第83話 貴方の背に手を伸ばしたかった。
炎が止んだ。
「……なんで、俺を殺さないんだ」
ザヴィレが呟く。
アレンは静かに答えた。
「止めるだけって言っただろ」
ザヴィレはゆっくりと身体を起こす。
「今にも俺は、お前を殺すかもしれないぞ」
「それは困るな」
アレンは苦笑する。
「僕はこれからも、大切なものを守らなきゃいけない。傷ついている人を救わなきゃならないんだ」
ザヴィレは、納得したように鼻で笑った。
「それがお前の使命か……」
「あぁ」
少しの沈黙。
ザヴィレは視線を逸らしながら言った。
「……クラスメイトには何もしていない。
時期に目を覚ます」
「本当か?」
「あぁ。それと――」
ザヴィレは顎で奥を指す。
「エリスは後ろの部屋にいる」
「後ろの部屋に?」
「もうすぐ……トラシオンが来る」
「トラシオンが……?」
「あぁ」
ザヴィレは小さく息を吐く。
「エリスと一緒に逃げるつもりなんだろう」
「……なんで逃げるんだ?」
「エリスは魔王軍に捕らえられていた」
アレンの表情が変わる。
「そこから助け出したのがトラシオンだ。だが、それがバレた」
「そんな……」
ザヴィレは静かに続ける。
「助けてやってくれ」
「お前なら……出来そうな気がする」
アレンはザヴィレを見る。
「なんでそこまで知ってるんだ?」
ザヴィレは少しだけ笑った。
「……アイツも同じように、苦しい過去を持ってた」
「傷ついた者同士で慰め合った。それだけの話だ」
「そうか……」
アレンは頷く。
「分かった。全員救ってくる」
そして、真っ直ぐに言った。
「ここで待っててくれ」
「ザヴィレ。お前も救うから」
ザヴィレの目が揺れる。
「……何言ってんだよ。俺は――」
アレンは言葉を遮った。
「放っておけるわけないだろ」
「お前は、どれだけ傷ついてもまた人を信じた」
「僕のことも」
「優しい人が傷ついてるのが嫌なんだ」
「それだけで充分だろ」
ザヴィレは顔を逸らす。
「……さっさと行け」
「あぁ」
アレンは歩き出した。
その背中を――
ザヴィレは無意識に目で追っていた。
行ってしまう。
そう思うと、胸がざわついた。
そばにいてほしい。
その言葉が喉まで出かかった。
だが、ザヴィレは必死に飲み込む。
何も言わないまま、ただ背中を見送った。
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「おい……おい……!」
「おい!!! コウキ!!!!」
「返事をしろ!!!!」
声が聞こえる。
誰だ……。
「お前、肩抉れてるじゃねぇか……!!
なんでこんなことになってんだよ!!!!」
……そうだ。
俺、戦って……
気絶してたんだ。
視界が霞む。
でも分かる。
サーレか……。
「サ……レ……
だい……じょ……ぶ……か……」
「大丈夫だよ……」
サーレの声が震えている。
「ピンピンしてる……俺たちは何とか逃げられた……」
「それより……自分の心配しろよ……」
「おい……ない……て……んのかよ……」
コウキはかすかに笑う。
「おまえ……ま……で……
クール……ぶってた……のに……よ……」
「冗談なんて……聞いてねぇよ……」
サーレの声が崩れる。
「起きろよ!! コウキ……」
「起きてくれよ……!」
「元気な姿……見せてくれよ……」
返事が聞こえなくなった。
目が、身体が生気を帯びていなかった。
遠くで誰かの声が響く。
「どいてサーレ!!」
アイネだった。
「私が治すから!!!!」
【ネビュラ解放】
「【不死の植物】」
植物の光がコウキを包む。
何度も、何度も治そうとする。
けれど――
肩は抉れたまま。
血が止まらない。
コウキの声も、どんどん弱くなっていく。
……いやだ。
死ぬなんて。
アレンも悲しむ。
みんな悲しむ。
誰かを失うなんて……
もう嫌だ。
アイネは唇を噛む。
――方法は、一つだけある。
もう前線で戦うことは出来なくなるかもしれない。
でも、そんなこと……
どうだっていい。
私は――
彼を守りたい。
アイネの手から光が溢れる。
「……お願い」
光が強くなる。
「まだ、死なないで」
涙が落ちる。
「あなたがいなくなったら……」
「私、頑張った意味がなくなる」
アイネは静かに呟く。
「能力なんて……いらない」
「だから」
「生きて」
「【レビュラ転化・植】」




