意図せず、買った恨みに気づけるか。 〜Energy loss〜
トキラメクルとして覚醒した3人が合流したところから話は再開する。
「貴女の距離から斬撃は当てることできないと思うんですけど」
「まぁ、そこはねぇ。そういうことができるってのが私達ってことでしょ」
飄々と返す丘六 緋羽夢。
「えっと、ということはアナタもトキラメクルなんですよね?」
「そうそう。そうなんよ。いやいや、そんなに睨まないでって〜」
両手を振って無害アピールをする。
「私も今来たんだからさぁ。私は丘六 緋羽夢。歳は20!トキラメクル的に言えば、構え太刀らしい!2人とも!前衛は宜しく!」
そう言って、丘六 緋羽夢の髪はライトグリーンのロングから三日月状の光の粒を散らし、茶髪のポニーテールになっていた。その茶髪が覚醒前の彼女の髪色なのだろう。どうやら変身を解除し、ラメによる初歩的な防御だけの状態になった。戦闘の意思はないことを行動で示したカタチだ。
ちなみに、構え太刀は変身を解除してもゴスロリ調の剣道着は元に戻らないようだ。
「「......」」
「あれ?私自己紹介したし、次はアナタたちのターンじゃない?」
圧に屈して赫鳳 徹子が変身を解除し、自分にも戦闘の意図はないと示す。丘六 緋羽夢とは違い、金属火花が飛ぶだけで髪は戻らないし、地雷系のフリフリ衣装も戻らない。
変身を解除しても外見に変化はない。
「赫鳳 徹子です。17です。トキラメクルネームは...臆病者です」
「ンッ(吹き出しかけるが、失礼だと思い抑える)」
「ハハハッ!ピッタリ!(刀の柄を叩いて笑う)」
心底後悔し、
(あの悪魔をいつか懲らしめる)
と、心に決めた赫鳳 徹子であった。
「んで、そこのフィルムガールは?」
「赫鳳さんはいいとして、私はまだ貴女は信用してませんよ」
「へぇ?」
「いや、気になってたんですよ。『私"も"今来た』って言い回しが」
「ほぉ、つまり?」
「貴女、赫鳳さんが天使に斬られても助けないである程度、傍観してたのでは?状況を知ってたから"私も"と言ったのでは?」
「えぇ...そうなんですか?」
赫鳳 徹子は少し身を引く。
ここに来て初めて、ヘラヘラしていない顔を2人に見せる丘六 緋羽夢。
(その程度の発破には乗らねぇよ)
とも言いたげに。
「目線を隠しているような奴に言われたくないね、証拠もないし。言葉の綾ってのもある」
「目に関しては能力の仕様上仕方の無いことなので。ただ、信用はならないのは確実と思いますが?」
「いい性格してんねぇ、あんた」
丘六 緋羽夢とのにらみ合いの中、
「あ、あのぉ、わ、私としても、助けてもらった人の、名前は聞いておきたい、というか、その、はい」
赫鳳 徹子が小さく手を挙げながら聞いた。
「はぁ、」
眉を顰めつつ、カメラのフラッシュのような一瞬の光を放ち変身を解除する彼女。赫鳳 徹子と同じように変身で外見が変わるタイプではないらしい。演出は3人の中では一番抑えめ。彼女は変身を解除したとしても、赤い髪、キャミソールにショートパンツ、全身フィルム巻き巻きで、目が隠されてるのも戻らない。
こちらも赫鳳 徹子と同じように、解除しても姿は変わらないタイプらしい。
「...そうですね、私も赫鳳さんに負担をかけたことは事実ですし。そのお詫びとしてで、手を打ちます。私は、二色 美端。17です。呼ぶなら二色の方でお願いします。トキラメクルネームは音盤です」
「うし、全員自己紹介終わったから!友達ってことで全部流そう!ヨロシク!徹子ちゃん!美端ちゃん!」
「美端って呼ぶの止めてください。二色でいいです...てか、全部流す為に友達になるのは、順序が逆と思いますけど」
「結果は同じだからヨシ!そう言えば、徹子ちゃん」
「はっはい(本当に友達感覚で名前呼びしてきた)!?」
「臆病者としての能力であの攻勢を凌いでたの?」
「そ、そうらしいです!この悪魔が言うには!」
空を指差す赫鳳 徹子に対して、気まずそうな視線を向ける2人。
「あ、あれ??」
『あー、そうだった。君に言い忘れてたことがあった』
「へ?」
素っ頓狂な声をあげる赫鳳 徹子。
『トキラメクルとして覚醒した時に見える僕ら悪魔はね、主従関係を結んでいる人物にしか姿は見えないし、声は聞こえないし、臭いは嗅ぎ取れないし、肉体に触れることも出来ないんだ』
「...なんで今言ったの?私頭おかしい人じゃん」
『一応、トキラメクル一人一人に居るはずだから、その2人も理解はしてくれてると思うよ。言うタイミングがなかったから言えなかっただけで、隠すつもりはなかったんだけど。気を使って、2人きりの時だけ話しかけてたんだけどね』
「え?じゃあ、このキモキモフネタマガイの気色悪さを共感してくれる人は居ないの?」
20秒...
