第49話 あの日の感謝とあの日の絶望
「アレンさん。本当に、ありがとう」
ダイチは、静かに頭を下げた。
「ダイチくん……本当に、申し訳ない。
僕は君を守れなかった。ただ、見ていることしか出来なかった」
胸の奥が、締め付けられる。
だが、ダイチは首を振った。
「それは違いますよ、アレンさん。
あなたは、村の人たちのために必死に戦っていました」
一瞬、視線を伏せる。
「……でも、姉さんだけは」
「大地くん……姉さんを、元に戻してあげてくれ」
「無理です」
即答だった。
「……なんでだい?」
「姉さんは、あの日――」
ダイチの声が、低く震えた。
「僕が殺される寸前、村の近くの崖に立って、
僕たちを……見ていたんです」
「……スミレが……」
そうか。
君は、信じたかったんだ。
お姉ちゃんが助けてくれるって。
それほど、大切だったんだ。
「そんなの……姉さんじゃない」
ダイチの瞳から、感情が消える。
「もう、姉さんなんて、僕の世界にはいらない」
「大地くん……」
「姉さんは最低だ」
「大地くん……」
「姉さんは、家族じゃない」
「大地くん!!」
張り裂けるような声が、空間を震わせた。
ダイチが、わずかに目を見開く。
「……?」
「そんなこと、言わないでやってくれ」
アレンは、まっすぐに彼を見つめた。
「スミレは、ずっと後悔してた。
君が死んでから、ずっとだ」
「……」
「君を見つけた時、スミレは……本当に嬉しそうに泣いて、
何度も名前を呼びながら、抱きしめていた」
ダイチの指先が、かすかに震える。
「君が大切だからこそ……信じたかったんだ。
自分のせいで君が死んだなんて、認めたくなかった」
「……」
「恐怖に打ち勝つことは、簡単じゃない」
「……でも」
ダイチは歯を食いしばる。
「怖くても、アレンさんは、僕を助けようとしてくれた」
「僕だって、最初から出来たわけじゃない」
アレンは、静かに続けた。
「ずっと、怯えてた。
でも……ある人から言われた言葉が、今も胸に残っている」
「……?」
「だから、今の僕がいる。
今のスミレも、きっと同じだ」
ダイチの視線が揺れる。
「今の姉さんは……絶対に、君を守る」
「……そんなこと……」
「あるよ」
アレンは、はっきりと言った。
「僕は、それだけ大地くんを想っているスミレを、
ずっと見てきたんだから」
沈黙。
その空気を、ねじ込むように。
「――ほぉ。その話、聞かせてくれないか?」
空気が、凍った。
「……!!?」
「お前は……!!」
アレンとダイチの瞳が、怒りに燃える。
「俺の村を……壊した」
歯を食いしばり、叫ぶ。
「カルマ・クライン!!!」
黒い瘴気と共に、男が姿を現した。
「やぁ、久しぶりだな。アレン」
ゆっくりと視線をずらす。
「……そして君は、誰かな?」




