人が多いと、競走が生まれる。 〜Survival of the fittest〜
「あら、浮かない顔ね?」
「その、、、少し、いえ、かなり不安で」
「あの三人ならきっと大丈夫よ。私達が見込んだ三人だもの。貴女の未来予報は当たるしね?」
「そうですよね。能力の相性なら、恐らくトップクラスにいい筈ですし...あと、未来予報は恥ずかしいです」
「未来予報、いいと思うわよ?それに、愛子ちゃんがあの娘の相性がいいと思ったんでしょ?」
「はい...」
笑顔で粼 揺蕩に返す音向 愛子。その笑顔には拭えない不安を感じ取れた。そんな音向 愛子の手を握り粼 揺蕩が温める。
「本当に、心配症で冷え性なんだから」
一方その頃、
「がぇりだぁいぃいぃぃぃいいでずゅぅう」
「私だって揺蕩姉さんと一緒がいいぃわ!」
「ブツブツブツブツブツブツブツブツ...」
"御伽少女達"として結成を指示された三人は、早速狼狽しながら逃げ惑っていた。天使から。
赫鳳 徹子は絶叫。
丘六 緋羽夢は文句を垂れる。
二色 美端はなにかぶつくさ唱えている。
といった酷い有様である。
「なんで毎回、私が前衛させられるんですか!?」
「徹子が一番耐久が高いからでしょ!?完全に前衛でしょ!?なんなら今は最後尾だしね!」
「前衛させられたから、逃げるのが一番遅れたんですよ!!」
ゴタゴタ抜かしている丘六 緋羽夢に対して、二色 美端が刺す。
「日本刀持ってる丘六さんも前衛行ってくださいよッ!」
「いや、無理。絶対無理。私、組手とか無理。相手との読み合いとか無理だもん」
「...丘六さん、剣道か何か習ってたんですよね?」
「居合だけどね。確かに太刀筋は褒められてたよ?師範代にも、鍛冶職してた父親にも。だから試し斬りの担当は私だったんだけど」
「じゃあ!前線行ってくださいよ!ズビッ」
殿から赫鳳 徹子の絶叫じみた声。
「いやね、その頃からどーも組手が苦手でさ。居合も道場一の速さだったんだけど。如何せん私、膂力がなくてさ、"得点"は取れても"決定打"は取れなかったんよ。道場でも『得点形式でしか勝てないヤツ』って言われて嫌われてたから」
「なんで自慢げなんですか」
二色 美端は呆れていた。
「兎に角、私が正面切って戦えるのは、四肢欠損か巻藁の二択しかない...(クッ!)」
「キメ顔しないでぐださぃ!てか、どうにかして!!」
「徹子ちゃん、戦闘に関しては結構文句言うよねぇ〜」
「そりゃ言いますよッ!!てか、都合のいい時だけ"ちゃん"付けどうなんですか!?」
「全く同意ッ!」
走りながら挙手する二色。
「あぁ!揺蕩姉さんがいねぇと!話がまとまんねぇ!!!」
「自分に都合がいいように纏めようとしてるからでは!?」
二色 美端は逃走中でも詰めるのを止めない。
「これだから組手は嫌なんだよなぁ!!」
「逆に丘六さん、何ができるんですか!?」
二色 美端が一番の疑問を投げる。
「この立地じゃ何もできませぇーーーん!やっぱり徹子ちゃんが前線張ってくれないと無理!!」
「都合いい時だけ"ちゃん"つけるなぁ!!!」
赫鳳 徹子が叫ぶ...
