自由よりも、安心が欲しい。 〜Underage〜
ここは誰もいない筈のキッチン。
そこにうずくまって動かない少女が居た。妙に緊張で気が張っているように見える。少し震えているようだ。
『ぃつまでここにいる気だい?』
「黙って、悪魔。このタイマーが鳴ったら動くって言ったじゃん」
『そおタイマー、電池きれてるけど?』
「知ってる...そんなこと...」
少女は3日ほど前からこの悪魔とだけ会話している。悪魔の容姿はテッポウウオと言ったところ。しゃくれがよく効いてるせいで、少し聞き取りづらい。明らかに口周りと眼、体表がヒトのソレである。
『さっき、エントランスの方から大きな音がした。その後い隣の食料品コーナーでも爆音がした。きっと天使が動いたか、何か起きてぃる筈だ』
「うん」
『このまま何もしないのかぃ?』
「何かして、嫌な目に遭うの嫌だし」
『何かしないと、どぅにもならないと思うけどね』
「何かして、悪いことがあったら私のせいになるじゃん」
『...じゃあ、このまま座して待つ、ト』
「うん...」
彼女はトキラメクルネーム、"二者択一"。3日ほど前から時に身を任せ、ここに居る。
***
前回までのあらすじ。
お茶会の主催者、音向 愛子からの
任務により巨大デパート「2 HEAVEN」へと
向かう御伽少女達の
"臆病者"こと 赫鳳 徹子、
"音盤"こと 二色 美端、
"構え太刀"こと 丘六 緋羽夢の三人。
実に残念なことに今回は最強のトキラメクル
泡沫の夢の力を借りることができない!
そんな三人の前にドレスの天使が現れる!様子を伺っていたその時、一人のトキラメクルが乱入してきた!!
"俗物"を名乗る沼 三二の活躍が見られるかと思いきや、即ピンチでミンチ!!
果たして、三人の運命は!?!?
***
場面はドレスの天使から逃走したところから始まる。
「ぜぇーゼェーゼee...じ、死ぬかとおもっ...た」
「はぁー、はぁ、あの天使が2階より大きいサイズなのが助かりましたね...」
「それに、二色さんが気が付かなかったら、あと二回は刻まれていました...ありがとうございます」
そう、あのドレスの天使は2階よりも高い背丈をしていた。よって、吹き抜け構造さえ抜け出せれば煙に巻くことができたのであった。それに二色 美端が気が付き、入り組んだ構造を抜けてここに逃げ込んだという訳である。
尚、この逃走劇の間に赫鳳 徹子は三回刻まれている。が、テンポの関係上、省略。
ちなみに、これ以上天使が稼働することを避けるのと、ラメの消耗を抑える為に三人とも変身は解除してある。
「フゥー。てか、ココどこ?」
伸びをする丘六 緋羽夢。
「パッと見、キッチンですかね。食材コーナーが近かったので、そこに出す為の加工用かな、と」
「なんか、仰々しいですね...さっきの光景思い出すのでやめて欲しいんですけど」
赫鳳 徹子は実はホラー映画ファンであり、よく休日に独りでホラー映画鑑賞会を開いている。その際に見たホラー映画の冒頭のシーンに、鶏がチキンナゲットに加工される描写があるのだが、それが妙に印象に残っていた。
「まぁ、私たちが普段してた食事ってのは、"命の臭い"を隠してるもんだからね。それが剥げれば、食事は命のやり取りしてるわけだから。見ようによっちゃここは死体損壊現場よな」
「丘六さんって、そんなこと考えきれるんですね」
二色 美端にすぐ突っ込まれた。
「哲学専攻って言ったじゃん。命の話はしてきたよ」
「覚えてましたけど。普段の行いが非道過ぎて疑ってました」
全力で首を縦に振る赫鳳 徹子。
「おっかしぃーなぁー。信用は積み上げたと思ったんだけどなぁ」
「...白々しい」
二色 美端の追及が続いたので、
「手厳しィ。てか、2人ともグロ耐性強め?全然平気そうじゃん?私が言えたことじゃないけど」
と、丘六 緋羽夢は話をそらす。
「えっと、私はホラー映画とかよく見るので」
「え?臆病者なのに?」
「自分でつけた訳じゃないですの、で、!」
強調して言う赫鳳 徹子。
「私は解剖とか、実験でやってたので。ラメのせいか、演出も入ってたので、まぁ。ホラー小説は読みますし、映画も見るので」
二色 美端が続いた。
