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第39話 次の進む道。ダイチ

「――失礼します」


 控えめに扉を叩き、ベルダは校長室へと足を踏み入れた。


「また君かね」


 校長は書類から目を離さぬまま、淡々とそう言った。


「“また”ではないでしょう」


 ベルダの声には、はっきりとした怒気が混じっていた。


「帰ってくると言ったのは、貴方です。――カイルは、どうなったんですか」


「分からん」


「……分からない?」


 ベルダは思わず一歩、前に出る。


「ふざけているんですか! 貴方が、あんな場所へ行かせなければ……!」


「分かっている」


 校長は、ようやく顔を上げた。


「現在、捜索隊を動かしている。あの周辺一帯をな。だが、一向に見つからん」


「……」


 ベルダは、唇を噛みしめる。


「……アレンから、聞きました。カイルは、死んだと」


 その言葉に、校長の眉がわずかに動く。


「それは、本当かね」


 驚いたような口調。だが、身体は微動だにしない。

 その違和感に、ベルダの胸に冷たいものが走った。


「……何か、知っているんじゃないですか」


「分からない」


 校長は静かに首を振る。


「だが、彼らをあそこへ招いてしまったのは、確かに私の責任だ。捜索は、最後まで尽力する」


「……聞いていなかったんですか!」


 ベルダは、机を叩きそうになるのを必死で堪えた。


「カイルは、死んだと……!」


「死んだのであれば、死体があるはずだろう」


 校長の声は、どこまでも冷静だった。


「アレンくんが、それを見て、放っておくとは思えん」


「それは……」


「まだ、可能性は残っている」


 校長は、静かに言い切る。


「ならば、その可能性に縋るしかない。――後は、こちらでやる。下がりなさい、ベルダ先生」


 それは、命令だった。


「……失礼しました」


 ベルダは深く頭を下げ、踵を返す。


 扉が閉まる直前、彼は振り返らなかった。


 振り返れば――

 この男の“闇”を、真正面から見てしまう気がしたからだ。


(校長……あなたは、何を隠している)


 その疑念だけが、胸に重く残った。



 その日の夕方。


 アレンたちは寮へと戻ってきた。


「なぁ、アレン」


 コウキがちらりとヤツを見て、眉をひそめる。


「……そいつ、本当に連れてくんか?」


「うん」


「正直、気味悪いんだけど」


 サーレも小さく頷く。


「でも、アイツは――今後、力になる気がするんだ」


 アレンの言葉に、全員が黙る。


 少しの沈黙の後、レミアが小さく笑った。


「アレンがそう言うなら、いいんじゃない?」


「……まぁ」


 コウキは肩をすくめる。


「お前が決めたんなら、俺たちは何も言わねぇけどよ」


「ありがとう」


 アレンは、ほっと息を吐いた。


「クラスにはどう説明するんだ?」


「僕の部屋で一緒に暮らす。説明、難しいし」


「……それ、余計怪しまれへん?」


「大丈夫。なんとかなる」


 そのまま、彼らは寮の中へ入っていった。



 夜。


 アレンの部屋。


「……おい」


 背後から、低い声がかかる。


「どうしました?」


「なんで、知ってた」


「……何をです?」


「魔王のことだ」


 奴は薄く笑う。


「昔の知り合いですよ」


「誤魔化すな。お前は何者だ」


「古の守り神、とでも言えば納得します?」


「嘘をつくな」


「……あながち、嘘でもないですよ」


 その言葉に、アレンは目を細める。


「名前は」


「ローダルス」


「……そうか。お前は、何をしてくれる」


「戦えと言われれば戦います」


 ローダルスは、軽い口調で続ける。


「ですが、魔王について教えることは出来ません」


「なぜだ」


「面白みがない。それに――今教えれば、あなたも、あなたの仲間も、死にます」


「……どういう意味だ」


「そのままの意味ですよ」


 ローダルスは、ゆっくりと視線を上げる。


「あなたは、もっと強くならなければならない。そして――過去を、思い出さなければならない」


「……過去」


「その手伝いを、してあげます」


「……仲良くなれそうにないな」


「最初から、そのつもりは無かったでしょう」


 ローダルスは、愉快そうに笑った。


 アレンは、ふと視線を落とす。


 脳裏に浮かぶのは、ゴーストタウンで出会った、あの女性。


(……スミレ)


 彼女の弟――ダイチ。


 あの少年が、生きているのなら。


 探さなければならない。


 救わなければならない。


 それが、自分の“進む理由”なのだから。

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