意外にも、二色 美端が先に口を開いた。
「わ、私の悪魔もだいぶキモイ部類ですよ?な、仲間ですねぇ...や、やったぁ?」
「あんたら2人、結構戦闘中と今とで喋り方変わるよね」
そして、丘六 緋羽夢の余計な一言により、
1分30......
その空気を破ったのは、
『火入れッ!』
謎の掛け声と雷鳴だった。正しく大地を揺るがす程の。落雷の衝撃を、地割れが嫌でも物語ってくる。
舞い上がった砂埃が晴れた時に、その正体はわかった。雷ではなく、天使だ。それも先程の天使とは比べ物にならないレベルの威圧感を放つ。まず、出で立ちが違う。先程の天使は本当に取ってつけた人型であり、あくまで操り人形の範疇とも言える動き方だった。どれだけ動いても、宙に浮いてるので地面にはなんの影響もなかった。
しかし、目の前のコイツは、着地(と思われる)動作で、あまりの衝撃で足元の地面を割り、あまりの熱量で足元の土がガラス化している。そして太く力強い黒金色の両脚が「脚とは大地を踏みしめ、立ちはだかる為に在る」ということを訴えてくる。
ボディから照りつける金属光沢がその頑強さを嫌でも見せつける。頭上には空間の歪みによる光の輪が見えるが、そこから糸は出ておらず、本当に飾りとしてある様にしか見えない。
先程の天使とは違い、この世界に地に足つけて存在しているということが、その出で立ちで明白であった。
あまりの衝撃に我を失っていた3人だが、事の重大さを直ぐさま理解し、変身詠唱を行う。
「トキメキめぐるッ!キラメキきたるッ!
レッツトキラメクルッ!」
臆病者!
音盤!
構え太刀!
「変身したのはいいんだけどさ、なんでアイツ動かないの?」
丘六 緋羽夢の言う通り、天使は動かない。
「天使の心情なんて分かるわけないじゃないですか。あの状態から動かないなら、推察のしようもないですよ」
と、二色 美端が毒づく。
「に、逃げていいんじゃない、ですか?み、見逃してくれるのかもぉ、、、」
そろぉり、そろぉり、と赫鳳 徹子が足を踏み出した時、誤って躓き尻もちをついてしまった。
「あちッ!」
その瞬間、天使の両眼が更に強く輝き出す。それを皮切りに辺り一帯を覆う雲に雷が走る。始めは小さく稲光程度のものが、重なり合い雷鳴を轟かせる程の雷になった瞬間、天使に叩き落とされた。
その雷は耳の避雷針に受け止められ、天使が全身に雷を纏ったような様になる。
『一撃、』
そう天使が言うと、右人差し指を天に指す。人差し指の頂点の一点に、天使の纏っていた雷が集中する。
『天罰!』
天使の高く掲げた指を赫鳳 徹子に指す。この後に起こる事象をいち早く察知したのは丘六 緋羽夢だった。彼女は「逃げの勘」が冴えていた。そして更に逃げることに躊躇いもないので、全力疾走により一番徹子から距離を取っていた。
次いで二色 美端。勘ではなく、総合的な状況判断を優先したのと、赫鳳 徹子への配慮から丘六 緋羽夢よりも判断がワンテンポ遅くなったが、それでもほぼ即決できたのは、それだけ危機的状況にあると本能が訴えるだけのことを天使が引き起こしていたからだ。
さて、一番の問題である赫鳳 徹子だが、未だに尻もちをついたままだった。完全に雷の怒号と明滅で頭がショートしていた。そんな赫鳳 徹子に
ババババヂヂッン!!!
