表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/111

第44話 魔王軍幹部 ロペオール・トラシオン

アレンたちは、研究所の奥へと駆けていた。


だが――

どこにも、研究員の姿がない。


「……静かすぎる」


不気味なほどの沈黙。

嫌な予感が、背筋をなぞる。


――あれだ。


奥に見える、大きな扉。

生態実験室。

ダイチがいるはずの場所。


「会える……ようやく、ダイチに……!」


スミレの声は震えていた。

喜びと同時に、恐怖も滲んでいる。


――もし、もう生きていなかったら。

――もし、私のことを覚えていなかったら。

――もし、別人のようになっていたら。


そんな不安を、必死に押し殺しているのが分かった。


その時――


「おやおや。先客がいたとは」


――ッ!!


気配が、なかった。


アレンは反射的に身構える。


白い髪。

執事のような服装。

赤い瞳。


細身の身体から放たれる、異様な圧迫感。


「……気づかなかった。力を使っていたのに……」


「ふふ。そりゃそうでしょう。それが私の能力ですから」


「……後ろから殺せたはずだ。なぜやらなかった」


「いやぁ、ここにいる子供などどうでもいいのですよ」


男は、にやりと歪んだ笑みを浮かべた。


「私が欲しいのは――ミスター・アレン。君だ」


「……なぜ、僕を」


「貴方、魔王の力を持っていますね?」


「……その力が目的か」


「少し違います」


赤い瞳が、妖しく輝く。


「私は君と共に――世界を壊したい」


「……なに?」


「私は魔王が嫌いでしてね。反吐が出るほど。鬱陶しい。だから、魔王ごと世界を壊したいのですよ」


理解が、追いつかない。


「申し遅れました。私は魔王軍幹部の一人。

ロペオール・トラシオン。お見知りおきを」


「……ッ!! 幹部が……なぜここに……!」


「魔王の命令ですよ。この少年を連れてこいと。

出来なければ――研究所ごと、破壊しろ、と」


「そんなの……絶対にさせない!」


スミレが叫ぶ。


「私の弟は……私が守る!!」


「くだらない」


冷え切った声。


「私は貴方にも、そのガキにも興味がありません。

興味があるのは――アレン、君だけです」


一歩、近づく。


「私と共に来なさい。世界には、君と私だけいればいい」


「させない……!」


「アレンと約束した。守ってもらうって……だから!」


「……なら、まずは邪魔者から始末しますか」


「待て!」


アレンが叫ぶ。


「ここで二人を殺したら……俺は、絶対にお前につかない!」


「ほう……」


トラシオンは、わずかに目を細める。


「なら、私と来てくれるのですね?」


「……できない」


アレンは、迷いなく答えた。


「僕は、世界を守るために戦う。

使命がある。仲間がいる。約束がある。

世界を壊すなんて……できない」


「……残念です」


赤い瞳が、冷たく光る。


「では、戦いは避けられませんね」


次の瞬間。


トラシオンの姿が――消えた。


「……っ!」


視認できない。


(透明化……いや、認識阻害か……!)


アレンは魔王の力を解放し、感覚を極限まで研ぎ澄ます。


――来る!


金属音。


辛うじて攻撃を止めた――が。


「……くっ!」


反対の腕からの一撃が、腹部に突き刺さる。


吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。


「ふふ。素晴らしい。しかし――」


トラシオンは楽しそうに笑う。


「力の使い方を、まるで分かっていない。

私が教えてあげましょう!」


「……結構だ!」


アレンは立ち上がるが、押され続けている。


――強い。


圧倒的に。


その光景を、スミレは歯を食いしばって見つめていた。


(……アレンは、すごい)


(私は……何もできていない)


弟を守ると言いながら、怖くて、立ちすくんでいる。


――あの時も。


村が燃えているのを、遠くから見ていた。

アレンが、必死に走る姿も見ていた。


それなのに――


私は、動けなかった。


怖かった。


炎が。

叫び声が。

すべてが。


(……私は、弱い)


弟も守れなかった。

村も守れなかった。


なのに、あんな酷い言葉を……。


(自分を責めると、壊れてしまいそうで……

だから、逃げた……)


誰かの言葉が、胸をよぎる。


――自分より苦しい人がいる。だから我慢しろ。


でも。


(……私だって、苦しかった)


弟が消えた。

村が消えた。


それだけで、十分すぎるほど――苦しい。


(アレンは特別……力もある、心も強い)


(私は……何も持っていない)


(私は……何ができるの……?)


視界が滲む。


「……誰か……教えて……

私は……」


その時。


「スミレ!! 逃げろ!!」


アレンの叫びが、響いた。


――そうだ。


弟を連れて、逃げなきゃ。


それが、私の目的。


(……また、逃げるの?)


胸が、強く締めつけられる。


(このままじゃ……私は、ずっと嘘をつく)


(ずっと……何も出来ない自分のまま)


スミレは、前を見た。


そして――叫んだ。


「アレン!! 私にも、助けさせて!!」


「……スミレ!?」


「貴方に助けられてばっかりじゃ……寝覚めが悪いの!」


トラシオンが、嘲るように笑う。


「くく……君に何ができる?」


スミレは、一歩踏み出した。


「……見てなさい」


握りしめた拳が、震えている。


「私だって……助けるために、努力したんだから!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