第59話 不思議な男
「みんな〜、こっちに集まれ〜」
ベルダ先生の声が響く。
「今からバスに乗って向かう場所は、センシル騎士団訓練所だ」
「ねぇ、コウキ。どこそれ?」
「俺も分かんね」
「えー、知らないの?」
サーレとレミアが、驚いた顔でこちらを見る。
「有名な騎士団の訓練所だよ。
優秀な生徒は、そのまま推薦されて入団できるって言われてるんだよ。将来も安泰だし!」
「騎士団か〜……むさ苦しそー」
アイネが、露骨に面倒くさそうな表情を浮かべる。
「おいおい、そんな言い方するなよ」
ベルダ先生は苦笑しながら、軽くたしなめた。
僕たちはバスへ乗り込み、談笑しながら目的地へ向かう。
そして――到着。
「お待ちしておりました!」
バスを降りると、そこには大勢の騎士団員たちが整然と整列し、僕たちを出迎えていた。
前方から、一際貫禄のある人物が歩み出てくる。
「初めまして。私はゲルヴァ。ここの騎士団長を務めております」
低く、よく通る声。
鋭い眼差しと、鍛え抜かれた体躯。
一目で、只者ではないと分かる。
周囲がその存在感に圧倒される中――
ひとりだけ、不機嫌そうに団長を見つめている人物がいた。
……なぜだろう。
「今日は、我々の訓練に参加してもらう。
無理な内容ではない。だが、気は抜くな」
そう言って、ゲルヴァ団長は穏やかに微笑んだ。
――だが、その言葉とは裏腹に。
訓練は、想像以上に過酷だった。
次々と倒れ込む生徒たち。
息を切らし、動けなくなる者も出始める。
休憩は、ほとんどない。
それでも騎士団の面々は、顔色ひとつ変えず、淡々とこなしていた。
……化け物か。
僕は給水のため、ひとりで水場へ向かう。
――その途中。
誰かがいる。
給水所の前に立つ、大きな影。
近づくほどに、ただならぬ圧を感じた。
「あぁ? 誰だ。そこにいるのは」
角から、そっと顔を出す。
そこにいたのは――
身長二メートルを超える巨体。
岩のような筋肉をまとった、圧倒的な存在感の男だった。
「水を飲みに来たんですが……」
「見ねぇ顔だな」
「一年です」
「一年? 何しに来た」
……さっき言ったのに。
「水を飲みに来ただけです」
「そうか」
男は短く答えると、何かをこちらへ放ってきた。
「え?」
反射的に受け取る。
中身は、水の入ったボトルだった。
「水だ。さっさと行け」
怖い人かと思ったけれど――
意外と、優しいのかもしれない。
「ありがとうございます」
そう言って、僕は笑顔でその場を離れる。
背後で、小さく呟く声が聞こえた。
「……名前、聞けばよかったな」
その声には、どこか不器用な温かさが滲んでいた。




