第75話 サーレの覚悟
「では、行きましょうか。」
――消えた……ッ!?
「ッ!!」
サーレは間一髪で攻撃を避ける。
(早い……どんなスピードしてんだよ……)
「流石ですね。普通ならこれで終わるんですが……。」
「すぐには終われないんで。友達を助けに行くから。」
「そんな余裕を見せて大丈夫なのかな。」
サーレは静かに呟いた。
【ネビュラ解放】
【氷華・蓮華】
サーレの周囲が、まるで蓮の花が咲くように華やかに凍りついていく。
「素晴らしい。ですが――それは効かない。」
「クッ!!」
「結局、勝負というのは能力ではない。
基礎なんですよ。」
男はゆっくり歩きながら言う。
「速く動く。
最小限の動き。
速さを維持したままの強い攻撃。」
「君には今、それがない。」
「何が言いたい。
まだ勝負は始まったばかりだろ。」
サーレは地面に手をかざす。
【土衝・縛地】
相手の足元が崩れ、浮き上がった土が球状となって男を閉じ込める。
しかし――
「先程から、私を閉じ込めたり動けなくすることばかり考えてますね。」
男は平然と外へ出る。
「また避けたのか……。
速い相手にはそれしかないだろ。」
「いいえ。」
男は静かに言った。
「君は分かっているはずだ。
敢えてやろうとしていない。」
「……何故です?」
「……なんの事だ。」
「最低限の動き。」
男の視線が鋭くなる。
「それが貴方のモットーだったでしょう?
なぜしないのです。」
サーレは少し黙る。
「……それは捨てた。」
「俺は“無”でいることを捨てた。」
「守りたいものがあるから。
そして――目標が出来たから。」
男は首を傾げる。
「それで弱くなって、守れないとしても?」
「……」
「弱くなっては意味が無い。そうでしょう?」
「何が貴方を縛るのです。」
サーレは静かに答えた。
「僕はね、親にずっと支配され続けてきた。」
「それで無になった。」
「でも、それを助けてくれた仲間がいた。」
少しだけ笑う。
「……いや。好きな人がいた。」
「その人が悲しむだろうから。
出来ない。」
「守れないとしても……と?」
サーレは顔を上げる。
「いや。」
「守るさ。」
【ネビュラ……転化】
その瞬間――
サーレの周囲に氷の結晶が舞い始める。
髪が白く染まり、空気そのものが凍りついていく。
「それは……なんだ……。」
「ディアセントの君たちは知らないだろう。」
「僕たちは“ネビュラ”という特殊な能力を使う。」
「ネビュラ?」
「あぁ。さっきから使っていたものだ。
五属性を扱う能力。」
サーレは手を握る。
「だけど――」
「レビュラは、それを一つに絞る。永遠に。」
「制約というわけか。」
「あぁ。」
サーレの目が鋭くなる。
「その代わり、その能力は
ディアセントにも匹敵すると言われている。」
【ダイヤモンドダスト】
冷たい粒子が吹き荒れる。
「周りが見えにくい……だが――ッ!?」
【氷鏡雪洞】
氷の鏡がいくつも現れる。
「鏡か?
だがこんなもので何が――」
「全ては隠すためだよ。」
「僕自身を。」
「ッ!!?
なぜ後ろに――!?」
サーレはすでに背後にいた。
「純度の高い氷はね。」
「水に入れると透明で見えなくなる。」
「それを少し利用しただけさ。」
そう言いながら、首筋を斬りつける。
「たかが首筋を切られたところで致命傷には――」
その瞬間。
男の全身に衝撃が走る。
(な、なんだ……これは……)
痛い。
痛い。
身体の中が弾けるような感覚。
「氷が水に浮くのはね。」
サーレは静かに言う。
「密度が高くなるからだ。」
「そして体積が約9%増える。」
男の目が見開かれる。
「だから――」
「血を凍らせてもらったよ。」
「……ッ!!」
男は膝をつく。
「……はぁ。」
「私の負けだ。解いてくれ。」
「分かった。」
氷が解けていく。
男は苦笑する。
「私はお前を催眠にかけようとした。
それも失敗していた。」
「お前は戻らなかった。
心を揺らさなかった。」
「その時点で負けていたんでしょう。」
サーレは聞く。
「なんで僕を殺す気で来なかった?」
男は呆れた顔で言った。
「殺すつもりなんて無かったんですよ。」
「この組織にも
意味を見いだせなかった。」
少し黙る。
「けれど……やめました。」
「君は“変わらないこと”で強くなった。」
「私も、そうなってみせます。」
「それに――」
「リーダーには恩もあるので。」
「そうか。」
男は軽く手を振る。
「安心してください。
別に誰にも手は出しません。」
「下のお友達。危ないですよ。」
「行ってください。」
「そうか。ありがとう。」
「礼を言われることじゃありませんよ。」
こうして――
サーレの戦いは幕を閉じた。




