剛を制すには、柔であれ。前編 〜Porcupine's dilemma〜
前回、暴走直前まで追い込まれていた赫鳳 徹子と二色 美端、丘六 緋羽夢達を人魚の少女が助けてくれたところから場面は始まる。
「さて、自己紹介から行きましょうか。私は粼 揺蕩。トキラメクルネームは"泡沫の夢"っていうの」
「私は丘六 緋羽夢、"構え太刀"です!」
(早くお前らも自己紹介しろ!ブッ転がされるぞ!!)という圧をアイコンタクトで送る丘六 緋羽夢。危機察知能力がビンビンに反応していた。
「あ、あ、はい!その、赫鳳 徹子です!"臆病者"です!助けて頂きありがとうございましたぁあ!!!」
直ぐさま、目覚めたばかりの赫鳳 徹子が続く。傷の方はもう大丈夫らしい。
「...二色 美端です。"音盤"です。助けて頂きありがとうございました」
ペコリとお辞儀する二色 美端。
「3人ともとっても可愛くてびっくりしちゃった。緋羽夢ちゃんは剣道着とその髪が対照的で引き立てあってる。刀を使えるってかっこよくて、憧れる。更に可愛いんだから最高ね」
「え、えぇ、ありがとうございます」
褒められることに慣れてないような素振りを見せる丘六 緋羽夢。
「徹子ちゃんの衣装はパンチがあって良いわ。スタイルの良さにピッタリ。そのルックスのパンチに対して、本人の性格はトゲがなくて可愛いなんて、反則レベルね。ギャップでときめくわ」
「え、えぇ...そ、そうですか?人避けに、してるだけですけど、ね」
照れて仕方ない赫鳳 徹子。
「美端ちゃんは名前の通り、美人でミステリアス。もう惹き込まれそうで、目が離せないわ。でも、喋り方から美端ちゃんの真っ直ぐさが伝わってきて、本当に素敵」
「うぅ...」
逆に何も言えなくなる二色 美端。
(美端って呼ばれて訂正してない!?アイツ、絶対こだわり強いタイプだろ!?完全に丸め込まれてる!!)
丘六 緋羽夢は、粼揺蕩の技量に舌を巻いていた。
「じゃ、3人ともここから離れましょう。また天使が来るかもだし、早くみんなに貴女達を紹介したいわ」
捲し立てるように粼 揺蕩が手をポンっと叩いた。その時、手の隙間からシャボン玉のような光が少し漏れる。
「あの、紹介ってことは、私達以外にもトキラメクルが何人か居るってことですか?」
何か、喉に引っかかったように丘六 緋羽夢が聞く。
「うーん、そうね、今から向かうお茶会には今のところは10人前後するぐらい?だったかしら。他にもそれなりにいる筈だけど、見つけきれてない子や、参加したがらない子もいるから、ちゃんとした数となると難しいわね」
「ぜ、前後するってトキラメクルが増えることがあるんですか?」
「残念だけど、徹子ちゃん。増えることは、ほぼないわね。でも、見つけきれてない娘とか、そういうトキラメクルが見つかって人数が増えることはあるの。減るのは、まぁ天使が原因の大半ね。それと、参加したがらない娘もいるけど」
「そのお茶会を開催してるのはどのような方なんでしょうか?」
「安心して、美端ちゃん。とっても信頼できる真面目な子よ。気張りすぎて堅いところもあるけれど、そこも可愛くて魅力ね」
(この人、皆に可愛い言ってんだろうな)
それが3人の率直な感想であった。
「ねぇ、私ばかり話してたら申し訳ないわ。貴女達の事をもっと聞いてもいい?貴女達をよく知りたいの」
「あ、はい!大丈夫です!ぜ、是非是非!なんでも大丈夫です!!」
「ふふ、ありがとう。そんなに緊張しなくてもいいわよ、徹子ちゃん。じゃあ、徹子ちゃんから質問してくわ。最後の審判が起きる前までは何をしていたの?」
「ふ、普通の高校生でした。りょ、涼明高校です」
(涼明高校って名門じゃなかった?)
(確か私立のお嬢様校でしたよね、普通ではない)
「えぇ!?涼明高校なの?名門じゃない!」
((言うんだ))
「い、いや、ここら辺、その手の学校多いですし...別に成績がいい訳でもなかったですし」
「そうなの?賢そうよ、徹子ちゃん。暗記系とか得意そう」
「暗記とか、基礎は回数こなせば誰でもできますから(照)」
(暗記系が得意そうってなんだ?)