「正直、私も俗物さんに思い入れないからなぁ。そんな来なかったというか。ホラー映画でもっとえぐいのあるし...あまりにもアレすぎて実感湧かないよなぁ」
「...皆さん、ホラー映画みるんですか?」
赫鳳 徹子が少し期待を込めて聞く。
「私は有名なやつは」
「結構、文学的な作品も多いので見ます」
丘六 緋羽夢と
二色 美端が答える。
「え!例えば何見ますか!?」
「私、アレ好きだったなぁ。幽霊が強い身体を求めて、次々に乗り移るヤツ。強い身体を求めるから、今の肉体を酷使するんよなぁ〜。『どれ程まで堪えられるかな?』って言いながら有り得ないチャレンジするときの描写が良かったわぁ〜」
赫鳳 徹子の眉がピクつく。
「あの作品いいですよね!元人間なのに幽霊になったせいで倫理観が...ちょっと待ってください、丘六さんの能力ってなんですか?私を盾にするとか言ってましたけど」
「あちゃーやっちった。忘れることも、いいことだよ?流さない?」
「誤魔化さず言ってください」
二色 美端は逃がさない。記録媒体越しからでもわかる冷たい視線を送る。
「仕方ないなぁ...」
渋い顔で説明を始める丘六 緋羽夢。
「私の能力は"以下省略"。見ての通り切断系☆」
「レーザーカッターだから刀身が光ってるんですか?」
「そうそう、多分ね。最初はちゃんと刀身があったんだけど、使っていくうちに光だけになってきたんよ、だんだんね」
そう言って丘六 緋羽夢は自身の刀を抜いて見せる。
その刀身はほぼ光で象造られており、SF作品でよく見る光の刃のようになっている。レーザーが出ている範囲が刃渡りとなり、熱切断する例の武装である。SFの世界観で殺陣を魅せることができる為、様々な作品に登場するソレだ。
「一応、刀身の中央には金属片?みたいなのがありますね」
二色 美端が指摘する。
「そうそう。これがだんだん削れて、光の部分が増えてるんよ」
ススキの葉の葉脈のように芯となる部分には金属が残っている。その金属が、三日月状の光る粒子となって欠けていき、段々と光の刃となる。という流れのようだ。
「その光の剣を作るのが丘六さんの能力なんですか?」
それなら、アナタも前衛しろ
という顔の赫鳳 徹子。
「やだなぁ〜徹子ちゃん。それだったら私が出張らないといけなくなるじゃーん。逆逆。私の以下省略は後衛向け。相手と距離を取って成立する能力なんよ」
そう言って丘六 緋羽夢は刀身を鞘に収めた瞬間、丘六 緋羽夢の目線の先にあったロッカーの扉が"斬り"裂かれた。
「「ッ!?!?」」
「あー違う違う。変身しないで〜。ここでラメ消費したらまた来るかもだから。これが私の能力よ」
「どういう事ですか?」
二色 美端の視線がどんどんキツくなる。
「え、えっと、納刀した際、任意の場所に斬撃を放つ。それが以下省略の能力。納刀ってのは、完全に抜刀する必要はなくて、"鯉口を切る"程度でオケ。変身してたらもっと斬れたけど、変身前だとこの程度の斬撃しか出せんかったわ」
ははは。と、とぼける丘六 緋羽夢。
赫鳳 徹子が知らないワードが出たので聞く。
「あ、あの、"鯉口を切る"ってのは?」
「あぁ、専門用語か、アレ。刀ってのは、納刀してる時になんかの拍子に抜き出ないように、構造的にロックがかかるようになってんのよ。噛み合わせの渋さでね。それをズラして、いつでも抜刀できるようにする行為を"鯉口を切る"って言うわけ」
そう言って丘六 緋羽夢は実際に自身の刀の鍔に右手の親指をかけ、そのまま親指で押し引きして、カチカチ言わせている。その度に三日月状の光の粒子が小さく飛び散る。
「いや、それなら前衛に出ることはできるんじゃないですか?刀自体は有るんですし」
二色 美端は、もう色々通り越してシラケた視線を送っていた。
「いやいや、だから私には膂力がないからさ。居合はできても、斬り合いはでki」
「だ、誰ですか、?アナタ達...?」
さっき、丘六 緋羽夢が以下省略を使って見せた際に切断したロッカーのドア、そのロッカーの中に少女がうずくまっていた。
(確かに人が3人ぐらいは入れそうなサイズ感のロッカーだったけど、本当に入ってると思うわけないじゃん!?)