大地を引き裂く雷撃が届いた。ちなみに天使が『一撃』と述べてから、ここまで約5秒ほどである。
雷撃は完全に赫鳳 徹子だけを標的にしており、距離を取っている二色 美端、丘六 緋羽夢には影響はなく2人共に無傷であった。しかし、あまりの衝撃に2人とも腰を抜かしその場から動けない。感覚器官が受け止められる許容量を優に超えていたので、致し方ないことではあった。
さて、天罰をモロに食らった、なんなら独りで全衝撃を受けた赫鳳 徹子だが、
「あ、ああ、あ"あ"、あ"...」
相当赤熱しているし、指先しか動かすことができず、微動させているだけだった。しかし、なんと無傷である。これが赫鳳 徹子、臆病者の能力である"鉄は熱いうちに撃て"の効力が存分に発揮された故の現状だった。
それを確認した途端、天使は
『光の剣!』
と詠唱し、飾りにも見える空間の歪みから光の剣を引き抜く。前回の天使の光の剣は、雲の切れ間から刺す光の柱のように揺らいでおり、"在る"とは言い難いものだった。しかし今回の天使の光の剣は、確実に実体のあるものとわかる。天使の躰と同じ金属光沢を放っているので同様の素材なのだろう。その光沢は、それこそ光の柱の輝きを放つ。
その剣を天使は赫鳳 徹子に投げた。
「んっが、、、!!!」
光の剣が赫鳳 徹子の胸に深々と刺さる。前回の天使の斬撃は、熱に変換された為、実質的には赫鳳 徹子の体表になんのダメージもなかったので、切断等は起きなかった。しかし、今回は深々と刺さっている。
『一撃天罰!』
先程は悠々と行っていた天罰を間髪入れず実行する。今度は赫鳳 徹子に刺さった光の剣の柄に向かって放つ。
その柄を伝って、赫鳳 徹子に刺さった刀身から電撃が到達する。つまり内部から電撃を受けたのだ。
「......」
赫鳳 徹子は呻くことすらできない。のではなかった。天使を睨みつけている。深く深く。今までの赫鳳 徹子からは絶対に感じ取れないであろう殺意が、二色 美端まで伝わった。
「んっぐ、アッ!」
赫鳳 徹子が自ら左手で光の剣を引き抜く。出血はない。傷口が焼けているからだ。
しかし、途端にそこから血が吹き出す。我慢の限界とも言うように。しかも普通の血ではない。ドロリとしたまるで溶けた鉄のような、重い血だ。その血は、落ちた先の地面を焼いている。非常に熱を持っている。その血を自分に刺さっていた光の剣に当て、赤熱化させる。
『緊急飛翔!』
天使が何かを察したのか、跳躍するのと同時に背面から真っ赤な翼を展開する。それこそ戦闘機のような、滑らかな翼を。そしてそのまま飛翔した。
それにワンテンポ遅れて、赫鳳 徹子が赤熱化させた光の剣を天使に投げ返していた。しかし、天使は既に飛翔しており、更には赫鳳 徹子の投擲能力の低さもあって、当たることはなかった。
一方天使は、より赫鳳 徹子から距離を取った地点で着地した。そして赫鳳 徹子に右腕を添えた左腕を向ける。
『鉄拳制裁!』
の詠唱と共に天使の左腕の肘関節の隙間から光と煙が溢れ、激しく振動する。そして、怒号を響かせ左腕の肘関節から先が飛び出す。この時、回転運動まで追加される。要は遠距離からの殴撃を行うつもりである。
そして、その着弾地点は赫鳳 徹子の顔面であった。完全にトドメを刺すつもりである。
バッチーーーーンッ!!!