何故こうも醜態を晒してるかと言うと、時は数時間前に戻る。
***
場所はとある街のデパート 2HEAVEN。
最後の審判後、大半のインフラは停止したが、このデパートは太陽光による自家発電により、かろうじて機能を保っていた。流石、大都市ナンバーワンのデパート且つ、緊急避難場所としての役割を与えられただけはある。そこに居るべき人々は、早々に天使によって葬られたが。
赫鳳 徹子達は音向 愛子からの"任務"でここに居た。
『もしもーし?聞こえてるかしらー?』
「あ、はい!聞こえてます!」
『なら良かった。"おつかい"中でも、緊急の時はこの貝殻を使えば通話できるから、安心してね』
通信端末越しに、粼 揺蕩の声が聞こえ、赫鳳 徹子が応える。
「あの、緊急の時ってどれぐらいの案件ですか?」
こういうことはすぐに聞く丘六 緋羽夢。
『電撃処刑人クラスの天使に狙われた時ぐらいね〜』
「「「え」」」
『あまりラメを使い過ぎると、より強力な天使を呼び寄せてしまうんですよ。ですので、この通話機も緊急時ではない場合は使用を控えた方がいいですね。何より、この通話に使用するラメはt』
『愛子ちゃん、そういうのはナイショ』
『は、はい。分かりました。一応、天使も現れるとは思いますが、"皆さん"で対処できる範疇だと思います』
通信端末越しでは、粼 揺蕩と音向 愛子が何を話しているか、はっきり聞こえなかった。
「えっと、そ、そうなんですね...?」
赫鳳 徹子は、適当に相槌をうつ。
「じゃあ、任務中に"普通の"天使に狙われた時は?私達どうすんの?」
丘六 緋羽夢が死活問題だ、というように聞く。実際そうなのだが。
『任務中に天使に遭遇した場合、"逃げきる"が一番理想ですが、なかなか難しいと思います。ですので、御伽少女達の三名で対処してください。その為の集団行動です。先程も言ったように、"皆さん"で対処出来る範疇の天使しか現れません。大丈夫です』
「...えーっと、それはつまり揺蕩姉さんなしで、私達だけで頑張ってねってことですか、愛子さん?」
『...はい、そうですね、丘六さん。揺蕩さんが前に出ると、より強い天使に遭遇する可能性が上がるので。大丈夫です、皆さんの能力の相性はかなり良い方だと思います。天使と遭遇する前に作戦会議を挟めば大丈夫です』
(大丈夫でゴリ押そうとしてないか?)
と思う美端なのであった。
『揺蕩さん、もうそろそろ切らないとラメの消耗が、』
『えぇ?もっと話したいのに?』
『駄目です』
また小声で話すふたり。
『はーい(小声)。じゃあ、"おつかい"お願いね〜。お茶会で沢山お話聞かせてね』
『ッーッーッー』
通信端末のノイズが響く。
「「「...」」」
90秒
「あのさ、正直に言ってもらっていいんだけどさ」
「はい」
「は、はい」
「揺蕩姉さんが居ない状況で、電撃処刑人よりかは弱いとは言え、天使と戦えそう?二人とも?」
「う、うぅ」
狼狽える赫鳳 徹子。
「丘六さんも戦うんですよ?」
二色 美端は釘を刺しておく。
「私はぁー、後衛なら任せて欲しいなぁ。てか、そういう二色は何ができるんよ?」
「はぁ、私が言ったら丘六さんも説明してくださいよ?」
「ういうい」
丘六 緋羽夢は顎を上下させて応えた。
「...はぁあ」
二色 美端はどこからか隠し持っていたであろう、朱色の万年筆のようなものを出す。恐らくスティカラーが変化したものだ。その万年筆で、自身の眼や腕、脚に巻かれたフィルムに何かサインする。正直、赫鳳 徹子と丘六 緋羽夢にはなんと書いたか解らなかった。
(シュルルル...)
途端にフィルムが解けていく。この時、初めて二人は二色 美端の眼を見た。その虹彩はべっこう飴の色と言うにふさわしいほど美しい。朱い前髪がそれを際立たせている。これだけでも印象的なのだが、もっと目を引くのは、その腕と脚であった。幾つも横向きの傷跡があり、中にはまだ止血されていない新鮮な傷口もある。
丘六 緋羽夢の率直な感想としては、
(目つきキツイな。さては近眼だな?)
