第65話 久しい香り。
僕たちは美術室に入り、絵を描いた。
お互いの絵を描いたり、動物を描いたり――
「おーい、みんな〜。やってるか〜い?」
誰かが入ってきた。
……いや、この人も知っている。
「カルロス……先生」
「どうした? そんな変な顔して」
「いえ。なんか、嬉しくなって」
「お? 先生がカッコよすぎて見とれたって?」
「言ってないでしょ」
「言ってねぇな」
「ちょっと〜、君たち、否定しないでよ〜」
何気ない会話。
けれど、その時間には価値があった。
計り知れないほどの。
――帰りたくない。
そう思ってしまうほどの。
だが、時間はない。
目を再び開いた時、場面は変わっていた。
窓が割れる。
――魔物だ。
迷いはない。
守るしか、道はない。
魔王の力を引き出す。
どれだけ罵声を浴びせられても、守るためなのだから。
血しぶきが舞う。
悲鳴。
逃げる足音。
魔物の落ちる音。
――魔物は、殺した。
足が、勝手に進む。
向かう先は、美術室。
あそこだけは、汚したくない。
最後に、見たい。
思い出の場所を。
みんなの笑顔を。
何気ない日々を過ごした場所を。
ドアを開ける。
絵の具の匂い。
キャンバスの匂い。
思い出の匂い。
「……最悪だなぁ。みんなと会えないんだから」
でも、守れれば、僕は……僕は。
最後に……見れてよかった。
僕は、扉の前に立つ。
――行こう。
そう思った、その時。
扉が、開いた。
なんで……いるの。
「……マリカ」
「アレン……行かないで」




