アーカディア上空
第十四章
空の裂傷
警報が鳴り止まない。
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『第一種観測異常確認』
『全住民は屋内へ避難してください』
『繰り返します――』
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アーカディア全域が騒然となる。
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人々が空を見上げていた。
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裂けている。
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青空が。
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巨大な黒い亀裂。
空の中央を横断するように、
ゆっくり広がっている。
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雲が歪む。
光が乱れる。
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そして。
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星が見えた。
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昼空のはずなのに。
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裂け目の向こう側。
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夜空のような暗闇。
無数の星。
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だが。
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何かがおかしい。
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レンカは、
その違和感へ気づけなかった。
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だがヤクモは、
静かに目を細める。
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「……おいおい」
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珍しく。
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本当に珍しく。
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困ったような声だった。
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レンカが叫ぶ。
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「な、何なんですかあれ!?」
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ヤクモは答えない。
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その目は、
裂けた空へ固定されている。
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そして。
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小さく呟いた。
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「早すぎる」
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その時。
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空の裂け目が、
脈打った。
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瞬間。
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アーカディア全域の魔力灯が消える。
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再び。
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都市機能停止。
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人々の悲鳴。
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昨日と同じ。
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いや。
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もっと悪い。
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空気が違う。
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重い。
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都市全体へ、
見えない圧力が降りてきていた。
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レンカが膝をつく。
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「っ……!」
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呼吸が苦しい。
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高密度魔力圧。
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いや。
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違う。
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“世界そのもの”が、
軋んでいる。
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ヤクモだけが、
立っていた。
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その時。
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空の裂け目から、
何かが現れた。
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巨大。
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白い。
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人型。
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雲海より遥か上。
裂けた空の向こう側。
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そこへ。
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白銀の巨人が、
立っていた。
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人の形。
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だが。
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大きさが違う。
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数千メートル級。
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いや。
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距離感が狂う。
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存在そのものが、
現実感を拒絶している。
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レンカは、
本能で理解した。
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見てはいけない。
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あれは。
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人間が認識してはいけない。
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巨人の顔には、
何もない。
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目も。
鼻も。
口も。
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ただ。
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白い仮面のような面。
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その中心。
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黒い穴だけが、
アーカディアを見下ろしていた。
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瞬間。
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都市全域の人間が、
同時に耳を押さえる。
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声。
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頭の中へ、
直接何かが流れ込んでくる。
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意味不明の音。
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言葉にならない声。
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レンカが悲鳴を上げる。
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「ぁ……あ……!!」
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脳が軋む。
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理解できない。
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なのに。
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“何かを理解させられる”
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感覚。
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その時。
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世界が、
静かになった。
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空気が変わる。
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重圧が消える。
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ヤクモが、
ゆっくり空を見る。
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そこに。
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黒衣の男が立っていた。
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ゼロ。
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終焉の覇者。
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裂けた空の前。
白銀巨人の正面。
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たった一人で。
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その瞬間。
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巨大存在が、
止まった。
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アーカディア全域が、
息を呑む。
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ゼロは、
白銀巨人を見る。
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感情のない目。
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そして。
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初めて。
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ほんの僅かだけ。
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眉をひそめた。
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ヤクモが、
小さく笑う。
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「……あーあ」
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レンカが震える声で聞く。
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「筆頭……
あれは何なんですか」
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ヤクモは、
裂けた空を見たまま答えた。
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「さぁね」
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そして。
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珍しく。
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本当に珍しく。
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笑わずに続ける。
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「でも、
あれが出るのは……
かなりまずい」




