ただ、転がる石のごとく。〜Bubble structure〜
Our fate is like a rolling stone,
on a hill made in heaven.
某国、某研究所。そこは有刺鉄線を始め、様々な防衛網が敷かれており、俗世を拒むが如く見渡す限りの警告が列を成していた。
ここで行われている研究は、環境破壊の末、地球との共存に行き詰まった人類を救い出す筈だったのだが...
"最後の審判"を引き起こし、一週間にして人類が築いてきた文明は崩壊した。
状態を維持する力を失った"泡"は、
はじけるか、しぼむ。
***
最後の審判から一週間後、
赫鳳 徹子、覚醒。
「いや!無理!!キモい!!!」
自分の腹から出たと思えない程の絶叫を少女があげる。少女、赫鳳徹子は、眼を両手で覆い、目を背けようとした。幻覚なら目を瞑ればそれでいい。しかし、
『そうあまり気を落とさないで欲しい。僕は君に危害を加えるつもりはないよ』
「いや、絶対無理!無理!無理!アナタの見た目が私に危害を加えてるんですよぉ!!自分のルックス見たことないんですか!?不快害虫超えてますよ!?」
『君、意外と余裕あるだろ』
不快害虫越えの化け物が語りかけてきた。どうやら幻聴もセットらしい。更には泥臭さとヨダレの臭いを混ぜたような異臭までしてきた。その不快害虫越えの外見としては、
『テレビで見たウロコフネタマガイそっくり、だろう?』
「それ以上にキモイ!!!!サイズ感的にも無理!なんでスクミリンゴガイよりでかいんですか!?てか、ヒトのアタマぐらいある!」
『そこは別にジャンボタニシでいいだろ』
確かに大雑把なシルエットはウロコフネタマガイそのものだ。しかし、ウロコフネタマガイの鉄の鱗が、ヒトの歯にしか見えない。しかも無駄に白い。「ホワイトニングしている」と赫鳳 徹子が確信できるほどに。このバケモノが喋る度に鱗が動いて、チラッと中身が見える。その中身がヒトの舌に似てるのが本当に無理だった。
しかもヒトの頭部ぐらいの大きさで、喋るとその声が徹子の頭の中を反響する様で気持ち悪い。
それが宙に浮いて徹子に話しかけている。何か殻の隙間から眼が見えてくるのも本当に嫌である。しかもその眼、
『白目があるから、目線がしっかりわかる。ニンゲンのコミュニケーションにおいて、どれだけ白目が重要かよくわかるよね』
「なんで私の思ってることがわかるんですか!気持ち悪いです!不気味!悪魔かなにかですか!?」
『そうだね、僕は悪魔。カタカナ呼びをしたければ、"メタファ"が良いだろう』
「勝手に呼び方まで指定してきた!」
もう色々と限界になり膝から崩れ落ちる徹子。そんな赫鳳 徹子に例の悪魔が
『君にコレをプレゼント』
「なんですかコレ?」
悪魔が貝殻と肉の隙間から何かを出して、赫鳳 徹子の目の前に「ゴトンッ」と転がした。
ソレはペンライトの様な見た目をしていた。持ち手はツヤ消しの黒。本来光るであろうパーツは鈍い銀色をしている。この時点で不気味なのだが、何より気色が悪いのが金属光沢の色が、鮮血のように真っ赤なところだ。
「いや、なんですか、コレ...」
『コレはスティカラー。所謂、変身アイテムってやつだ』
「いや、所謂って言われても。使ったら翌朝、起きたらムシにでもなるんですか?」
『やっぱり君、余裕あるだろ。そうではなくて。コレを使えば、天使と戦うことのできる"トキラメクル"という戦士になれるんだ』
「は?戦士?」
『そう、君はトキラメクル、"臆病者"
に変身できるのさ...』
「......」
『さぁ、悪魔と契約しt』
「...バカにしてます?」
***
同刻、
二色 美端、覚醒。
『あの、美端さん、そろそろここを出ません?』
「二色って呼んで。その名前、可愛くないから」
『す、素敵な名前だと思いますけどね』
「親目線的にはそうかもだけど、その名前引っさげて歩く身にもなって欲しい」
『そ、そうですよね』
30秒。
「そういえばアンタ、悪魔だとか言ってたわよね」
『そ、そうですね』
「私が傷つかないのもあんたのせい?」
二色 美端は自分の傷跡だらけの右腕を見せる。しかし、その傷跡はどれも一週間経過しているもので、止血が完了しており、目新しいものはない。
『は、はい。いや、いえ!違います!私のせいと言うより、二色さんの体質が最後の審判の影響で変わったというほうが正しいです!決して私が意図してそうしてるわけではありません!』
「ふーん。このスティカラーっての使えば、デザインナイフの代わりになる?」
『あ、あのスティカラーは天使と戦う力を覚醒させるものであって、トキラメクル本人を自傷させるものde』
少女、二色 美端はスティカラーというペンライトのようなものをクルクル回す。持ち手などなく、紅色一色。光沢がべっこう飴色で、無駄に品がある。
「最後の審判のせいで、ありとあらゆる娯楽が無くなってんだから。これぐらいの楽しみはあってもいいんじゃない?」
『いや、そのだからって自傷は道徳的に如何なものかと?こういう時こそ、道徳に沿った行動が必要と思うんですが...』
「アンタ、見た目の割に結構マトモなこと言うよね」
二色 美端の目の前には、悪魔と言うに相応しい化け物が浮遊していた。錦鯉と兎を合わせたような姿。顔は完全に錦鯉だが、兎の耳が生えている。首から下の体格も兎なのだが、毛皮ではなく完全に鱗であり、質感と模様は錦鯉のソレ。耳をパタパタさせ飛んでおり、常に体表が無駄にテカっている。さらに無駄に手足の形状がヒトなのでよりキモイ。
「ま、新しいオモチャが手に入ったら使いたくなるものだし、やってみましょう。変身ってヤツ。」
『そ、それじゃあ変身詠唱があるのでソレを唱えてください』
「そんな酔狂なものあるの?」
『構造上必要な動作でして。じゃあ変身詠唱行きますね』
"トキメキめぐる!キラメキきたる!"
