閑話休題の方が、覚えている。① 〜Weapons violation〜
とある日のお茶会。
いつものように主催の音向 愛子が、花園の中央にある円卓で紅茶を味わっている。今回は、お嬢様学校の制服の様な衣装を着こなしている。
音向 愛子の左隣には車椅子に座っている少女、右斜め後ろには露出度の高いメイド服を着た少女が居る。今のお茶会にはこの3名しかいない。
「んー♪ティ、また随分と紅茶をいれるのが上達しましたね♪ティの精密さが、紅茶の繊細な味を引き出しています」
「ありがとうございます、愛子様」
ペコりとお辞儀をするメイド服を着た少女。どうやら"ティ"と言うらしい。その外見は日本人離れしており、北欧の血を思わせる。髪は肩より少し下まで伸びた黒のストレートで、その艶から髪質の良さが見て取れる。眼は澄んだ青色と言ったところ。かなり身長が高く、動作一つ一つが精密で「機械仕掛け傀儡」と言われても違和感がない。
相槌としての笑顔も一見普通だが、どこか指定動作めいた不気味さがある。一般のニンゲンであれば気が付かないだろうが、音向 愛子程の洞察力があれば一瞬で見抜ける、筈なのだがその音向 愛子とは言うと、
「愛子さん、ご機嫌ですね」
「ふふ、三人で居られるこの時間が今の私の唯一の楽しみですから。快子さんにティ、お二方のお陰ですよ♪」
車椅子に座っている方の少女は"篦掻 快子"。こちらは病的なまでに色白で、髪も白。白色と言うより、そもそも色素が入ってないといったイメージ。その髪をツインお団子に。そして眼は血のような赤。こちらもそこまで健康的な色ではない。怪我をしているのか、包帯や左眼に医療用の眼帯もしている。全体的に、やつれているような印象を抱かせ、見ている側の方が心配になる。
「ティさn、ティも座ればいいのに...」
「快子様、お気遣いありがとうございます。しかし、私は愛子様と快子様の護衛として拾われた身ですので。万事万象に対応できるよう、このままで構いません」
「ふふ。相変わらず、ティは硬いですね。でも、その生真面目さこそがティの美徳です。最近は表情も自然になってきましたし。慣れるというのは、時間をかけるからこそ、いいんですよ。その分の時間を一緒に過ごしたと言うことですから♪」
音向 愛子は、かなり上機嫌の様子である。
「"時間が人間関係を特別にする"、愛子さんが以前仰っていた言葉ですね」
「そうですよ、快子さん。最初から特別な状態の"ニンゲン"なんて居ません。特別になる要素を持っているだけです。人と人の出逢いや、その経験がきっかけとなり、成長となります。そうやって特別な"人間"になるんです」
「ヒトは、独りでは生きていけないんですね...誰かと一緒だと疲れますけどね」
「ふふ。生きていけないからこそ、"寂しい"という感情を進化で獲得したのでしょう。疲れるのは、それだけ重要な行為だからエネルギーを使うということですよ」
「...感情も進化の産物なんですか?」
「はい、勿論。感情も要は、『暑いと汗をかく』と言った反応でしかありません。精神世界や精神エネルギーなんてものは、この世には存在しない。あくまでも物理現象の先にあるものですよ♪」
「進化や生命も物理現象の先と?」
「えぇ。我々は自身を特別視する癖がありますから、進化や生命に特別な何かを見出します。しかし、生命というのもただの物理現象に過ぎません。酸化や還元、中和等の化学反応が物理現象に過ぎないのと同じです。様々な現象を高密度で行っているのが、生命。それを連鎖的に行った結果の進化。ただそれだけなんです♪」
「じゃあ、ウイルスと生物の境目っていうのも?」
「はい、その通りです。物質と生物は完全に分かれていません。寧ろ、本質は同じです。スペクトル状に、複雑さを増した先に生物があるだけで、生物も物質です。そのグラデーションの中にあるのがウイルスですね♪」
「へぇ。面白いですね...なんというか、魂的な特別感が無くなって少し悲しいですけど」
「ふふ、そうですね。でも、この手の話ができると言うだけで私は楽しいです♪」
和気あいあいと会話する音向 愛子と篦掻 快子の2人をティが見守る。
これがお茶会の日常である。
「そういえば、今日のティさんの衣装、だいぶ露出多めですね。愛子さんにしては珍しく」
「そう!そうなんですよ!私としては普段、私が着ているメイド服のように露出を控えるつもりだったんです!」
音向 愛子が珍しく感情的になる。
すると横からティが
「動きやすい方がいいので」
「って、ティが言うから!致し方なく...ティはスタイルがいいので、動きやすさとスタイルの良さを前面に推すとなると、こうなりました」
「ッ、そういうことだったんですね」
思わず笑い出してしまう篦掻 快子。
***
そうして話が続いていき、少し経って
「そういえば、愛子さん。質問があるんですけど」
「はい、なんでしょう?」
「いつまで経っても銃が禁止されない国があるじゃないですか?...あった、か。私たちの国や、その国の一部地域では、実際に禁止にすることで大きな事件や自殺の多発を未然に防いでいる。だから、必要性はわかってると思うんですけどね」
「それはですね、色々な要因はありますが、そのひとつに銃に対する認識の差、というのがありますね」
「認識の差?文化の違い的な?」
「はい。その人々が実際に革命を経験しているかどうか?が大きいです。正に、経験の差から来るものですね」
「革命...」
