剛を制すには、柔であれ。後編 〜Porcupine's dilemma〜
場面は、赫鳳 徹子達3人がお茶会に招待されたところから始まる。
「おかえりなさい、粼さん。そして、お待ちしておりました。赫鳳さん、二色さん、丘六さん。私がこのお茶会の主催者、"締めくくり"です」
長く少しウェーブのかかった茶髪をハーフアップに纏め、紫の眼が印象的な少女がお辞儀をする。紫の眼は光っているように見えた。
「本来であれば、ゲストをもてなす事を優先すべきなのですが...フー、その前に。粼さん、"水泡に帰せ"の使用は控えてください、と以前も言いましたよね...?」
「えー、私なら対処できると見越して、お迎え担当にしてくれたんでしょ?」
「そ、う、で、す、け、ど!!貴女ならいくらでも他の手段で制圧できたでしょう?どうしてコストの高い水泡に帰せを使用したんですか??」
粼 揺蕩に圧をかける締めくくりと名乗る少女。
「だって、第一印象は大切でしょ?」
それにウィンクで返す。
「...だから一番"格好がつく"水泡に帰せを使用したと」
「えぇ♪」
左手でハートをつくる粼 揺蕩。
「はぁ...いや、ハイ、確かに迅速な対応でした。あの状況では赫鳳さんを助けるのを優先すべきですからね。ありがとうございます」
「こちらこそ、心配かけてごめんなさい」
両手を合わせ謝る粼 揺蕩。呆れ顔で済ます締めくくりと名乗った少女。日頃からこの流れなのだろう。
その時、違う方向から声がかかる。
「愛子ーー。お取り込み中申し訳ないんだけど、お菓子のおかわりあるー?もう無くなりそうなんよぉ」
気だるげに締めくくりと名乗った少女に手を振る野性味の強い女性。
髪は褪せた赤色で、同じく褪せた青がインナーで入っている、ウェーブのあるショートヘア。
露出度の低いメイド服を着こなし品のある締めくくりという少女とは対照的に、肩や胸元、脚が出ており野性味が強い衣装になっている。髑髏や赤い紐のような意匠が多いのも目につく。
「あの、申し訳ないという気持ちがあるなら少しでもいいから態度に示してくれませんか?初めからないなら、もう言わなくていいので...というか、啄さん達には文字通り山盛りのフィナンシェを最初で回しました、よね?」
笑顔ではあるが、明らかに内心笑っていない声色で応える。
「いやいや、ごめんって。うちのバカ2人が腹減ったって、早食い競争始めちゃってさ。このままだと、相手どころか自分まで食べちゃいそうで。頼むよぉ〜」
「ちゃんと躾してください...」
そう小声で呟くと、締めくくりはスっと立ち上がり、山盛りのティーケーキをサッと渡した。
「トキラメクルとして覚醒した時点で、空腹に悩まされることはないんですけどね。状態維持効果がラメによって付与されているのですがね」
「どんな魔法だろうと奇跡だろうと、人の腹は満たされないもんよ、ハハ」
「この世界に、魔法も奇跡も、腹を満たしてくれるものもありませんよ...」
締めくくりと名乗る少女と、野性味の強い女性が目線で銃撃戦をしているところを、
パンッと粼 揺蕩が手を叩く。
「本当に2人とも仲良しね♪とってもいいことだわ。さ、みんな座って。お茶会を始めましょう」
呆気にとられていた赫鳳 徹子たちを粼 揺蕩が先導し席に座らせる。ちなみに丘六 緋羽夢は言い合いが始まった時点で座って茶菓子に手を伸ばしていた。
『いやぁ、このままメイド服と野生児が喧嘩してたら、数時間立ちっぱなしだったろうから、ヒヤヒヤしたね』
(私の脳内を勝手に代弁しないでくれませんか?キモキモフネタマガイ)
『君、悪魔には当たり強いね』
「そりゃそうでしょ」
「え?」
一同に振り向かれる赫鳳 徹子。
「ご、ごめんなさいッ!あ、悪魔が話しかけて来てて!!」
「あぁ...なるほど、悪魔でしたか」
何とも言えない視線を締めくくりが向けてくる。
(悪魔、絶対殺すッ)
『おぉ、こわいこわい』
「コホン、」
締めくくりがひとつ咳払いをする。
「せっかく来てくださったのに、対応が遅れて申し訳ございません。改めまして、このお茶会の主催である、"締めくくり"こと、音向 愛子です」
お辞儀をする締めくくりもとい、音向 愛子。そして隣を指し、
「そして、皆さんを案内して頂いた」
「"泡沫の夢"こと、粼 揺蕩よ」
粼 揺蕩が笑顔で手を振る。ティーポットを運んで、お茶を入れる準備をしてくれているようだ。音向 愛子がアイコンタクトで感謝を伝えている。
この円滑なやり取りと細かい役割分担から察するに、いい関係を築いてそれなりに経つのだろう。
「そして、アチラで食い意地を張ってるのが」
「"腐っても美女"こと、啄 儘世。こっちのふたりは気にしないでねぇー。ワタシは礼節とか気にしないから、気軽に接して〜」
「......」
音向 愛子の沈黙の笑顔が怖い。一方、啄 儘世はそんなことは少しも気にせず、足を組みくつろぎながらこちらにピースサインを送ってくる。その脇で2人の少女が目の前に置かれた山盛りのフィナンシェとティーケーキを貪っている。
この不穏なやり取りから察するに良くない関係を築いてそれなりに長いのだろう。
切り替えて、音向 愛子が説明を続ける。
「普段は、あと2人ほど参加者が居ますが、今回は人が多過ぎると混乱されると思ったので...」
「その2人も、モチロン可愛いわよ」
左手で♡を作る粼 揺蕩。
(((やっぱりこの人、誰にでも可愛い言ってるのでは?)))
