終焉”じゃない。
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もっと別の。
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“世界側の存在”だ。




