第81話 理解して欲しかった。ただそれだけ
帰り道。
雨で濡れたアスファルトが、オレンジ色の街灯に照らされている。
その光は、まるで結晶のように輝いていた。
一つ一つが、思い出の欠片みたいだった。
……でも、どれも美しいとは思えなかった。
道を照らすのは、街灯の明かりだけ。
聞こえるのは、雨の音と、自分の足音。
それだけだった。
――あぁ。
もう、死にたいな。
ただ、認められたかっただけなのに。
ただ、大切にしてほしかっただけなのに。
ただ、理解してほしかっただけなのに。
⸻
小学生になる前に、両親は離婚した。
そして、小学生になった頃、新しい父親ができた。
何かをすれば殴られた。
何かをすれば怒鳴られた。
言い訳なんてすれば、反抗だと言われた。
夢を語れば、笑われた。
「お前にできるわけない」
家が嫌になった。
帰りたくなくなった。
でも、学校にも居場所はなかった。
いじめられた。
家で認められないから、学校では無理をして、調子に乗った。
だから、余計にいじめられた。
居場所なんて、どこにもなかった。
押し入れの中で、ひとり泣いた。
何度も思った。
殺してやるって。
死にたいって。
僕はそんなに悪いことをしたのだろうか。
⸻
そこから、僕は優しくなった。
誰に対しても。
理由は簡単だった。
誰かの大切な人になれれば、
少しは理解してもらえるかもしれないと思ったから。
でも、それもうまくいかなかった。
ただ利用されただけだった。
僕の優しさは、都合よく使われるだけだった。
何も返ってくることはなかった。
それでも、諦めきれない。
……どうしてだろう。
また誰かを信じようとしてしまう。
⸻
初めて、彼女ができた。
彼女なら、僕を理解してくれる。
そう思った。
最初は楽しかった。
何をしても。
でも、少しずつ変わっていった。
彼女は、僕を見下すようになった。
暴言も、態度も、全部我慢した。
ずっと、我慢してきた。
でも、限界がきた。
嫌だったことを、正直に話した。
……でも、彼女は笑った。
鼻で笑った。
なんで、こんな思いをしなきゃならないんだ。
彼女は僕の失敗を友達に話した。
そして、それを笑い話にした。
わざわざ、僕にそれを教えてきた。
……言う必要、あるか?
その後も、少しは変わった。
でも、本質は何も変わらなかった。
⸻
ストレスは、溜まれば体に出る。
体のあちこちがおかしくなった。
でも、それ以上に――心が壊れていった。
だんだん、素直に喜べなくなった。
誕生日。
プレゼントをくれた。
サプライズもしてくれた。
でも……
僕が欲しかったのは、そんなものじゃなかった。
高いプレゼントでも、ブランド品でもない。
サプライズでもない。
ただ一つ。
僕のことを理解して、
考えて、
その上で行動してほしかった。
それだけだった。
ごめんねも。
愛してるも。
いらなかった。
欲しかったものは、ずっと伝えていたから。
⸻
僕は彼女と別れた。
でも、彼女は言った。
「一緒にいたい」
だけど、
「直すことはできない」
だから
「友達でいよう」
……意味が分からなかった。
なんで逃げるんだよ。
一緒にいたいなら、本気で言えよ。
ヘラヘラしながら言うなよ。
あんたの言葉は、いつだって熱がなかった。
ずっと、僕を見下してたんだろ。
結局、思ってもいないんだろ。
⸻
帰り道。
雨で濡れたアスファルト。
オレンジ色の街灯に照らされて、結晶のように輝いている。
でも――
どれも美しいとは思えなかった。
聞こえるのは、雨の音と、自分の足音。
それだけ。
あぁ。
もう、死にたいな。
ただ認められたかっただけなのに。
ただ大切にしてほしかっただけなのに。
ただ理解してほしかっただけなのに。
それって、望んじゃいけないことなのか。
叶わない願いなのか。
僕はそんなに悪いことをしたのか。
僕は、こうなるべき人間だったのか。
あぁ……
死ぬのって、怖いな。
でも、楽になれたら――どれだけ幸せだろう。
風の音。
身体が、落ちていく。
これで、ようやく終わる。
苦しい日々も、全部。
――そう思った。
でも。
何も終わらなかった。
幸せな日々なんて、どこにもなかった。