「コホン、それは置いておいて。今は色々混乱されていると思いますので、ここで一旦くつろいでください。お茶もお菓子もいっぱいありますよ。質問も、私が答えられるものでしたら、答えます」
「またまたぁ~、質問なんて、そんなにかしこまらないで。愛子ちゃんはみんなとお話したいだけなのよ。だからお茶会を開いてるんだから」
「...粼さん、そういうことは、あまり言わないでください」
啄 儘世の時とは違い、優しめに釘を刺す。
「あと、このお茶菓子も愛子ちゃんが作ったから食べて欲しいのよね?とっても美味しいのよ。愛子ちゃんのお菓子は」
「ん、粼さん...そういうのは、控えてください」
「揺蕩って呼んでくれたら、控えましょうかね?」
「うぅ、揺蕩さん...控えてください」
「はーい。そうするわ」
(完全に手玉に取られてるな)
茶菓子に舌鼓を打ちながら丘六 緋羽夢は、粼 揺蕩の対人能力を上方修正する。
「じゃあ、お喋りとして。私から質問いいですか?」
丘六 緋羽夢は、直ぐに手を挙げた。
「はい、どうぞ」
音向 愛子が応える。
「なんで私達を招待したんですか?」
「それはですね、単純に皆さんがとても優秀だからですよ」
「「「へ?」」」
3人は口を揃えた。
「皆さんが対面した天使、我々は"電撃処刑人"と呼んでいます。あの電撃処刑人はこれまで7回、出現を確認しています。その7回中、6回は電撃処刑人の初手の一撃、"天罰"で対象のトキラメクルを絶命に追い込んでいます」
「や、やっぱりそれだけの威力ありますよねぇ!?」
キツかったですー!と言いたげな赫鳳 徹子に対し、
「いや、徹子2回も喰らってたじゃん。そっちの方が怖いんだけど」
(いや、それを一撃で倒した揺蕩の姉さんがいちばん怖いけどな)
それまでは、さすがに丘六 緋羽夢でも口に出さなかった。
「そうです。出現した7回の内、1回だけ電撃処刑人がトキラメクルを仕留め損ねています。その事例が赫鳳さんです」
「エッ?えぇ??」
赫鳳 徹子には実感がない。というより、覚えがないような印象を与える。
「今までは、天罰の一撃で仕留めていたので、電撃処刑人の手の内はそれしか把握出来ていませんでした。しかし、今回の赫鳳さんとの戦闘では、光の剣と絡めた天罰、緊急脱出として使用された緊急飛翔、天使には珍しい遠距離の攻撃手段である鉄拳制裁と言った未確認の手札を確認できました。天罰だけでなく、鉄拳制裁という遠距離の攻撃手段があることが知れたのはかなり大きいです。更に、これだけの攻撃を受けて生存している赫鳳さんは、トキラメクルの中でも貴重な存在です」
スラスラと述べる音向 愛子。
「またぁ、堅い言い方して。ちゃんと『居なくならない友達が欲しい』って言わないと相手に不審がられるわよ?実際、美端ちゃんは警戒しちゃってるわ」
「え、?あっはい、?」
二色 美端はいきなり心中を当てられてビックリする。
「美端ちゃん、自分で思ってるより顔に出るわよ。とっても可愛い」
視線をティーカップに逸らす二色 美端。
ただ、質問はする。
「いや、なんで到着があのタイミングだったのかな?と」
「到着が遅れた理由は電撃処刑人の出現を確認したタイミングと転送できる場所が悪かったのよ、ごめんなさい」
申し訳なさそうに応える粼 揺蕩に対して、
「転送?」
丘六 緋羽夢は聞き捨てならないと、反応する。
「そう、転送。といってもどこでもできる訳じゃないわ。電撃処刑人のすぐ近くに転送することができなくて、到着が遅れたの」
「ナルホド...」
二色 美端としては、これ以上聞いてもはぐらかされるな、というラインであった。
(完全にこの場を制してるな、この人)
丘六 緋羽夢は、再び粼 揺蕩の対人能力を上方修正する。
二色 美端は諦めたが、丘六 緋羽夢は続ける。
「そういえば、どうやって状況把握してるんですか?皆、ここに居たんですよね?」
「それはですね、説明すると少し複雑になるのですが...」
「私から説明するわ、愛子ちゃん。緋羽夢ちゃんの言う通り、愛子ちゃんはこのお茶会を離れることができないのよ。ココを作っているのは愛子ちゃんの能力だから、その起点である愛子ちゃんが離れちゃうとこのお茶会が崩れちゃうのよね」
「お茶会は音向さんの能力なんですか?」
「そうよ、美端ちゃん。そして、この空間への出入り口を私の水泡に帰すって能力で作ってるの」
