第57話 弱い人は守っちゃいけないのかな
「僕……と?」
「あぁ。アレンくん。君が強いのは、みんな知っている。だからこそ、恐れられている。それが、もったいなくてさ」
「……僕の、力か」
「その力を使って、僕と戦ってほしい」
「この力は使えない。使えば、傷つけてしまうから」
「お願いだ。その力を、確かめさせてほしい。死なない程度でいいから」
少し困ったように笑うハレイを見て、僕は視線を伏せた。
「……分かった」
「ありがとう」
その日の授業が終わると、僕たちは訓練所へ向かった。
「木刀のみのシンプルな試合だ。万が一に備えて、防具は着けよう」
「分かった」
「じゃあ……行くよ!」
同時に踏み込む。
僕は言われた通り、魔王の力を解放した。
身体能力が一気に跳ね上がり、木刀には黒い魔力が薄く宿る。
――一合。
次の瞬間、勝負は決していた。
ハレイの身体が宙を舞い、床を転がる。
「……やっぱり、ダメだな」
「大丈夫?」
「うん。ありがとう」
立ち上がった彼は、少し照れたように頭を掻いた。
「そういえば、名前聞いてなかったな」
「あぁ。僕の名前はハレイ」
「ハレイくんか」
「ハレイでいいよ」
「じゃあ、僕もアレンで」
「分かった。アレン」
ハレイは少し真剣な顔になって、僕を見つめた。
「君、ずっと誤解されてる」
「……誤解?」
「君は悪い人じゃない。何となく分かる。なのに、どうして何も言い返さないんだ?」
「信じてもらえないのが……怖いから」
「怖い?」
「うん」
しばらく沈黙が落ちたあと、ハレイはぽつりと呟いた。
「ねぇ。弱い人は、何も守っちゃいけないのかな」
その瞬間、ダイチとスミレの姿が脳裏をよぎる。
弱くて、何も出来なかった、あの頃の自分。
けれど――それでも、救えた命があった。
「関係ないよ。弱くても、救われる人はきっといる」
その言葉を口にした瞬間、胸が締め付けられた。
彼の笑顔が、痛かった。
突き放してくれたら、楽だったのに。
――強い君に聞いても、分からないよね。
ハレイは笑って去っていった。
だが、その笑顔には、確かに苦しさが混じっていた。
「……遅かったですね」
背後から声がした。
「ローダルスか。どうかしたのか」
「えぇ。まぁ……ね」




