集合時間には、少し遅れるのがコツ。 〜Domino effect〜
時は丘六 緋羽夢が外の様子を伺う少し前に戻る。
「トキメキめぐる!キラメキきたる!
レッツ、トキラメクル!臆病者!!」
半ばヤケクソになりながら、変身詠唱を叫んだ。
赫鳳 徹子の身体を金属火花の様な光が包み、触れたところからその姿を変えていく。黒だった髪は銀色となり、元から入れていた赤のメッシュは残っていた。服装は、アイドルのようなフリフリの衣装に一変した。
「ちゃんと、チェーンある!!」
『しっかり地雷要素もある衣装にしておいた。安心してくれ』
「私が地雷系ファッション常用者ってなんで知ってるんですか」
『君をサポートするには、君を知っておかないといけないからね』
「気色悪。てか、あの変身詠唱どうにかならないんですか?周りに他人が居なかったから出来ましたけど。何回もやるとなると結構しんどいところあるんですけど」
『何度もやってればその内、言わずとも変身できるはずだy』
悪魔が言い切る前に、赫鳳 徹子の目の前に黒いゲル状の物体が"立って"居た。
「アレもアナタの仲間ですか?」
『徹子、今すぐ戦闘準備だ。目の前の天使を蹴散らせ』
「え?」
赫鳳 徹子が悪魔の方を向いている隙に、黒いゲルは行動に移っていた。黒いゲルの上方の空間が光の輪のように歪む。そこから光の糸がゲルに刺さり、引っ張る。するとデッサン人形の様な腕や脚、頭が引き出されゲルが弾け飛ぶ。
光の輪から伸びる糸でマリオネットの如く操られた様に動くソレは、ついには背中と思われる場所から光で翼を、シャボンと虹で賛美歌を奏で、赫鳳 徹子の前に立ちはだかった。
そして、光の輪から光そのものとしか言えない剣を引き抜き、
『我等ハ天使。乳飲み子達ヲ寝付かせる、高次元カラノ使者デアリ、慈悲デアル』
シルエットとしては人のなりをしているが、動きが明らかに人ではない。体表も白く陶磁器の光沢を放ち、温もりなんて感じない。本当にただの物質を取って付けたようにヒト型にしただけのような有様。ソレが動く度に世界が祝福するかの如く、美しい音色が鳴り、虹をなびかせ、シャボンが唄う。
『あの天使、完全に状態を安定させたようだね。長期戦を覚悟した方がいい』
「ちょ、長期戦!?どういうことですか、悪魔!?」
『完全に現界した天使を倒す方法は二つ。ラメ切れを起こすまで駆動させ続けるか、ラメによる修復が困難にna』
そんな悠長に話している暇もなく、
天使が赫鳳 徹子に斬り掛かる。
「ッ!?!?」
赫鳳 徹子が過去に負ったことのある傷は、転んで膝を擦りむいた程度であった。
「いっが、んンッあっ、ぁあアア!!!!」
痛い、痛いのだが、それを通り越して熱い。無理だ。無理。焼ける。焼けているとしか思えないほど熱い。熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いa
『落ち着くんだ。君の身体は斬られはしたが、切れてはない』
「ッ!?」
赫鳳 徹子の肩から腰まで、天使の斬撃が入った筈だが、骨を断たれたどころか、切り傷すらない。赤く発熱しているだけだ。いや、それはそれで熱い。凄く熱いのだが、最初の頃の焼けた鉄を押し付けられた様な熱さではなく、熱めのお風呂に入った際にビックリした程度になっている。
『もう一撃来るぞ』
天使が直ぐさま次手を打つ。下段からの斬り返し。
この次手までの組み立ては赫鳳 徹子からしたら、悪魔にアドバイスを貰い、現状を確認する余地すらあった。しかし、実際には天使の攻勢は1秒にも満たないほどの速度で組み立てられている。
