じゃけぇ、神輿から降ろすんじゃ2
オサフネを乗せた神輿が、担ぎ上げられた。
「わっしょい! わっしょい!」
男たちのかけ声とともに、神輿がぐらりと揺れる。オサフネは台座の上で、必死に体勢を保った。
「揺らすな! 落ちるじゃろうが!」
「ネキ、しっかり掴まっといてや!」
「掴まる場所がないんじゃ!」
電線のウミネコたちが、いっせいに首を伸ばした。
『さあ神輿が動き出したァァ――ッ!! ここで頭道名物、信仰発電の説明だァ――!! 神輿をわっしょいすればするほどォ、みなさまの信仰がァ、電気に変わるゥゥ――ッ!! これぞ頭道古来のゥ、世界にひとつだけのォ、エコでクリーンな発電システムゥゥゥ――ッ!!』
「古来? 今年が第一回じゃないんか?」
と、オサフネがツッコんだが、ウミネコには届かなかった。
だが、ウミネコの言うことは本当だった。
神輿が揺れ、人々が「わっしょい」と声を張り上げるたび、ほのかな光の粒が立ちのぼりはじめた。
淡い金色の光だ。祭りの熱気と、人々の「楽しい」「ありがたい」という気持ちが、目に見える形になったもの――信仰の力だった。
光の粒はふわふわと宙に舞い、通りの上空に張り巡らされた一本の光の線へと吸い込まれていく。線は、ずっと先――港のほうへと伸びていた。
「これが、信仰発電か」
神輿の上で揺られながら、オサフネは呟いた。
「そうですよ」
神輿のそばを歩く結衣が見上げた。手には牡蠣の浜焼きを持っている。
「みんなでわっしょいすると、楽しい気持ちが信仰の力になって、電気みたいに集まるんです。その電気が、港のドローンの神さまたちに充電されるんですって」
「ずいぶん都合のいい仕組みじゃのぅ」
「充電が満タンになったら、ドローンの神さまたちがいっせいに空を飛ぶんです。それが今年の目玉なんですよ」
「お主、説明しながら牡蠣を食うな」
「おいしいですよ、これ」
「……まあ、よい」
神輿は通りをゆっくりと進んでいく。沿道の人々が、神輿の上のオサフネを見て、わっと沸いた。
「見て、ジト目幼女ネキが出てくださっとる!」
「今年は神様が直々に神輿に! こりゃご利益あるで!」
「ネキー! こっち向いてー!」
「ワシは神輿ではない……ワシは神輿ではない……」
オサフネはもはや、抗議する気力も失せていた。
ぶつぶつと念仏のように繰り返しながら、揺れる神輿に耐えている。
それでも、神輿が進むにつれ、人々の信仰の光はますます強くなっていった。
神様が乗っているというだけで、人々の気持ちが高ぶるのだ。
光の粒は洪水のように立ちのぼり、上空の光の線へと吸い込まれていく。
『おおっとォ――!? 信仰発電メーター、ぐんぐん上昇中ゥゥ――ッ!! 神様神輿の効果は絶大だァァ――ッ!! これは記録更新の予感ンンン――ッ!!』
「降ろせ……もう降ろせ……」
「ネキ、今日はえらい気合い入っとるのぅ!」
「気合いではない! 本気で降ろせと言うとるんじゃ!」
「えー、もっとやってくれや!」
「人の話を聞け!!」
◇
神輿の行列が、港に着いた。
港には、すでにいくつもの神輿が集まっていた。
どの神輿からも、担ぎ手たちの信仰の光が立ちのぼり、港の上空でひとつの巨大な光の渦になっている。
その渦が、岸に整然と並んだ無数のドローンへと、滝のように降り注いでいた。
ドローンの数は、数千。
港いっぱいに、びっしりと並んでいる。一つひとつが、手のひらほどの大きさの、銀色の機体。そのすべてが、頭道の神――ドローンの神々だった。
「うわぁ……すごい数」
結衣が目を丸くした。
信仰の光を浴びるたび、ドローンたちの機体に、ぽつ、ぽつ、と小さな灯がともっていく。充電されているのだ。一つ、また一つと光が増えていき、港全体が星をちりばめたように輝きはじめた。
『充電、順調ゥゥ――ッ!! 信仰発電、過去最高値を記録ォォ――ッ!! いや、第一回だから当然なんですがァ、とにかくすごいィィ――ッ!!』
「最後、自分で突っ込んだな」
と、オサフネ。
やがて、すべてのドローンに、満タンの灯がともった。
港が、しん、と静まりかえる。
人々が、固唾をのんで空を見上げた。
そして――数千のドローンの神々が、いっせいに、宙へと浮かび上がりはじめた。
無言だった。音もなく、ただ静かに、銀色の機体が夜空へと昇っていく。
一つひとつの灯が、夜の闇に吸い込まれて、まるで地上から星が生まれて空へ還っていくようだった。
「きれい……」
結衣が、浜焼きを持つ手を止めて、見とれた。
町中の人々が、神様たちが、空を見上げていた。
数千の光が、夜空にゆっくりと広がっていく。
それは、頭道がはじめて見る、信仰の光の祭りだった。