「はい。革命です。銃というのは、革命と権利の象徴なんですよ」
「銃を持つ自由ってことですか?生殺与奪の権利を握れる、みたいな話ですかね?」
音向 愛子が、紅茶を掻き混ぜる。
「というよりも、"銃を持つことで保障される自由"と言ったところでしょうか。銃という武器は、人類史の中でも特別な意味を持つ武器とされているんです」
「んー、確かに強力な武器だとは思うんですけど、そこまでですか?ミサイルとか核爆弾の方が凄そうですけど」
「確かにその"兵器"も強力で、人類史に大きな影響を与えたことには間違いありません。しかし、やはり個人携帯できる"武器"として人類史に大きな影響を与えたのは銃です」
「個人携帯できるのが、そんなに利点なんですかね?私なんて重い物持てないので、乗れる方が助かりますけど」
「ふふ、はい。更に重要なのは、"安価に、小型に、大量に"という三点です。この三点が、銃は優れています。他の殺傷武器よりも」
「その3つが揃うと?」
「大人数に配れるんですよ。つまり平民に」
「あぁ、それで革命。生々しい話になってきましたね」
「はい。剣や槍の時代であれば、殺傷に至るダメージを与える技術を習得する為にはかなりの時間を必要としました。そんな時間、平民にはありません。この時間の有無こそが、平民と上流階級を別ける強烈な線引きになったんです」
「しかし、銃ならばそこまで時間はかからないと」
「ええ。勿論、正規の軍隊で使用される戦術を身につけるには長い訓練を必要としますがね。しかし、暗殺やゲリラ戦術と言った領域なら話は別です。平民の一番の強みは、その"数"です。上流階級が一回や二回の暗殺やクーデターを凌いだとしても、不満を持った平民はまだまだ居ます。その全てが銃を持つだけで戦士になるのですから、上流階級としてはたまったもんじゃないでしょう」
「その平民の数に配れるだけ用意できて、その数の人間が扱えるから銃は強力である、と」
「そうです。故に市民革命の象徴なんです。近年でも、途上国の国民が自国の独裁者や先進国軍と闘う為に、とある安価で壊れず大量生産できる銃を使って革命や独立を果たしています」
「それで市民の権利としてのイメージが...印鑑を手放したくない的な、意固地さが見え隠れしてますね」
「民衆のイメージとしてはそうですね。『民衆が力を持っている』というのは、それだけ権力者がその民衆を意識せざるを得ないということを意味しますから。まぁ、現実はそうでも無いのですがね」
「やっぱり、上手い話には?ってやつですかね」
「そうですね。独裁政権が転覆されるのは、その独裁政権を支えていた武力を持つ軍部によるクーデターです。民衆ではありません。軍隊が『民衆の為を思って』と発表しているだけです」
「わぁお...」
「実際、先程言った安価で優秀な銃は確かに『世界で一番、人を殺害した兵器』として有名です。しかし、運用方法としてはその銃での殺害はあくまでも一般兵程度に留まります。重要人物を殺害しているのは狙撃銃などのトレーニングを必要とする"兵器"です」
「そうなんですか?」
「はい。今のゲリラでは、未熟な少年兵に先程の安価な銃を持たせて突撃。正規軍がそれに気を取られている間に、訓練された狙撃兵が仕留める。といった戦術が取られています」
「それって、その少年兵は?」
「勿論、安価な銃を持った程度では、訓練された上に高価な銃を扱う正規兵に勝てません。即、蜂の巣です」
「何が市民の権利ですか...一番無力な未成年を犠牲にしておいて?」
「えぇ。故に先程言った『世界で一番、人を殺害した兵器』というのは、"使う本人"も含まれるという訳です」
「ひっどいですね。邪悪ココに、って感じがします」
「まぁ、そうでもしないとゲリラは正規軍に勝てませんからね。正規軍は正規軍で、武力で黙らせるので、意見するにはそれしかない。と思われてるのが現状ですね。故に民衆のイメージとしては、銃というのは"権利と自由の象徴"になっている。だからこそ、彼等の目には、それを奪うのは権力者がより優位に立とうとしているように映ると言う流れです」
「なんか、結局"武器"じゃなくて"兵器"なんですね」
「えぇ。個々人の感情的には"武器"ですが、全体で見ればあくまでも"兵器"に過ぎません。と言うより、人類史において個人で扱える強大な力というのは...これまでにありませんね。先程から話題にあげている銃や剣、さらにはミサイルも数を揃えてないと効果的ではないです。核爆弾等の戦略兵器も独りの力で扱えるものではないです」
「確かに...」
「まぁ、私の持論としては個人に強大な力を持たせるべきではありません。『罪と罰』と言いますか。力を持つことは罪です。力を持つ者は、その罪を贖う必要があります。贖うだけの覚悟や能力がないのであれば、その力は持つべきではないのです。自殺や暗殺を選択する程に追い詰められているニンゲンに、一撃で絶命できる銃を与えればどうなるのか?という事です」
「そうなると、私たちトキラメクルって存在は難しいんじゃないですか?個人で扱える強大な力を持っているから...」
「そう、ですね......この力の償いを必ずしないといけないでしょう。"私"達は」
「んー、私は償える気がしないですし、別に欲しくて貰った力じゃないから、返品したいですけどねぇ」
「私はこの偶然に感謝してますよ?お二人に逢えましたから♪」
そう言いながらお茶を楽しむ音向 愛子なのであった。




