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第78話 人殺し

アレンとハレイは、能力を使わず、拳だけでぶつかり合った。

だが、勝負は一方的だった。


ハレイの拳は鈍く、アレンの一撃一撃に押し返される。

まるで、抵抗する意思そのものが削がれているかのようだった。


数分後、ハレイは膝をついた。


肩で息をしながら、震える声で言う。


「……殺してくれ。アレン」


その言葉に、アレンの胸が締めつけられる。


「なんで、そんなこと言うんだよ……」


裏切った理由も、戦った意味も、すべてが分からない。

ただ、ハレイの瞳だけが、あまりにも悲しそうだった。


「……僕は、人殺しなんだ」


「そんなはず――」


「あるんだよ……」


ハレイの視線が、ゆっくりと床へ落ちる。



ハレイの過去


僕には妹がいた。


母親はいなくて、父と三人で暮らしていた。

父は仕事が忙しく、帰りはいつも遅かった。


だから自然と、妹と過ごす時間が増えた。

仲は良かったと思う。

妹はいつも僕の後ろをついて回って、「お兄ちゃん」と笑っていた。


妹の誕生日。

僕は必死にアルバイトをして、プレゼントを買った。


少しでも、普通の学生みたいな思い出を作ってあげたかった。


その帰り道。

マンションの廊下で、嫌な予感がした。


部屋のドアが、開いていた。


中に入ると、そこには――


床に座り込み、傷だらけの妹と、母親の姿があった。


「……なんで、いるんだよ」


父を捨て、家庭を捨てたはずの女が。

どうして、妹を殴っている。


母親は僕に気づくと、今度は僕に向かってきた。


その瞬間、何かが切れた。


突き飛ばし、キッチンのナイフを掴んだ。


刺した。


それでも止まらなかった。


――殺さなきゃ。


そう思ってしまった。


母親の上にまたがり、心臓に向けてナイフを振り下ろした、その時。


「お兄ちゃん……やめて……」


妹が、母親をかばって、前に出ていた。


「殺さないで……お兄ちゃん……」


震える声で、それでも笑って。


「大好きだから。優しいお兄ちゃんが。だから...変わらないで……今まで...ありがとう……」


ナイフが、妹の胸に沈んだ。


時間が止まった。


叫んだ。

抱きしめた。

必死に名前を呼んだ。


でも、妹は、二度と目を開かなかった。


その後のことは、よく覚えていない。


気づけば、母親も死んでいた。


事件は、正当防衛として処理された。


母親が妹を刺し、混乱した僕が刺し返した――そういう結論だった。


でも違う。


刺したのは、どちらも、僕だ。


僕が殺した。


妹も、母親も。


それが事実だった。


でも、その現実を受け止めたら、壊れてしまう。


だから、僕は自分を騙した。


「自分が弱いからだ」

「仕方なかった」


そう言い聞かせなければ、生きていけなかった。


「……僕は人殺しなんだ」


ハレイの肩が、静かに震えていた。


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