第55話 終わりと始まり
「アレン。何してるの? ずっと固まってるけど」
「……いや。大丈夫だ。先に行っててくれ」
スミレは不安そうな顔をしたが、やがて去っていった。
――見える。
この力を使うようになってから、
他人の“過去”が、流れ込むことがある。
カルマ・クライン。
君は――
魔王に、悲しみを利用されたんだね。
君のしたことは、決して許されない。
それでも。
君の立場なら、同じ道を歩んでしまう人間は、きっと多い。
僕だけは、君を理解するよ。
――君が、ノアさんと二人で生まれ変わることを、心から祈る。
アレンは、クラインが倒れた場所に
静かにキキョウの花を置いた。
ここは、かつて花の美しい村だった。
キキョウの花言葉は――
「生まれ変わっても、あなたと」
僕が、君の罪を一緒に背負う。
だから次は、二人だけの幸せを。
そして――
もう少しだけ、信じてみよう。
僕は、信じてもらえなかったあの日から、
誰かに頼ることをやめていた。
裏切られるのが、怖かったから。
でも――
みんなは、僕が思っているより、ずっと強かった。
信用してほしいと願いながら、
誰も信用していなかったのは、僕のほうだった。
誰かに頼れるって――
こんなにも、心が熱くなるんだな。
ありがとう。ダイチ。スミレ。
気づかせてくれて。
⸻
その頃。
闇の底。
《クライン。ずいぶん遅かったね》
《……ノア?》
《久しぶり。この、バカ》
《だが私は……君と一緒にいられる資格なんて……》
《違うよ》
ノアは微笑む。
《私も、一緒に落ちる》
《そんなこと……!》
《いいの。あなたのいない世界の方が、私にとっては地獄だから》
《ノア……》
《愛してるよ、クライン》
《私も、愛している》
だから――
《ごめん。君を地獄には行かせられない》
クラインは、ノアを力いっぱい上へと投げた。
次の瞬間。
炎がノアを包む。
色んな人を傷つけた私が、
彼女より幸せになるなんて、違う。
その炎は――
今までで一番、愛に満ちていた。
心地よいほど、温かい。
苦しみと絶望の象徴だった炎が、
初めて、希望の色を帯びた。
クラインは、静かに落ちていく。
上から、ノアの叫びが聞こえる。
《もし、私がすべての罪を償えたなら……また会えるだろうか》
――次があるなら、必ず君を守る。
空を見上げる。
そして、生まれて初めてのような、穏やかな笑みを浮かべた。
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「……落ちたか。クライン」
その声は、どこか冷たい。
顔は、暗い。
「アレン。君は人に頼ってしまった」
「だから、過去を完全には思い出せなかった」
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「トラシオン様。大丈夫ですか?」
「ああ。問題ない。手当をありがとう――エリス」
「はい。トラシオン様」
その瞳は、どこか底知れなかった。




