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第45話 スミレの進む覚悟

「……スミレでも、君じゃ……」


分かっている。


私は、あの日からずっと後悔してきた。

だからこそ、もう二度と失いたくなかった。


――弱い自分が、嫌だった。


前に立ち、戦える力が欲しかった。

誰かの背中に隠れる存在でいたくなかった。


けれど、私には才能がなかった。


ずっと私は弟が死んで虚無を生きていた。ある日、私は歩いていた。不思議な声が聞こえた。

だけど、周りには何もいない。だが声は聞こえ続ける。


《逃げ続けるのか?》


逃げてなんか...

《お前は逃げた。責任を押し付けた。》

私は...ッ...

《なのにお前はそうやって生き続けるのか?》

何が...お前に私の何が!!

《力を渡そう。》

...ッ?

《強くは無い。前に出れる訳じゃない。だが、あの日、君が出来なかったことを可能にできる。》

...力...。私は...。守りたい。

頂戴...。

《能力は渡した...後はお前次第だ。》


最初はどんな能力がなんて分からなかった。だけど、次第にわかっていった。


相手に幻を見せる。

それだけの、補助的な能力。


前線で戦うことも、敵を倒すこともできない。

ただ、誰かを“支える”だけの力。


でも――


(今は、アレンがいる)


彼の隣で。

彼を支えられる。


何もできずに立ち尽くしていた、あの日の私より。

誰かを守るために、何かを“しよう”としている今の私の方が、ずっといい。


「……黙って!」


スミレは、声を張り上げる。


「私だって……誰かを守れるんだから!!」


「ふふ……君に、何ができるんです?」


トラシオンが、薄く笑う。


「私には勝てませんよ」


次の瞬間。


空間が、歪む。


(――来る!)


「まずは……邪魔者から」


冷酷な声と同時に、刃が走った。


「……っ!」


トラシオンの刃が、確かにスミレを斬る。


血が飛ぶ。


倒れる。


……だが。


アレンの視界が歪む。


気づけば、スミレは元の位置に立っている。


トラシオンが、自分の斬った床を見ている。


スミレは、静かに息を吐いた。


【アヤワスカ】

「……これが、私の能力」


震える声で、はっきりと言う。


「自分の思い通りになったと思わせ、認識を阻害させる。簡単に言えば、相手に……“自分の都合のいい幻”を見せる力」


「……くっ! このガキが……!!」


トラシオンの顔が、怒りに歪む。


(……この能力)


スミレは、理解していた。


攻撃の瞬間。

集中したその刹那、幻術は解ける。


――つまり。


(本気でやるしかない)


「……なら、研究所ごと、吹き飛ばせばいいだけだ」


空気が、凍りつく。


「始めようか……フィナーレの時間を」


膨大な魔力が、トラシオンの身体から溢れ出す。


「……ッ!」


アレンが歯を食いしばる。


(……違う。さっきまでとは、格が違う……)


「大丈夫……!」


スミレは、叫ぶ。


「私の幻覚で……!」


「やめろ!! スミレ!!!」


「……え?」


アレンの声が、あまりにも切迫していた。


(……もっと……)


(もっと、強くならなきゃ……)


そうだ。

僕は、強くならなきゃいけない。


もっと怒れ。

もっと引き出せ。

この力を――限界まで。


でも――


(……これ以上、踏み込んだら……

僕は、僕でいられなくなる……)


それでも。


(……ここで死んだら、何も守れない……!)


「……アレンくん」


トラシオンの声が、甘く響く。


「君は、まだ力を使いこなせていない」


「……」


「彼女を殺せば……もっと、良くなるかな?」


――ブツン。


何かが、アレンの中で切れた。


(……もう、誰も……失いたくない)


(……守れなかった過去なんて……)


(……もう、いらない)


「……力を、貸せ」


低く、絞り出す。


「俺の……力を」


魔力が、爆発的に膨れ上がる。


「……おぉ……!」


トラシオンが、恍惚とした表情を浮かべる。


「素晴らしい……! やはり君は……!」


「……アレンくん。私と行こう。世界を――」


「……行かない」


「……?」


「世界を壊すなんて、できない。

僕は……魔王のようにはならない」


「……君は、勘違いしています」


トラシオンの笑みが、歪む。


「魔王は、世界を壊そうとしていない」


「……なに?」


「だから私は、あいつに従わない。

あいつは――」


「――ストップ」


その声が、響いた瞬間。


――トラシオンの両腕が、宙を舞った。


「……ッ!!?」


鮮血が、空を染める。


「久しぶりだね。トラシオンくん」


ゆっくりと、影の中から姿を現す。


「……ローダルス……!!」


トラシオンの顔が、怒りに歪む。


「会いたかったよ。とてもね。これ...いらないから返そうか?」


静かに笑うローダルス。


その存在感だけで、場の空気が一変した。

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