「んっ!たい!!」
痛いし、熱い。熱くはあるが、耐えられるレベルだ。さっきまであんなに熱かったハズなのに
『理由は単純、それが君、臆病者の能力"鉄は熱いうちに撃て"なのさ。具体的には、外界から受けた衝撃を熱に変換する能力。並の天使の斬撃の一回や二回でやられるほどヤワな耐久してないよ。安心して反撃しな、って言おうとしてるのになんで君、逆走してるの?』
「痛いのも熱いのも!嫌だからに決まってるからでしょぉおおおおお!?」
『やっぱり君、余裕あるだろ』
***
そうして、時は丘六 緋羽夢が外に出た頃に戻るのだった。
「ごぉおおめんなさぁああいいいい!本当に!なにもしませんからァ!!!ゆるしてぇ!見逃してくださぁあいいい!!」
顔から出る液体を全て絞り出す勢いで命乞いをしながら醜く逃げ惑う少女と、無駄に神秘的な天使の賛美歌のような音が織り成す光景。
それを見るのにも、苦痛を覚え始めた丘六 緋羽夢に悪魔が問いかける。
『眺めてないで、助けてやらんのかいな?』
「いやなぁ、知らん顔だからなぁ。助ける温情も事情も、義理も借りもないしなぁ。でもまぁ、あれじゃあ戦力にはならんだろうけど、耐久は目を見張るものがある。ある程度、サンドバッグになってくれれば、天使も消耗するし太刀筋も完全に読めるようになる。もう少し様子見。あの子がブッ転がされるか、その一歩手前までは、待ち。傍観が理想的」
『はは、倫理観ないタイプの人間か?』
「多様性の時代ぞ?ウィリアムも常識をアップデートしてないと」
にやつきながらあぐらをかき、変身した際に衣装に付いてきた単眼鏡で完全に傍観を決め込む姿勢の丘六 緋羽夢。
一方、赫鳳 徹子と言えば
「ぜぇぜぇ、もう、限界ぃ...いった!誰かぁ助けてぇくださぁいぃ!」
「再生、斬撃ッ!」
天使の腕が切り飛ばされる。日本刀にでも切られたような鮮やかな切断面がやけに印象的であった。
なんと、赫鳳 徹子を助けようと乱入者が現れた。朱の髪を一つ束ねにしたコンパスの様な体型をした少女。黒に統一されたショートパンツとキャミソールにブーツと言う本来、露出度の高い格好の筈なのだが、彼女に限ってはそうではなかった。腕や脚に包帯が巻き付けてあり、ほぼ肌は見えない。異色なのは、その包帯が旧式のカメラのフィルムそのものにしか見えないところだ。しかし一番目を引くのは、そのフィルムで両眼を隠しているところだろう。まるで治療する際、目に包帯を巻くようにその両眼を覆っている。
「ウィリアム、今乱入してきた奴が持ってるの。アレ、鉄パイプだよな?」
『恐らく。私もそう見えた』
「じゃあ、あの天使のダメージはどう説明するんよ。鉄パイプの打撃じゃあんな風に、刃物で斬った様な切断面はできんでしょ」
『鉄パイプで斬撃を行った、としか言えないね、現状としては。鉄パイプにもフィルムみたいな物を巻いてるから、そこに仕掛けがありそうだな』
「それができるのが"ラメ"で、使えるのが私達ってことか」
完全に圏外から観察していた丘六 緋羽夢が、自身の日本刀状のスティカラーを撫でる。
「ウィリアム、能力が被るってことある?」
『そもそも、トキラメクルにも一般人にも固有能力ってものはない。似たような手札を持ってる奴なんて腐るほどいる。その手札のラインナップと使い方で個性が出るわけで。同じデッキで同じ使い方をすれば、同等の能力が発現することはザラにあるんよ』
「ふーん」
『少し気に食わないか?』
「んー、まぁまぁ、かな?」
一方、赫鳳 徹子と言えば...
