第84話 起きて...
「おい!! アイネ……! それを使えば君は!!」
サーレが叫ぶ。
「サーレ……」
アイネは少し笑った。
「私さ、アレンを見てると、すごく勇気が出るんだ。」
「……」
「私も、アレンみたいになりたいって思うようになったの。」
サーレは言葉を失う。
「最初はね、正直……自分さえ良ければいいって思ってた。」
「めんどくさいって言って、色んなこと避けてさ。」
「でも、アレンを見てたら……思ったの。」
「私、何やってるんだろうって。」
アイネはコウキを見つめた。
「私も……救いたいって思えたんだ。」
サーレは顔を伏せた。
「それにさ……」
アイネは少し照れたように笑う。
「コイツとアレンが、よく一緒に騒いでてさ。」
「すごく楽しかったの。」
「なんか……初めてじゃない気がして。」
「こんな日が、ずっと続けばいいって思った。」
「けど……!」
サーレが顔を上げる。
「うん。」
アイネは静かに頷いた。
「私は……学園にいられなくなるかもしれない。」
「でも、それ以上に守りたいものがあるの。」
サーレはただ見ているしか無かった。すでにレビュラ転化を使ってしまった彼は、氷しか使えない。彼を直すことは出来ない。ただ、悔しさを胸に抱きながら見ているしか。
アイネの手が光る。
同時に、コウキの身体も光に包まれた。
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あったけぇ……
なんだこれ……
すげぇ心地いい……
懐かしい感じがする……
「……アイネ」
「コウキ……」
アイネの目から涙がこぼれた。
「おかえり……」
「……」
コウキはゆっくり目を開ける。
「……2人とも」
「何泣いてんだよ……」
サーレとアイネが固まる。
アイネは涙を拭いた。
良かった……
守れて……
アレン……私、守れたよ。
「……感謝しなさいよ。」
アイネは鼻をすすりながら言った。
「バカコウキ。」
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「おい、アレン。大丈夫だったのか?」
「うん。大丈夫。」
アレンは軽く頷いた。
「行こう、メル。」
二人は奥の部屋の扉を開ける。
「エリス先輩!!」
「アレンくん!! 来てくれたんだ!!」
――あれ?
アレンは違和感を覚えた。
(なんか……やけに元気だな)
「え……捕まってたんじゃ……」
「いや、なんか勘違いされちゃってさ!」
エリスは笑った。
「それでここに連れてこられたんだけど、私のドッペルゲンガーと意気投合しちゃって――」
「……あれ?」
エリスがメルを見る。
「メルくんが見える!? なんで!?」
「まぁ……色々あってな。」
場の空気は、拍子抜けするほど明るかった。
「それにしても、この銀髪に赤い瞳、やっぱカッコいいよね〜」
「いやいや、トラシオン様の方が断然カッコいいでしょ〜」
――トラシオン。
その名前が出た瞬間、アレンの表情が変わった。
「エリスさん!! 協力してください!!」
「?」
二人のエリスが同時に振り向く。
「えっと……先輩じゃない方です。」
「……私?」
「トラシオンが、殺されるかもしれません。」
「は?」
エリスは眉をひそめた。
「なんで?」
「あなたを助けたからです。」
「魔王の意向に背いた……と。」
「そんな話、どうしてあんたが知ってるのよ。」
「知り合いが、そう言ってました。」
「それだけで信じろって?」
――その瞬間。
部屋を揺らすほどの暴風が吹き荒れた。
「……ありますよ。」
低く、冷たい声。
「トラシオン様!?」
「トラシオン……」
銀髪の男が立っていた。
「久しぶりですね、アレンくん。」
「……ああ。」
トラシオンの視線が、メルへ向く。
「なぜ、あなたがいるのです。」
「メル。」
敵意が露わになる。
「俺は……お前を助けに……」
「助けに?」
トラシオンは冷笑した。
「俺を傷つけたのは、お前だろ。」
「……え?」
「お前は、自分が主人格だと思っているな。」
「違う。」
「軸は私だ。」
「お前は、極度の怒りによって生まれた、外側の人格にすぎない。」
「そんな……」
「お前は暴れるだけ暴れ、母親を追い詰め、自殺に追い込み……」
「都合が悪くなれば、私に切り替わる。」
「最後だけ、いい顔をする。」
トラシオンの表情は険しい。
嘘を言っているようには見えなかった。
「そんな……俺は……」
「お前は、やりたいようにやっただけだ。」
「そんなお前が、私を助ける?」
「ふざけるな。」
沈黙。
「……」
「俺には、エリスがいる。」
「……エリス?」
「知らないだろうな。」
「私とお前が、同時に恋をした相手だ。」
「……!」
「魔王によって蘇らされ、実験台にされた。」
「私たちの人格を分けるためにな。」
「だからエリスは、二人いる。」
静寂が落ちる。
トラシオンは言った。
「お前は……」
冷たい声で。
「何も出来ない。」