と思う丘六 緋羽夢を差し置いて話は進む。
「その回数をこなすのが大変なのよ。誰でもできることじゃない。それができることは才能よ」
「そ、そうですかね...」
頬を赤らめる赫鳳 徹子。心情の変化が顔に出やすいタイプなのは間違いない。
「緋羽夢ちゃんは?何してたの?」
「緑風大学で大学生してました。哲学専攻です。それと居合も習ってました」
「それで、冷静な判断とあの抜刀術なのね、納得だわ。居合は余程練習したんじゃない?普通の人じゃ見えないレベルでしょ?」
「私、揺蕩さんの前で居合見せたことないと思うんですけど...」
「ふふ、貴女の空気感で察しがつくのよ。何人もトキラメクル見てると、その人がどんな能力で、どんな性格か、大雑把だけど当たりをつけることができるわ。まぁ、これはお茶会を開いてくれている子からの受け売りなんだけどね」
「やっぱりトキラメクルって結構、能力被るんですね...」
「ふふ、能力を推察するのは慣れたらみんなできるわ。あの子が教えるのが上手いのもあるし。安心して、その能力を教えて貰っても私はできないわ、緋羽夢ちゃん。貴女の居合は、貴女自身が、貴女の人生で、築いた財産よ」
「あ、ありがとうございます」
20歳を過ぎてから、こんなに人に褒められるのは、認められるのは、はじめてだった。
「美端ちゃんは?何してたの?」
「...私も高校生でした」
「どこの高校か聞いてもいい?」
「...二色学院高校です」
(へぇ、聞いたことある苗字と思ったら、二色学院の二色だったんだ。てっきり、錦だと思ってたなぁ)
(おいおいおい、地域一のバチバチ超絶名門お嬢様学校じゃねぇか。てか、二色学院って二色家が運営してたよな?)
「やっぱり!立ち振る舞いから育ちの良さが伝わったからそうだと思ってたわ」
「...ま、まぁ、はい、育ちだけは」
「勉強もできるんじゃない?よく観察してるみたいだし、そういう人はよく伸びるわ」
「...テストは受けていましたが、それ以外はほぼ保健室だったので、そこまで成績は良くないですね。一年次も出席日数ギリギリでした」
(まぁ、経営者と同じ苗字ってだけで通いにくいわな)
珍しく丘六 緋羽夢が同情的な視線を送る。
「じゃあ、テストでいい点数取って単位取るしかないから、相当努力してたんじゃない?凄いわね。独りで勉強するのって、好きなことなら良いけれど、そうじゃない教科もあるから、想像以上に大変だったでしょう?」
「ま、まぁ。本を読むのは好きな方なので、比較的独りで勉強するのは苦ではなかったです」
「努力家で読書家なんて、とっても素敵ね。今度、おすすめの本を教えて貰おうかしら?」
「あ、それ私も知りたーい!」
本の話になると急に入り込んでくる丘六 緋羽夢。
「私も気になり、ます!」
慌てて、赫鳳 徹子も声をあげる。
「皆さん本読むんですか?」
物珍しい、と二色 美端が反応する。
「ええ、物語でも図鑑でもなんでも」
微笑んで応える粼 揺蕩。
「哲学専攻してると、ジャンルが偏るんでね」
「ず、図鑑とかよく読みます...生物の」
丘六 緋羽夢と赫鳳 徹子も続く。
「...それぞれ、探しておきます。本を見つけることができたら、渡します」
そこから先の会話では、喋る量は決して多くない二色 美端だが、物理的な距離感は近くなっていた。
そして一行はとある民家のドアに辿り着いた。本当に何の変哲もないただの一軒家である。
「さて、着いたわ。みんな、ご苦労さま」
「ここがお茶会、ですか?」
赫鳳 徹子は思ったより特別感ないと正直思っていた。
「というより、その入口。主催者の子と私の能力でね、」
と言って粼 揺蕩がそのドアを開けると、その先の空間は一面花畑が広がっていた。その中心に大きな円卓があり、そこには
「おかえりなさい、粼さん。そして、お待ちしておりました。赫鳳さん、二色さん、丘六さん。私がこのお茶会の主催者、"締めくくり"です」
明らかにメイドを雇ってる側の風貌をしていながら、メイド服を着こなす紫の眼で茶髪の少女が居た。




