22 婚姻届けと孤児院
腫れが引き始めた顔に湿布を当てながら、同じく素敵な顔になっているわが一蓮托生の仲間であるガラハドと向かい合う。
財布から、金貨を6枚。今回の収入が金貨11枚と銀貨18枚だから、半分以上という事だ。
「あいにく、この件に関してはどうすりゃいいかわからないから、そっちで何とかしてくれ」
その件とは当然、二人の結婚についてだ。
ドワーフ社会において、婚姻は重要な問題だ。社会的立場のある家族となる。社会的には成人になる位の意味がある。
通常、ドワーフ市民を管理する氏族に結婚の許可をもらうのだが、トレジャーハンターに関しては、特例が必要となる。
トレジャーハンターという一家ができるため、その管理を一氏族の管理下に置くことができないのだ。その為に、カザル=ボーダーの全氏族の管理下という、他の市民とは一段高い扱いで結婚することになる。
トレジャーハンター組合で、婚姻の申請をして、カザル=ボーダーのトレジャーハンターを管理する有力な五氏族に付け届けをして、初めて許可が下りるのだ。
ちなみに、この金貨6枚は費用全額ではなく、最初の手付金である。家族という社会体制を維持するために、これから継続的に一定額を支払っていく事になるのである。
ちなみに、世間一般ではこれを人頭税といいます。
トレハン組合への実績の計上は必要なくなったのに、支払う経費は増えたぞ。
ワ~イ。コレデ僕達モ立派ナかざる=ぼーだーノ市民ダ~。
ガラハドとドリスが組合に行ったので、オレも宿屋を出る。
新しい住居(仮)も決まりそうなので、この宿屋を使うのもあと何回か。受付で昼寝している女将さんの前を静かに通り抜けて外へ。
銅貨十数枚で屋台で軽食を買う。キノコの傘にソーセージを挟んだホットドックもどきだ。
発熱材の関係か、屋台の食べ物は、焼き鳥のような火であぶるのではなく、鉄板焼きが基本である。
ソーセージだけでなく、キノコにも火を通しているので熱々だ。
ついでに、別の屋台で甘い菓子を購入。
そのまま、脇道に入り、枝道を人気のない方へ、人気のない方へ。
スラムの方へと進んでいく。周囲から様子をうかがう視線を送られるが、オレの髭が市民階級を表しており、腰に青銅の手斧を下げているのがわかると、面倒事は避けるように視線は消えていく。
そのまま、見知った道を通り、その一番奥にあるドアを開ける。
「よう。ローセ」
「セージ兄さん」
玄関を開けて孤児院に入ると、中で編み物をしていた女のドワーフがやってくる。
もちろん、顔見知りだ。オレより2歳年下のドワーフ。孤児のローセだ。この時間、基本的に孤児の多くは、雑用仕事などで小銭を稼いだりしている。
繕い物や裁縫の手伝いもその一つで、そう言った事からドワーフの女子は、編み物などの技術を学ぶ。
「院長は?」
「奥だよ。いつもどおり内職してる」
「ほれ、コレをチビどもに配ってくれ。公平にな」
そういって、手に持ったお菓子の袋を渡し、別に数枚の銅貨を一緒に渡す。こっちは、ローセの小遣いだ。
少し意外そうに、手に載せられた銅貨を見ていたが、ニコリと笑って、それをポケットに入れる。
「セージ兄さんはトレジャーハンターになったの?」
オレの結われたヒゲを見ながら、ローセが聞いてくる。
「ああ、まだ駆け出しだがな」
「…大変?」
「…」
さらっと出た疑問だが、なかなかに深い質問だな。
「…まあね」
あいまいに笑っておく。
「無理はしないでね。応接室に行っていて。院長先生呼んでくるから」
それ以上つっこんだ質問もなくローセは院長を呼びに奥へと引っ込んだ。
「セージ君」
狭い応接室に院長が入ってくる。相変わらずの薄い髪の毛だ。こちらを見ると、いつもの疲れている顔をほころばせる。
「どうも」
「ああ、大変なようだね」
オレのシップだらけの顔と、左腕を固定している粘土を見て、院長は眉間にしわを寄せる。
いいえ違います。コレは騎士団でのケンカ騒ぎのせいです。
「まあ、それに見合うものはありますよ」
そういって、結われたヒゲを手でもてあそぶ。市民の証だ。
「そうか。おめでとうと言うべきなんだろうね」
少しだけうれしそうに笑う。
「で、今日の用事ですが・・・」
そう言って、懐から小さな袋を取り出して机に置く。
「これは?」
いぶかしみながらも、袋を除く。
中は銀貨だ。全部で100枚。金貨一枚分だ。
驚いたように顔を向ける院長。
「銀貨100枚あります。お納めください」
「こんな大金を」
「トレジャーハンターなら、無理ではない額ですよ。このヒゲは伊達じゃないんです」
院長はしばし、こちらをじっと見た後。納得するように視線をはずすと、銀貨の袋を懐に仕舞う。
「分かった。セージ君。ありがとう。大事に使わせてもらうよ」
院長の言葉に、心の中で安堵の息を吐く。
本当に偽善だ。確かに孤児院には愛着もある。院長にも恩がある。だが、オレが寄付に来たのは、それだけじゃない。
望んで入った世界ではあるが、オレはあの時、死に掛けた。目の見えない状況で地面に転がり、稼動機の攻撃で文字通り死にかけたのだ。あの状況で次弾の発射が早かったら?
視界の効かない状況で、射線から逃げようとはいずって移動しても、その方向が間違っていたら?リースが引っ張り上げてくれなかったら?
何もしていないで死ぬような気がしたのだ。何も残せず、満足することも出来ず。志半ばで力尽きる。
きっかけは欲だ。そして、もう後戻りできなくなっている。他の道なんてない事も理解している。自分で選んだ道だ。責任は全部自分にある。
だが、それでも…
自己満足であっても、何かを残したいと思ったのだ。孤児院に金を出すことで、孤児たちに少しでも何かした。そういった満足感が欲しかったのだ。
別に悪い事をしているわけでもないのに、軽い自己嫌悪に落ちつつ、話を切り上げる。玄関まで見送りに来て院長が口を開いた。
「セージ君」
「?」
「ウチには騎士団にいく子も多い。中には、いろいろ考えて、セージ君みたいに来る子もいる。だから、コレだけは言わせてくれ」
「…」
「私は忘れないよ。ここを経営して150年。みんな私の子供みたいなものだからね」
「…」
「また、顔を見せなさい」
「はい」
院長の言葉に、深く頭を下げて孤児院を出る。
…全部お見通しか。
人生経験が段違いで、しかも似たような境遇の孤児数百人の親だ。勝てるわけないか。
納得するような、恥ずかしいような、そんな感覚を覚えるが不快じゃない。
とりあえず、明日からまたがんばりますか。




