第82話 矛盾
そんな記憶が、アレンの中に流れ込んできた。
――こんな過去が……。
「お前らは裏切った!!! 俺を!!!!」
ザヴィレが叫ぶ。
「全部裏切った!!! 世界も!!!!
全部壊れてしまえば、俺は幸せになれる!!!!
支配こそが正義だ!!! 全て……全て!!!
不幸になれ!!!!」
「もうやめろ」
アレンは静かに言う。
「そんなことをしても……救われないだろ」
「慰めのつもりか……?」
ザヴィレの声が低くなる。
「何も知らないくせに、何が分かる!!!
この世に優しさなんてものは無い!!!
いるのは、自分勝手なクソ野郎ばかりだ!!!!」
ザヴィレは地面を蹴り、アレンへと突っ込んだ。
「……見ちまったからな」
アレンが言う。
「お前の記憶。全部じゃない。でも……少しは分かる」
「分かるだと……?」
「本当の苦しみは本人にしか分からない。
でも……」
アレンは拳を握る。
「少しくらいは、分かってやれるよ!!!」
その瞬間。
アレンの身体から、禍々しい力が溢れ出す。
――魔王の力。
「魔王の力か……」
ザヴィレは笑う。
「いいさ。全部壊す」
「俺の強さを知らしめる。
無様に負けて、殺されろ!!!!」
「お前を止めなきゃいけない理由ができた」
「黙れ!!!!」
次の瞬間、アレンの身体が吹き飛んだ。
「ガッ……!!」
柱に叩きつけられ、血を吐く。
「支配の能力だけが武器ではない」
ザヴィレがゆっくり近づく。
「俺はもはや人間ではない。
魔物をも超えた存在となった」
「人間風情が、侮るなよ!!!!」
アレンは血を吐きながらも、ゆっくりと立ち上がる。
「……何故立ち上がる」
ザヴィレが言う。
「勝ち目は無い」
アレンは息を整えながら答えた。
「侮ってなんかないさ」
「人間風情だよ。俺は」
「それでも……止めたいから動くんだ」
「勝ち目なんて……どうだっていい」
「どこまで俺を舐めやがって!!!!」
ザヴィレが怒りを爆発させる。
アレンは構える。
「本気でお前を止めることに決めた」
「話はそれからだ」
アレンが手を掲げる。
「【球電・無重力】」
ザヴィレの目が細くなる。
「……なんだ、それは」
「炎は地球上では、熱い空気が上に行き、冷たい空気が下に行く」
「でも、無重力では違う」
アレンの掌の上に、青い炎の球体が生まれる。
「浮力が無いから、炎は完全な球体になる」
「それがどうしたと言うんだ!!!」
ザヴィレが叫ぶ。
「炎など消し去ってくれる!!!」
「地球上の炎なら温度は知れている」
アレンは静かに言う。
「でも、無重力では燃焼効率が極端に上がる」
炎は青く輝き、さらに圧縮されていく。
「温度も、上がり続ける」
「こんなもの!!!!」
ザヴィレが力をぶつけた瞬間――
球体は弾けた。
爆散した炎が、周囲の瓦礫や地面を溶かしていく。
――熱い。
――苦しい。
なんで俺だけ、こんな目に……。
……いや。
なんで俺は、こんなことをしているんだ。
ただ。
誰かに認められたかっただけなのに。
その気持ちが拗れて――
僕は、こんなクソみたいな能力を持って生まれ変わった。
支配の能力。
支配なんかじゃない。
ただ……
理解してほしかっただけなのに。
もう……
生きたくはないな。
……お前は、いつも邪魔をしたな。
俺。
傷つきたくないと言いながら――
お前は、苦しんでいる奴らを見つけては
自分と重ねて、仲間に引き入れた。
気づけば、組織は大きくなっていた。
みんな……
俺を慕ってくれた。
いつか壊れるはずなのに。
信じるだけ無駄なはずなのに。
なのに――
なんで信じちまったんだよ。
俺。




