第80話 人を思う気持ち。
「メル!! 先に、みんなを外へ出してくれ!!」
「だが、アレン!! お前は――」
「必ず戻る。任せてくれ!!」
メルは、歯を食いしばりながら拳を握る。
そして、何も言わず、皆を連れて撤退した。
……起きてなくて、よかった。
こんな光景を見られたら、
僕はまた、独りになってしまうかもしれないから。
「さぁ、ハレイ」
「全部、受け止めてやる」
「苦しみも、絶望も」
「全部だ。」
ハレイはアレンに襲いかかる。殺意を持って。
アレンはそれを避けながら語る。
「ハレイ。人を殺すのって……辛いよな」
「オマエニ……ナニガ……」
ハレイの拳がアレンに直撃する。
肋が折れたか...。
だが関係ない。
「分かる。俺も昔、親友を――自分の手で殺した」
その瞬間、ハレイの身体がわずかに揺れた。
「ハレイ……僕のこと、強いと思ってるだろ。でも、そんなことない。僕は弱い」
「オマエハオレノコトナンテ!!!」
ハレイはまたアレンに拳をぶつける。
アレンはそれを手で受け止める。
「分かるさ。」
アレンはハレイを抱きしめる。
「ヤメロ...ヤメ...ロ...」
「ハレイは、大切な人を守るためにやったんだろ。それって……すげぇよ。カッコいいじゃねぇか。僕は違う。ただ、壊しただけだ」
ハレイの動きが、ぴたりと止まった。
「君の妹は、最後になんて言った?」
一歩、踏み出す。
「死ね、なんて言ったのか? ……言うわけないだろ」
声が、震える。
「生きてほしかったんだ。ハレイにとって妹が大切だったように、妹にとっても、ハレイは大切だった。自分のせいで、兄ちゃんが犯罪者になるなんて……そんなの、耐えられなかったんだ」
ぎゅっと拳を握る。
「自分の分まで、幸せになってほしかった。だから、止めたんだ」
一瞬、言葉を切る。
「殺した事実は消えない。永遠に背負い続けなきゃならない。でも――だからこそ」
アレンは、真っ直ぐにハレイを見据えた。
「妹みたいな人が、二度と同じ目に遭わないように……守るんだ。そして、生きて、幸せになる。それが……生き残った者の、使命なんだよ」
ハレイに声は届いていないはずだった。
それでも。
その瞳に、ゆっくりと涙が滲んでいく。
「なぁ、ハレイ……戻ってきてくれ。周りの人が壊れるのを、もう見たくないんだ」
その瞬間、ハレイの身体に、確かな温もりが満ちた。
濁っていた瞳に、光が宿る。
次の瞬間、強く抱きしめられていた。
「ユズ……ごめんな……ごめんな……母さん……なんで……なんで……」
嗚咽混じりの声が、胸元に響く。
ハレイは、子どものように泣いていた。
僕は、ただ、抱きしめ返すことしかできなかった。
「なんで俺の支配が...ッ!!?どいつもこいつも、俺を裏切って...世の中の人間も、何もかも全て、大嫌いだよ!!!!俺の理解者なんて1人としていない!!!俺自身も!!!!」
「お前に何があったんだよ。なんでそんな怒ってんだよ。」
また、記憶が...微かに視界に溢れてきたが、やがてそれは大きくなっていく。




