殺すことはできても、殺し切るのは難しい。 〜Swamp girl〜
前回のおさらい。
二色 美端、銃傷で重傷!
丘六 緋羽夢、速攻で逃走!
赫鳳 徹子、頑丈だから大丈夫So!
以上!
***
丘六 緋羽夢は逃走中であっても、ある程度は状況を把握していた。
刀鍛冶の父の指導をよく受けていた為、色と音、感触の変化には敏感であった。刀鍛冶はこれらの変化で鉄の様子を把握する仕事故に当然だろう。これと居合の組手での経験が合わさることで、高度な危機感知能力へと昇華している。
今回の逃走中でも、2回の銃声と悲鳴で状況を把握していたのである。
「一回目の銃声の後に聞こえた悲鳴は、徹子だな。最早、聞き慣れてきたわ」
『その後に聞こえた悲鳴、あれは聞き慣れない声だったな』
「んー、そこなんよ悪魔。二色の悲鳴とか聞いたことないから、二色かなぁ?とも思ったけど...あんな声じゃないよなぁ」
『じゃあ、消去法的に考えてあの二者択一って娘か?』
「んーまぁ、そうなんだけど。発砲した側が悲鳴あげるって意味わからんのよなぁ」
『2回目の発砲の後、徹子の悲鳴が上がらずに、また二者択一と思われる悲鳴だけ聞こえた』
「んーーー、やっぱり2回とも聞こえた悲鳴は二者択一だと思うんよね...二色は悲鳴上げるタイプと思えんからさ」
『だとすると、発砲した側が悲鳴上げるってのはどういうことだ?』
「能力の関係上、って考えるのが妥当?」
『そうだな。以下省略でも"鯉口を切る"のは必須動作としてあるし』
と、悪魔と会話しながら食料品コーナーに逃げ込んだ丘六 緋羽夢。
一方的に状況が目視で確認できそうな場所を見つけ次第、首から下げた単眼鏡で3人の様子を確認する。
「うっわぁ、グッロ...こりゃひでぇ状況」
『徹子はいつも通りだとして、二色は重傷そうだ』
「悪魔も見えてるの?」
『私達、悪魔は契約を結んだトキラメクルの感覚を受信しているからな。双方的な"共有"ではなくて、あくまでも一方的な"受信"だから、トキラメクル側が悪魔の感覚を味わうことはない。安心しな』
「そりゃ、安心だわ。というか、あの下顎リボルバー娘も悶え苦しんで倒れてるんだけど。どゆことなん?」
『ここからは、なんともだなぁ』
軽口を叩きつつ、現状を把握し打開策を思案する丘六 緋羽夢。
丘六 緋羽夢は、常に安全圏内に居ることを意識している。この世でいちばん重要なのは、自分は痛くないこと。
痛くないなら、冷静さを保ち、打開策を練った万全の状態で挑むことができる。これが丘六 緋羽夢のやり方。
下手な共感や感情移入は判断を鈍らせる。
それらを捨て、判断力を研ぎ澄ます。そうやって生きてきた。
「今なら、"以下省略"で、あの下顎リボルバー娘、首落とせそうなんだけど...」
『任務の件もあるし、殺したくない。寧ろ出来れば、戦力にしたい。ってことだな』
「そうそう。殺すのは簡単だけど、勿体ないんよな。あの二色の負傷を見るに相当火力あるわけじゃん?」
『向こうが混乱した結果、こうなっているわけであって、完全な敵対関係ではない限りは味方に入れたいという事だな』
「そうそう。つまり、このままアレを殺さず、こちらが回復できれば」
『「相手に"負い目"を背負わせた状態で仲間に入れることができる」』
『協力関係という名目だったとしても、明らかにこちら側が上の立場になれるってことよな』
「ということは私が今、やるべき事は...」
『二色を再起させる為に医療用品の回収だな』
そう言って食料品コーナーから動き出そうとした時、違和感を覚えた。
「なんか、ここ焦げ臭くない?」
『あそこ、雷が落ちて焦げたみたいになってるな』
悪魔が指さした方を見る。確かに、棚で奥は見えないが、焦げた跡がある。中心地点は棚の向こう側か。
「まさか天使じゃない...?」
慎重に中心地点と思われる場所に近づく。
近づくにつれ、なにか咀嚼音が聞こえてくる。
棚に身を隠しながら、ソッと様子を確認すると...
棚に身を隠しながら丘六 緋羽夢が見たのは、先程、確かに、ドレスの天使にミンチにされた筈の"俗物"とか言う少女であった。雷が落ちたような地点を中心に食べ物を漁りひたすらに食べている。自分の手まで食べそうな勢いで。
ちなみに今は変身前なのか、髪は鼠の耳のような形になっていないし、しっぽも生えていない。
(えぇ、あの人確かにミンチにされてたよな...?)
『あぁ、確実にな。血の臭いがキツかったのを覚えているぞ』
(だとすると、アレはなんなんだよ?)
『そういう能力のトキラメクルなんじゃないか?としか言えん』
そんな事、お構い無しに沼 三二は摂食をつづける。
「咀嚼音...嗅ぐ。えっとー、御伽少女達の人ですよねー?名前なんだっけー、、、あぁ!構え太刀だ!思い出した!」
(気付かれた!?)