丘六 緋羽夢は咄嗟に身構えた。
『どう致しますか?』
(こっちから動いたら余計面倒なことになる...ここは一旦様子見しかない)
二色 美端には悪魔が語りかける。
誰も動けない緊張状態が続く。
うずくまっている少女の外見は、青の差し色が入った紫色の髪をツインテールにして、巻いたもの。俗っぽく言うと"縦ロール"と言ったところ。服装も紫で揃えており、王道のゴスロリ系でリボンの意匠が多め。ほんの少しだけ、髪が微かに発光しているので明らかにトキラメクルである。
そして、その少女がついに我慢できずに喋り出す。
「ア、アナタ達、私を殺しに来たんですか?」
「いや、いやいや!そんなつもりは、ねぇ?」
「だって!!アナタ、剣!持ってるじゃないですか!このドア、斬ったんでしょ!?アナタが!」
「ま、待ってって、そんなねぇ?」
丘六 緋羽夢は何とか誤解を解こうとするが、うずくまっている少女には届いていない。
「あ、悪魔、ど、どうすん、のよ...」
何かブツブツ喋っている。自分に語りかけるように。
「お、お嬢ちゃん、一旦な?話し合いをな?」
「トキメキめぐる...キラメキきたる...」
「変身詠唱です!」
二色 美端が叫ぶ。
「メ、二者択一ッ!!」
カチッ
引き金を引いたような音が鳴った途端、発火炎が上がる。その閃光に御伽少女達が一瞬視覚を奪われる。
少女、もとい二者択一の衣装に変化があり、リボンが四肢に巻き付くようにロールして発光。金属のパーツのような意匠も増えている。そして、火薬の香りが立ち込める。
「...ンッ!」
この隙に二者択一がなにかするのか、と身構えていた3人だが、当の本人は何かを躊躇ったかのように止まる。
「ほ、本当にお嬢ちゃんに危害を加えるつもりは」
「い、いやッ!」
二者択一が何か吹っ切れたような目つきになる。覚悟を決めたと言うより、本当に"吹っ切れた"かの様な。
そうして、自分の頬に両手を添えて、悲鳴をあげる要領で、
「ァ、"罪と罰"ィィ"!!」
と叫ぶ。最後の「ィ"」の発音の際に舌を前歯で噛む。血が出るほど深く。
すると、下顎が真ん中から真っ二つに裂けた。舌も一緒に真っ二つに引き裂かれている。頬骨の下の辺りから、頬が破裂して完全に上顎と独立する。蛇が顎を開いた時に、中央で下顎が分かれ、よく開くのと似た外観になる。
その後、上顎と下顎を繋げていた関節が外れる。その関節の隙間から、またもや発火炎が漏れ、完全に下顎が上顎から左右に分離。
二者択一の顔面からは下顎と頬が完全になくなり、上顎の歯茎と歯が剥き出しの状態。下顎との接合点だった顎関節の部分は、焼け焦げていて出血はない。寧ろ、そのような質感に肉体が変質しているようになっている。
分離した左右の下顎はと言うと、
二丁の回転式拳銃に変質していた。
唇が銃身、
骨が銃体や撃鉄、
歯茎が回転式弾倉、
歯が弾薬、
そして舌が引き金。
全体的に見れば小型拳銃のようで、持ち手が短いシルエットをしている。
しかし、装填されている弾薬が、下顎の歯茎から生えている16本の歯の半分、つまり8発も装填されている関係上、回転式弾倉が異様に大きく、銃身も短いが太い。
ヒトの下顎半分で造られている時点で異様なのだが、その銃としてチグハグな形状が不気味さを引き立てていた。
変質する際に飛び散った血液が両手にこびりついて、それが変質時の熱で焦げて臭いが立ち込めるのもおぞましい。
可愛らしい服を着た可愛らしい少女が、
下顎と頬がなく歯茎は剥き出しで、
醜悪な二丁拳銃を構えている。
という構図である。
目には涙を浮かべて。
「う、撃たないでくださいぃ!!」
「赫鳳さん、落ち着いて!丘六さんも2人とも、両手を挙げて!」
怯えて退く赫鳳 徹子に対して、即座に指示を送る二色 美端。しかし遅かった。
「はァーッ!!ハぁーー!!!」
どうやら、二者択一は下顎をリボルバーに変質させたお陰で、舌と唇もなくなり発語どころか発音すらままならない状態だ。
その状態で、右手に握ったリボルバーでどこかを指している。二色がそちらに視線だけを移すと...