「んー、その揺蕩さんの能力がよく分からないんですよねー」
丘六 緋羽夢の問に、粼 揺蕩が応える。
「そうねぇ、簡単に言うとシャボン玉を作る能力よ」
「...え?説明終わり?」
丘六 緋羽夢はキョトンとするしかない。
「えぇ(左手で♡を作る)」
(あ、この人説明する気ないな)
3人とも同じ感想だった。
「私から補足を。揺蕩さんのシャボン玉は特別で、紐付けたシャボン玉同士はどれだけ離れていても、お互いが対応する動きをします。ですので、ここに居ても、対応するシャボン玉さえ飛ばしてしまえば、遠くの事象をシャボン玉で確認したり、遠くの空間を繋げることができるんですよ」
音向 愛子が占い師が使う水晶玉のようなシャボンを円卓に置く。
「これがそのシャボン玉です。このシャボン玉と揺蕩さんが飛ばしたシャボン玉をリンクさせると、飛ばしたシャボン玉に写った様子をここで見ることができます」
「は?」
「へ?」
丘六 緋羽夢と赫鳳 徹子は同じ反応をしてしまった。
ただ、
「なるほど...」
二色 美端だけは違う反応であった。
「え?二色わかったん?」
「転送辺りから薄々は。多分、シャボンで量子もつれと似た働きを再現してるってことですよね?それで情報のやり取りを...いや、そんなことできるんですか?」
「はい、可能です。揺蕩さんなら。でも良かったです...流石、二色さんはその手の話に精通していて助かります」
「え?え?どゆこと?」
丘六 緋羽夢はついてこれていない。
「美端ちゃん、量子力学関係のコミュニティでそれなりに名が通ってるのよ」
「そうなんですか!?!?」
ようやく追いついてきた赫鳳 徹子。
「えぇ、コンテストに提出したレポート、目を通させて貰いました。大変素晴らしい視点だと思います」
「やっぱり!音向さんって、あのコンテスト主催の音向家の方ですよね!?」
「はい。内緒ですよ?」
ウィンクする音向 愛子。
二色 美端は、衣装の関係上目を隠しているが、目を輝かせてるのは誰からもわかった。
「待ってください、ということは?揺蕩さんの能力で量子通信技術諸々を再現して、ここに情報を写しているんですか?」
「そういうこと」
左手で♡を作る粼 揺蕩。
「え、え?すごい...!で、でも、そんなことできるんですか!?量子通信自体の理論は、確かにほぼ完成してましたけど...エネルギー問題とか、再構成技術とかは?特にエネルギーは最大のボトルネックになっていたはずですけど」
「ラメの波に乗ればできるわよ。練習すればみんな、ね」
「ほ、本当に魔法みたいですね...」
二色 美端の発言に対して、少し微笑む音向 愛子。
「もちろん、厳密に言えば、量子通信技術だけではないのですけども。その理論の延長線上ですね。それと、練習すれば皆さんもできます。魔法なんてありません。私もそうやってこの空間を創りましたから」
(やっべぇついてけねぇ)
(すごいことをしているんだろうなー)
そう思う丘六 緋羽夢と赫鳳 徹子であった。
それを察する二色 美端。
「つまり、この空間を作っているのが音向さん。各地に出入口と窓を作ってるのが粼さんってことですか?」
「大体あってるけど、一つだけ。私は揺蕩でいいわよ」
「は、はい...分かりました。揺蕩さん」
一纏めしてもらったところで、
『纏めてくれる人達で良かったね』
(だから人がいる前で話しかけるな悪魔)
悪魔に毒を吐きつつ安堵する赫鳳 徹子であった。
「で、さっきも言ったように、この出入口も好きに作れる訳じゃなくて、ちゃんと条件があるの。今回作れたのが徹子ちゃんとそれなりに距離があって、到着が遅れちゃったのよ。改めて、ごめんなさい」
「いえいえいえいえいえ」
赫鳳 徹子は全力で首を振った。
「いや、あの徹子ちゃんを助けるのはよくわかったんですけど、なんで私と二色もなんですか?」
「それは私も気になってました」
丘六 緋羽夢に続く二色 美端。
「私の推測が正しければ、お二人も相当な使い手だからです」
「それと、可愛いから。二人とももっと自己評価上げていいのよ」
音向 愛子は、粼 揺蕩の合いの手に少しリズムを崩されるが、持ち直す。
「そして、ここからが本題でもあるのですが、赫鳳さん、二色さん、丘六さんの三名でチームを組んで欲しいのです」
3人の了承を得る前に、粼 揺蕩は
「チーム名は"御伽少女達"がいいかしら?」