であった。
「私の能力は"懐古趣味"。要は記録と再生の能力です。私の血液を染み込ませた布を記録媒体に変換させて、そこに私が受信した情報を転写します。そして、その記録媒体を巻いた物は、私の任意のタイミングでその情報を再生できる訳です」
「え、えっとつまり、?」
赫鳳 徹子は整理できていなかった。
「いつも持っている鉄パイプ、私の記録媒体を巻き付けてあります。通常、鉄パイプは殴打しかできません。しかし、この記録媒体には」
「斬撃の情報を記録してるから、再生すれば斬撃を放てる訳か」
「そういうことです」
丘六 緋羽夢の中で全て繋がった。
「す、すごい能力ですね!」
純粋に驚いた赫鳳 徹子が感想を漏らす。
「そうでもありません。寧ろハズレ枠でしょう。確かにラメのコストは低いですけど、時間も手間もかかります。しかも、私が記録できてるのは今のところ"斬撃"だけです」
「記録するのと記録媒体を増やす為に眼や腕とかにフィルム巻いてるのか」
「ええ。手札を増やしたいので」
「なぁるほどねぇ。つまり前衛向きってことか」
「...丘六さん本当に前衛に出たくないんですね」
「いやぁ、私さぁ」
その時である、このデパートの目玉のシャンデリアが点滅し、不規則に右へ左へ前へ後ろへ揺れ始める。三人の影も同様に揺れる。
「天使、ですね...」
「へ!?」
「うぇ?」
二色 美端はすぐに勘付いた。
「地震も起きてないのにシャンデリアが揺れている時点で異常ですが、揺れ方がおかしいです。普通、振り子というのは意図的に揺らさない限り、あそこまで不規則に動きません。しかもだんだん揺れが大きくなっている。本来揺れは収まるものなのに。まるで」
『殺す為ノ、予定調和』
「「「!?!?」」」
天使がコチラの会話に合わせてきた。
『殺せ、従え、転がり墜ちろ。フフ』
五段構造のシャンデリアのそれぞれの段は、最初は連動して揺れていたのだが、次第に各々勝手に動き出す。その揺れの歪みから黒いゲルが溢れ、雫が滴り落ちる。その軌跡が糸となり、様々な装飾にたるんだ状態で紐付けられる。その動作が一通り終わった後、たるんだ糸を締め上げると、アソビの多い構造をしたシャンデリアがギチギチと音を立て、動かなくなる。
「チクショウ。ここからじゃ、なんも出来ねぇ」
丘六 緋羽夢は愚痴垂れる。
「ま、愛子さんに『天使はゲル状の内に叩け』ってアドバイス貰ったばかりなので...放っておきましょう?」
赫鳳 徹子は、ここぞとばかりに音向 愛子のアドバイスを引っ張ってきた。
「それにしても、しっかり対策を打ってきましたね、天使側も」
二色 美端が天使を記録媒体越しに睨む。
このデパートの階層は地上12階+地下1階の全13階あり、このシャンデリアは吹き抜け構造になっているエントランスの天井に吊るされてある。現在御伽少女達が居るのが地上1階。そこから地上12階にあるシャンデリアは攻撃できなかった。
『ガシャンッ!!!』
三人が愚痴を零していると、シャンデリアが自身が垂らして作った黒いゲルの溜まりに落下する。
『堕ちれ、終われ、ヤガテ宇宙ハ終末リ運命。ララ、ラ、ラララ、ラ、ララ』
リング状のパーツが組み上がっていき、ドレスになる。スカートのパーツは、複数の光の翼を使うことで段階形状となっている。その上には極端なクビレ、ヴァイオリンの弓の様な腕、光の翼でできた鍔の広い女優帽。シルエットは清廉なイメージを持たせる。