音もなく、丘六 緋羽夢がこの場から離脱し、姿をくらましていた。
(この場はあとの2人に任せて、自分は見えない場所からの支援をする)
という判断と行動をシームレスに行った結果だった。音もなくその行動をカタチにできたのは、彼女が居合を習っており、重心移動等の体捌きに長けているのがある。
ちなみに、「自身だけは、常に安全圏に居る」という思考も織り込み済みである。そもそも音を立てないという行為は、対面していた二者択一には有効ではない。隣に居た赫鳳 徹子と二色 美端に有効なのである。この2人に気が付かれないように逃走することで、『3人で逃げる』から『1人だけ逃げる』という状況を造ることができた。
もし3人で逃げようものなら、誰が後ろから撃たれるか分からないが、2人を置いていくことで標的をそちらにズラす算段であった。
この丘六 緋羽夢、実は常に逃走ルートを考慮して行動している。御伽少女達の3人でここに逃げ込んだ際も、3人で談話している際も、いつ何時でも対象の射線と視線を切れる逃走ルートを想定しながら行動していた。
つまり今回の逃走は、
(自分だけ逃げたとしても、即射線を切ることで自分は狙われない。残った2人だけが完全に標的になり、追跡されることもない。しかも、あの二人なら暫くは耐えることができるはずだから、その間に解決策を探し出す。何より私が安全地帯に居れるッ!)
という思考を踏まえた上での逃走だった。
確かに合理的ではあるのだが、残された2人としてはたまったものではない。
「あのカスッ!!」
赫鳳 徹子渾身の叫びだった。
『やっぱり、君余裕あるだろ』
と、悪魔が指摘した瞬間、
パーーーンッ!
二者択一が赫鳳 徹子に向かって発砲した。
「あ"ァ"ッあ"あ"ッ!!!あ"ッ"つ"ィ"!」
これに関しては、最早いつもの事になりつつあり、二色 美端としては驚かなかった。
寧ろ驚かされたのは、
「はぁーーッ"!!!ア"ッアァ"!!!」
撃った側の二者択一が悶絶し、苦しみ悶えていたことだった。
二色 美端が、
(今がチャンスだ)
と、動こうとした瞬間
パーーンッ!!
苦しみに悶えていた二者択一が、二色 美端に発砲し、左太ももに着弾した。
二色 美端は能力の関係上、腕や脚に記録媒体を巻いている為、通常のトキラメクルよりも防御力が高い、筈なのだが
「ッ!"!"!"」
着弾した左太ももを貫かれた。
「に"ッ、二色さん!?大丈夫ですか!?」
這いずりながら駆け寄る赫鳳 徹子。
苦痛のあまり声も出せない二色 美端。
苦痛に悶えのたうち回る二者択一。
少女達が三者三様に苦しむ構図...
大丈夫か美端、どうなる徹子、
そして何処へ行った緋羽夢!
次回に続くッ!