正直、二色 美端はそれなりに真近で見ていた感想としては「ドン引き」の一言だった。顔も引きつっている。充分に距離を取り単眼鏡で様子を伺っていた丘六 緋羽夢は唖然としていた。少女の顔に拳が飛んできたのだから、そうなるのも当然ではあるのだが。
何より異様だったのが、殴られた赫鳳 徹子が首を上に反らされた程度で済んでいたことだった。一応、鼻から粘度と熱を持つ血を滴らせてはいるが、致命傷ではないのは明らかだ。
(あれ、絶対岩ぐらいは余裕で砕く威力あったと思うんだけど)
と内心感じていた二色 美端の予想は正しい。なんなら並のトキラメクルなら、一撃で跡形もなく弾け飛んでいただろう。それは初撃の『天罰』でも言えることだった。
「...ッフーッ、ッア、つゥー...」
赫鳳 徹子は右手にスティカラーを握り締めていた。あまりに力が入りすぎて、指から血が滲んでいる。その血に当てられ、スティカラーが熱を帯びてゆく。鮮血のような金属光沢は全体を覆い、そのペンライトのシルエットを歪めていく。
「ッあ"、あ"ぁぁぁあ"あ"ッッ"」
赫鳳 徹子が怒号を上げ、スティカラーの切先を左掌に押し付ける。粘土が押し潰されるが如くスティカラーはぐにゃりと形状を変え、指の隙間という隙間から押し出されるように溢れては左手に纏わりつく。そして所謂、メリケンサックの形状になる。深い銀色に鮮血のような金属光沢は継承しているが、その外見から殺意を感じ取れる物になっている。その形状は赫鳳 徹子の内面を現しているのがよく伝わる。
「あ"ぁ"ぁ"ッ!あ"あ"ぁ"!!」
そのメリケンサックで殴ろうとしている赫鳳 徹子に対して、天使が何かしら次手を組もうとしている時、
「弾けなさい、"水泡に帰せ"」
いつの間にか天使の背後に海色の髪をフィッシュボーンに結った少女が居り、天使の背に手を当てていた。
そして詠唱した途端に、天使が大量のシャボンになって弾け飛んだ。
「綺麗ねぇ〜、やっぱりラメが多い天使ほど沢山シャボン玉を作れるから、ワクワクするわ」
少女と表現したが、少女というより人魚の方が正しいだろう。下半身が魚そのものだった。その下半身を使って大きな泡に腰掛けており、空中浮遊している。
「ごめんなさい、本当はもっと早く駆けつける予定だったんだけど。ココ、海から遠くて駆け付けるのが遅くなっちゃったわ。お詫びと言ってはなんだけど」
と言って人魚の少女が左手の指で輪を作り、その輪に息を吹きかける。するとシャボンができ、唖然としていた赫鳳 徹子に向かってくる。
「!?あ"ぁ"!!」
赫鳳 徹子がシャボンに向かって拳を振りかざすと、シャボンが割れ、淡い光が赫鳳 徹子を包む。光が収まった頃には徹子の傷は完全に"直って"おり、当の本人である徹子もスヤスヤと眠って、あの凶暴性はどこへ行ったのやら。
「女の子にこんなことするなんて。でも、もう大丈夫。だから、そこの貴女たちもこっちにいらっしゃい?」
乗っていたシャボンから降りた途端に、少女の下半身は普通の人間のものになっていた。衣装のデザインとしてはビキニスタイルらしい。遠巻きに見ていた丘六 緋羽夢に腕を振る。完全に位置を把握している。
「さて、徹子ちゃんが起きたら出発しましょう?みんなが待つお茶会に」
完全に置いてけぼりにされた二色 美端と丘六 緋羽夢は、この目の前の少女がトキラメクル最強の泡沫の夢であることを知るのはもう少しあとである。