反射的に隠れる丘六 緋羽夢。お陰で、沼 三二の姿が見えなくなってしまった。
「ばぁ!」
棚の角から、沼 三二が脅かしてきた。
「うっわぁあ!!!!」
「ははははっ!!ナイスリアクション〜。ワタシ、沼 三二って言います!俗物です!」
笑って済ます沼 三二だが、丘六 緋羽夢からしてみればホラーでしかない。血のスプリンクラーのように撒き散らされたニンゲンが、再びその姿を見せているのだから。
「そんなビビんないでくださいって〜。ほら、これ食べます?」
黒焦げになった何かを差し出す沼 三二。
「よ、よくこんな見た目の物食べれますね?」
「"復活した後"だと、腹減るんで。あと、ワタシ色とかよくわかんないから、見た目気にしないんですよ。その分なんでも食べれますよ〜。給食とか、毎回残したことないです。それどころかおかわりしてました」
「そ、それがアナタさんの能力?」
「そうそう。なんでも食べれるっていう、安全地帯って能力です。食べ物の位置もわかるんですよ〜匂いで。あと、運が良くなります」
「そ、そうなんですね...」
(食べ物じゃなくて、『復活した』って方を聞いてんだよ!)
と、心の中でツッコミを入れる丘六 緋羽夢。
『まぁ、実際ここの食料は電気は生きてるとはいえ、一週間以上このまま放置されてんだ。その上で黒焦げになっても尚、食べて栄養にできるのはすごいわな。あと運が良くなるってなんだ?そんなのありか?』
(そんなの私に聞かれても分かるわけないだろ!)
***
時間は少し戻り、お茶会にて。
「んー、この反応は...三二、死んだな?」
「あら、痛そうね〜」
「はい、そうですね。私の方でも確認しました...」
粼揺蕩と音向 愛子は、シャボンで沼 三二の惨状を見ていた。
「啄さん、どうして御伽少女達の派遣先に沼さんを?」
音向 愛子の左眉が、バレない程度にピクつく。
「いやー、大変そうだなぁーってことでね。愛子もワタシがどっちか送るのは何となくわかってたっしょ、未来予報で?」
「そんな便利なものじゃないですよ...で、丘六さんあたりですか?サブ目標で赫鳳さん...で、沼さんを選んだ理由は『デパートと言えば鼠』ってところですか?」
「流石、わかってんじゃーん。満点100点。やっぱり、構え太刀と臆病者は気になるよねぇ。まぁ、音盤も気になるけど、扱いにくそうでね」
「はぁ...」
呆れ顔の音向 愛子。
「あ、あの、沼さんが、その、本当ですか?」
居てもたってもいられず、篦掻 快子が質問する。
御伽少女達が任務に出た際、音向 愛子がお茶会に篦掻 快子とティを呼び戻していた。
「あー、死んだってやつ?ほんとほんと。揺蕩姉さん程じゃないけど、ワタシもバカ2人の状況はどんだけ離れててもある程度把握できるんよね。ラメの揺らぎでね」
「凄いわよねぇ〜♪」
「い、いやその、そっちじゃなくて...」
混乱気味の篦掻 快子に対して、音向 愛子が助け舟を出す。
「はぁ...啄さん、快子さんが聞いてるのはそんな事じゃなくて、殺されたことに対して、関心を示さないことですよ」
「あぁ〜そっちか。そっか、そっか、快子知らなかったか、俗物の能力。アイツ、死なないんだよ。厳密に言うと、死んだとしても"甦る"」
「よ、甦る...?愛子さんと揺蕩さんは知ってたんですか?」
「いえ、詳細までは。ただ、その程度で終わるような人材を啄さんが拾う訳ない、という確信があったので」
「セイッカイ!流石、愛子だね〜。ワタシは見込みがないやつに唾はつけないよ。はは!」
「私は、知ってたわ〜。三二ちゃんを見た時点で♪大体だけどね♡」
粼 揺蕩が左手の指でハートを作る。
置いていかれ気味の篦掻 快子であった。
***
場面は、丘六 緋羽夢と沼 三二が鉢合わせたところに戻る。
「そういえば、血の臭いがしますね。御伽少女達の誰か負傷してます?」
「そ、そうなんですよぉ。だから医療用品を探そうかなって...」
「あーだったら、お酒コーナー行った方がいいと思いますよ」
「え?酒で消毒だー!的なことですか?」
「ははは!そりゃ消毒用アルコールの方がいいでしょ〜」
(テメェに言われたくねぇよ)
『抑えて貰って。話進まないから』
どこからか拾ってきた爪楊枝で前歯の隙間をほじる沼 三二。胡座をかいているので、姿勢だけならオッサンである。
「言ったじゃないですか?ワタシの安全地帯は運を良くするって。これ、勘が良くなるって副次効果もあるんですよ〜。ワタシの勘が『お酒コーナーに何かいいことがある!!』って言ってます!もう、お酒コーナーから来る"幸運の匂い"がワタシの鼻をくすぐってます!」
(コイツ、酒飲みたいだけじゃないよな?見た目は20歳より下だけど)
「あー!疑ってますねぇー!?大丈夫ですよ〜ワタシは儘世さんに、『御伽少女達助けて来い』って言われて来てるんですから!3人が得することしか、しませんよ〜」
「お前が変身して攻撃したせいで、シャンデリアドレスの天使が襲ってきたんだろ」
というツッコミを何とか堪えた丘六 緋羽夢であった。