しかし、スカートは左脚の前に翼の先端が来ることで途切れ、深いスリットが入る。その結果、左脚が丸見えになっており、妙に色気を立たせる。ちなみに右脚は確認できない。と言うより、元から無いのだろう。更に異様なのは、右肩と左肩の高さがズレていることだ。胸にあたる部位に横向きのリングが2つ重なっている。上段に右腕、下段に左腕が接続されているせいで、両肩の高さがズレたシルエットになっているのだ。
『我等は高次元。死になさい、人間共。とても楽しいわよ、ハハハ』
頭上には空間の歪みによって、サイズの異なる光の輪が五つ縦に並んでおり、それぞれから光の糸を垂らして、このドレスコードを決めた天使を動かしている様に見える。
「なんか、ほかの天使よりよく喋るというか、聞き取り易いというか。どっちにしろ、気持ちが良いもんではないんだけど」
「音向さんが言ってた、人間を取り込む程、より流暢に喋れるって奴ですね。このデパートに死体や血痕がないのも、そのせいでしょうね」
丘六 緋羽夢の問に、二色 美端は回想で応えた。
〜〜回想開始〜〜
紅茶をゆっくり味わう音向 愛子。
「天使は攻撃活動に入るまでに幾つか段階が必要です。そのひとつに、『周囲の物体を取り込む』という段階があります。この"取り込む"という行為は、活動を一通り終えた後、殺害した人の亡骸に対しても行うことがあるんです。故に活動後にその現場に訪れても、血痕等が見つからないことが多いという訳です」
「え?なんでそんな手間なことするんですか?それと、アイスティーあります?」
丘六 緋羽夢のなんて事ない発言に、アチャーという顔をして額に左手を当てる粼 揺蕩。
「オホン、まず、アイスティーについてから。ここには損なモノは無いです。紅茶の風味が失われるので、アイスティーは冒涜であり、禁止です。ここは主催側として譲りません」
音向 愛子の唐突な説教に、
「緋羽夢ちゃん、やっちったね〜。長いよぉ〜。こう言って毎回アイスティー出してくれないんよぉココ。それ以外は結構揃ってるのにさぁ」
割り込んでくる啄 儘世。
ヤレヤレ顔である。
それでも尚、音向 愛子は続ける。
「冷やす、凍らせるといった所謂、"冷却"と呼ばれる行為はそう簡単に行えるものではありません。実際、人類が火、つまりは加熱と呼べる道具を普及させるのと、冷却を容易に行える道具を普及させるのには大きな時差があります」
「要は『壊す』『散らかす』のは簡単でも、
『直す』『片付ける』のは難しいってことよな?」
「その通り「です」」
二色 美端の合いの手に、音向 愛子と粼 揺蕩が合わせる。
「え、二色さんわかったんですか?」
「ガチでそっち側なんだな...え?揺蕩姉さんも理解できてるの?」
半ば諦めかけていた赫鳳 徹子と、驚きを隠せない丘六 緋羽夢。
「理論はね。細かい計算とかはできないけど、世界観は把握してるわ」
「え?儘世さんは!?」
こうなってくると、確かめざるを得ない。
「ワタシは、愛子が話しているのを聞いて、大まかに知ってるだけ〜。そこら辺の分野には疎いね。まぁ、エントロピー増大の話っしょ?」
「...だいたい当たってますよ」
音向 愛子が応える。
「二色ちゃん的に言うなら、"加熱"ってのはエネルギーを散らかす事、"冷却"ってのはエネルギーを整えるって事かなー?んで、散らかすのは簡単だけど、片付けるのは大変だって話っしょ?」
「あら、分かりやすく纏めてくれてありがとう、儘世ちゃん」
「いつも世話になってるんで、これぐらいはね〜」
組んだ長い脚をふらつかせながら、粼 揺蕩に応える啄 儘世。
(話を聞いて理解できるだけでも凄いのでは?)