"レッツ トキラメクル!!"
『と、コールした後に二色さんのトキラメクルネームを言ってもらいます。二色さんのトキラメクルネームは、
"音盤"です。これを叫んでもらえば変身完了です』
「...それ17歳にさせるの?」
***
同刻、
丘六 緋羽夢、覚醒。
イタチの様な姿をしているが、両手は人であり薬指と小指が一体化していて、鎌状になっている悪魔と契約した少女、丘六 緋羽夢はすんなりと
「トキメキめぐる、キラメキきたる。
レッツ、トキラメクル。"構え太刀"」
変身詠唱を行った。緋羽夢の周りに三日月状の光の粒が無数に溢れ、それが丘六 緋羽夢に触れる度、弾け輝き軽快な音を奏でる。
変身前の通常時は茶髪ポニーテールだった少女が、掛け声と共に髪留めが解け、髪の色がライトグリーンに変色し、インナーにダークレッドが入った。服装も剣道着にゴスロリのアレンジが入ったものになっている。
「ありゃ、スティカラーまでポン刀に変わってんじゃん」
元々は玉鋼の様な色をしてたペンライト状のスティカラーが日本刀の形状に変化していた。刀身は、赤と緑両方の光沢を持っており明らかに普通の金属ではない。
『人によって変身前と後で変化することがあるんよ』
「ん?人によってってことは私以外にも居んの?トキラメクルっての」
『ん。居るな、確実に。具体的な数は分からんが。しかしまぁ、多くはないだろうよ。多分な』
「そーなん?」
『トキラメクルとして覚醒するには、それなりに厳しい条件があるんでな。結構産まれついての才能の影響も大きい』
「私は選ばれた側ってこと?」
『そうではあるが、それだけで優秀って訳では無い。受験に受かってもその学校で輝けるかは別なのと同じで、トキラメクルに覚醒してもラメが使いこなせなかったら意味がないんよの』
「ラメってなにさ」
『トキラメクルの力の根源。いや、寧ろラメを使いこなせるのがトキラメクルと言える。つまりは、人間ではトキラメクルだけが使えるエネルギーのことよ』
「はへぇ。何ができんの?」
『まぁ、それは君次第なんよ。まずは外に出てみましょ』
「え?今、外出たら天使にブッ転がされるでしょ?」
『それに対抗する為にラメを使うんよ。使ってみたらわかる。外に出よう』
丘六 緋羽夢はドアを開け、一週間ぶりの外気を肺に入れる。心做しか一週間前より空気が澄んでるようにも思える。
『そう言えば言い忘れてたが、他のトキラメクルに会った時に、気をつけないといけないことがあるんよ』
「へ?同じ天使を倒す戦士とかじゃないの?仲間じゃん」
『いや、トキラメクルはあくまで、天使に対抗する力であって、その志や在り方は人それぞれ。同じトキラメクルでも協力関係になれるかは別。故にまずは友好関係を築いて、戦力を増やすことに努めた方がいい』
「んー、アレと?」
丘六 緋羽夢が指さしたのは、
「ごぉおおめんなさぁああいいいい」
と叫びながら逃げ惑い、天使に切り刻まれるトキラメクルの姿だった。
「ウィリアム、アイツ戦力になる?」
『悪魔と呼んで欲しいんだけどなぁ』
諦め顔で見つめていたこのトキラメクルが、臆病者であり、後にチームを組むことを今の丘六 緋羽夢は知らない。