「だぁ、だずがっだぁ!!!」
「まだ早い!気を抜かないで!サンドバッグ!」
「え!?私いまサンドバッグって言われました!?初対面の人に!?」
気を抜いた赫鳳 徹子に対して、フィルム巻きの彼女が一喝を入れる。赫鳳 徹子としてはそれなりにショックを受けていたが、確かにフィルム巻きの彼女の言う通り天使の様子を伺うと、
『不確定要素...約束ニ変更ハ予定通り』
腕の切断面から黒いゲルが溢れ出し、虹がそれを覆い、シャボンの様に弾ければ、腕が元通りに在った。しっかり、光の輪とも糸で繋がっている。そして、より賛美歌が強く響く。
「無敵じゃないですか!!反則でしょ!?最悪なんですけど!!!」
「いや、ちゃんと削れてはいるハズ。再生を繰り返し続けさせれば、いつかはガス欠で終わる」
「それっていつdeっったっいぃッ!!!」
再生した腕で早速、攻勢に戻る天使。
赫鳳 徹子は斬られた際に気がついたことだが、今度は攻撃対象が増えた為か光の剣が二本に増えている。所謂、二刀流である。奏でる賛美歌のテンポも早まって、より加速して見える。
「二刀流なら一本あたりに使える腕が二本から一本に減る!痛みもその分減る筈!耐えれるでしょ!?」
「えッ?待って、なんで私の後ろにッたいッ!!!」
フィルム巻きの彼女はいつの間にか
赫鳳徹子の後ろに立ち回り、完全に徹子を盾にする陣形を組んでいた。
「貴女みたいに何度も切られても平気な顔できないわよ、普通!天使の斬撃なんて3,4回でも切られたらおしまい!下手したら一撃でアウトよ!」
「平気じゃないんですけど!痛いんですけど!?」
「痛い程度で済まないって話!貴女まだ余裕あるでしょ!?逃げながら斬られてる時、毎回目を瞑らず天使の動き見てたの気づいてるわよ!しかもそれを12回!普通なら3回は死んでる!」
このやり取りの間に赫鳳 徹子は4回斬りつけられその度に悲鳴を上げているが、省略
「12回っていうか16回!痛いし熱いんですけど!?あと何回痛い目に遭わないといけないんですか!?」
「この天使がラメ切れ起こすまでよッ!!私も隙を見て天使を斬る!耐えて!」
「酷ぃったいいい!!!!」
「はい、17回目!再生、斬撃!!」
隙を見て、フィルム巻きの彼女が再び鉄パイプを振り斬撃を加える。今回は天使の両腕が切り飛ぶ。フィルム巻きの彼女は、天使と赫鳳 徹子と自分が一直線上に位置するように立ち回っており、天使がフィルム巻きの彼女を斬るにはまず赫鳳 徹子を斬らなければならない状況を作っていた。
その為、天使が赫鳳 徹子に斬撃を加える度に隙ができるので、そこを突く。と言うのが今回の作戦らしい。
「腕切ったの!私じゃないですから!私だけずっと見るのやめてください!怖い!なんで斬り掛かる時もずっとこっち見てるんですか!?キモい!!」
「天使に言葉が通じるわけないでしょ!?」
『結末ニ抗う術ハ存在』
天使は再びゲルを吹き出したが、今回は前回よりも量が多い。
「最悪なんですけど...」
天使は4本腕になっていた。光の剣一本あたりに使える腕は二本になったということだ。
それを称えるように賛美歌が鳴る。が、今回は短い。というより、より切羽詰まるように音が連続している。ケリをつける、と宣言しているかのように。
「流石にマズいかも、ね」
「もう痛いのイヤなんですけど...」
「ここで死ぬって言わないあたり、貴女やっぱり余裕有りそうね」
『運命ヲ承ケ入れろ』
天使が2人に斬り掛かるその刹那...
天使の両腕、両脚、首に胴、腰、それぞれが全く同時にバラされた。
その切断面は日本刀に斬られたように鮮やかで、妙に印象的だった。微動だにしない。もう、再生はしないようだ。
「いやー、だいぶ天使側の演出減ってたからさぁ、流石にそろそろラメ切れでしょって思ったけど、予想通り予想通り。やっぱり自分が思ったようにことが進むのは楽しいねぇ」
単眼鏡を首にかけ、ゴスロリ風にアレンジされた剣道着を身に着けた少女が歩いてくる。髪がライトグリーンのロングでインナーにはダークレッドが入っている。右にかけた日本刀の鍔を弄り、カチカチ言わせており、その度に光が漏れ、三日月状の光の粒が小さく飛び散る。明らかに常人ではないだろう。
「貴女の距離から斬撃は当てることできないと思うんだけど」
「まぁ、そこはねぇ。そういうことができるってのが私達ってことでしょ」
「えっと、ということはアナタもトキラメクルなんですよね?」
「そうそう、そうなんよ。いやいや、そんなに睨まないでって。私も今来たんだから。私は丘六 緋羽夢。歳は20!トキラメクル的に言えば、構え太刀らしい!2人とも!前衛は宜しく!」
徹子とフィルム巻きの彼女は、
「日本刀持ってるお前は前衛に出ないのか?」
というツッコミを一旦飲み込んだ。一旦。
この構え太刀とチームを組むことになるのを2人はまだ知らない。