と思う赫鳳 徹子なのであった。
「とりあえず、何が言いたいかと言うと、
ここにある物やエネルギーは全て私のラメで表現されています。加熱という単純な物理現象を表現するのは容易く、ラメの消費も抑えられます。しかし、冷却となるとそうは行きません。まず、私が持ちませんし、何より激しいラメの消耗はより強力な天使を誘き寄せます。ですので、アイスティーはどうやってもご提供できません」
「え、ここにある物全部、音向さんが出してるんですか?」
丘六 緋羽夢は驚かされてばかりであった。
「...そうですね、はい」
「緋羽夢ちゃんに驚かれて、恥ずかしくなっちゃってるみたいね。ちなみに、普通こんなに表現するにはラメ不足で倒れちゃうのよ」
「え?じゃあなんで愛子さんは大丈夫なんですか?」
次から次へと疑問が湧いてくる。
「言ったでしょ?ここの料理は全部愛子ちゃんの手作りなの。この手作りの手間を入れることで、ラメの消耗を抑えているのよ」
「ん?そんなんで、ラメの消耗を抑える事ができるんですか?」
丘六 緋羽夢の勘が踏み込ませた。
「えぇ。恐らくですが、ラメは『願えば叶う』と言った魔法や奇跡ではなく、単なる物理現象です。故に手順を増やしたり、原理を理解した上で行うことでラメのロスを抑えることができるんです」
「えっと、夢や目標を叶える際に、『願う』だけでは殆ど実ることはないけど、『手順や理解をする』方がそこに辿り着きやすい。ってことですか?」
「はい、そうです。二色さんありがとうございます。ただ単に、『確率に身を任せて事が成る』ではなく、『より確率をあげる行動を取れる』のが、生物の特徴ですね」
また、二色 美端と音向 愛子の間で話が進む。
「そして、天使も恐らく、我々と同じラメを使用しています。ただ、天使の場合は、現界したての段階ではその存在がかなり不安定なんです」
「状態が安定してないから、ブレて見えたり、距離感が掴みにくいんですね」
二色 美端がこれまでの戦闘を振り返る。
「はい、おそらくは。安定していない天使というのは"質量を持たず、エネルギーだけを有するもの"という、すり抜けたり、他の影響を受けやすい、そんな状態だと思われます。時と場合、観測状況によって粒や波のように変わる不安定な存在なんです。だから距離感が掴みにくいのだと」
「二重スリット実験、的な...?」
「はい、恐らく。条件をそろえることで、安定化させている、特定している、と言ったところかと。天使は現界したてではその状態を安定させることができず、その場に留まるだけでラメを消費する筈です。光が留まることができないように。故に周囲の物体を取り込むことで、安定を図り、ラメの消耗も抑えます」
「んー、なんで人間も取り込むんですか?」
何となく部分的についてこれるようになった丘六 緋羽夢が手を挙げる。
「そりゃ、殺したい相手のことを知ってた方が、効率よく殺せて、ラメを抑えることができるからじゃね?」
すると応えたのは啄 儘世であった。
「...はい、恐らく、啄さんの仰る通りだと、私は推測しています。未だに天使の行動原理は分かりませんが、『人間を殺すこと』が目的なのは間違いないでしょう。だからこそ、人体を取り込んで、より効率的にその目標の達成に近づこうとしているのだと思います」
そのように音向 愛子は纏めた。
〜〜回想終了〜〜
「ま、愛子さんの言う通り、何もしなかったら何もしませんね」
「本当にラメの消費に反応してんだなぁ」
安心する赫鳳 徹子に、感心する丘六 緋羽夢。
「下手に変身しない方が良いって情報は本当に助かりましたね...」
二色 美端がしみじみと呟く。
こんな状況でも、天使は吹き抜けのド真ん中で、ただ踊っている。こちらに見向きもしない。
『我等は天使。人間達ヨ。坂を落チなさい』
等言い続け、踊っている。実質的にオルゴールのようなものである。
「この、謎のオーケストラみたいな音は不快だけど、何もしてこないのならとっとと任務やっちゃいましょーや」
丘六 緋羽夢が手をパンパンと叩く。
「この音は音向さんが言ってた、ラメを消費する際にロスとして出る物を人間は演出のように捉えるってやつですね。きっと」
「あぁ、充電中に熱が発生するのと同じ〜的な話ですよね?」
「それです。それ」
赫鳳 徹子の合いの手に、二色 美端がサムズアップで応える。
「てか待って、それなら、なんでアイツ踊り続けてんの?ラメの無駄遣いじゃない?」
「「確かに」」
3人が疑問を抱いた時、その頭上から
「トキメキに乾く!キラメキに飢える!
レッツ!トキラメクル!俗物!」
天使に向かって飛び込んできた。一人のトキラメクルが。
ガシャァアーーーン!!
「はっはっはーーー!!セイバイじゃあ!」
潰れた天使の上で、胸を張って勝ち誇り左腕を掲げる少女。ゴスロリのアレンジが入ったパーカーにショートパンツと軽い服装。目立つのは頭に大きな丸い獣耳の様なものがあること。ネズミ色の髪がそれを作っているのだろうか。細いしっぽも生えている。
「儘世さんの命令で、恩をu...じゃなかった!助太刀に来まぁしたぁ!"俗物"こと沼 三二ぃです!!あれ?御伽少女達の皆さんは?どこなん?」
口上も聞かないうちに御伽少女達の三名は逃げ出していた。すぐに気がついたからだ。俗物のせいで天使が稼働していたことに。
「あれー?御伽少女達?どこですかー?」
ブスッ。
「あ"ゥ"?」
踏み台にしていた天使の右腕が、沼 三二の後頭部から貫く。
「ア"ぁ、あ"あ"ぁ」
藻掻く沼 三二を刺したまま持ち上げる。右腕と左腕がそれぞれ別のリングに接続されている為、どうやら別個に動かすことができるらしい。右腕は沼 三二をより高く持ち上げれる位置にセットされる。そして左腕は、
『ギュィイイイイイイイイイインンン』
その接続されているリングごと高速回転し始めた。左腕が接続されているリングだけ回っているので、頭部や胸から下、右腕はその回転に影響されない。この両腕の動きは、上から見れば時計の短針と長針を想起させただろう。あちらと違って連動はしていないが。
そしてこの後、起こることは簡単に想像がついた。
「ビィイ!ブチャチャブチャブチャブチャチャチャチャチャチャブチャチャチャ!!」
右腕で吊るし上げた沼 三二を、その足先から頭にかけて、下から順繰りと回転する左腕で木っ端微塵にしていったのだ。ヴァイオリンの弓に見えた理由の一つである弦の様なパーツは、恐らく天使がよく使う光の剣が弦の形状になったものなのだろう。
「ガァああがアアびャアあ!!」
頭を貫かれたせいで、言葉を紡ぐことはできないようだが、声は出せるのが余計にその悲惨さを訴えてくる。
ただ、その肉片と血しぶきは、クラッカーのメタリックテープのようにばら撒かれ、辺り一帯を煌めかせる。
一通り挽肉にした後、天使は
『次の、不確定要素ハ...そこか?』
(((ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい)))
距離はとっていたが、唖然としていた三人に首を向ける。
もう我慢出来ない、三人とも慌てて変身する。
「「「トキメキめぐる!キラメキきたる!
レッツ、トキラメクル!!」」」
「臆病者!」
「音盤!」
「構え太刀!」
その変身に反応し、天使が迫ってくる。そして途端に例の陣形になる。
「えぇ!?!?また私を盾にするつもりですか!?!?!?」
そして、冒頭の惨状になる訳であった。




