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第36話 掘り起こされる過去。

暗く沈んでいた視界が、ゆっくりと色を取り戻していく。


目を開けた先に広がっていたのは――


燃え盛る村だった。


炎が家々を包み込み、悲鳴が空を裂く。


「……っ」


頭が軋む。


助けなきゃ。


そう思うより先に、足が動いていた。


理由なんていらない。


目の前で誰かが壊れていくのを、ただ見ていることなんて出来ない。


村の中を駆ける。


倒れた人々。


そして――人の形をした“何か”。


その中心に。


『僕』がいた。


「……なんで、僕が……」


そこにいる“僕”は、ただ蹲っていた。


震えながら、地面に手をつき。


何もせず、何も出来ず。


「動けよ……!」


アレンは魔王の力を使おうとする。


だが――触れられない。


炎にも。


人にも。


過去の自分にも。


ただ、見ていることしか出来ない。


「……っ……!」


膝をつく。


心臓の鼓動が耳を打つ。


その時、幼い声が響いた。


「お兄ちゃん、助けて……!」


――思い出した。


あれは、昔の僕だ。


何も守れず、震えていた僕。


いや。


今も同じだ。


守れない。


失うだけだ。


アレンは拳を握りしめる。


過去を殴る。


自分を殴る。


だが、拳は空を切るだけ。


何も変わらない。


目の前で、少年が倒れる。


「――あああああああ!!」


絶望が、胸を満たす。


力を得ても、変われなかった。


守れた人より、守れなかった人の方が多い。


だったら――


いっそ。


消えてしまえば。


その瞬間。


胸の奥で、声が響いた。


《立ち止まるな》


静かで、しかし強い声。


《世界を救えるのは、君しかいない》


「やめてくれ……」


《君がいなくなれば、救えない命がある》


もう、苦しいのは嫌だ。


《力のない君でも、一人の少女を救った》


……。


《今も、誰かの希望になっている》


守れなかった方が、多い。


《それでもいい。隣にいろ。支えろ。前を向け》


友達はどうする、と声は言った。


胸が締め付けられる。


《君がいなければ、死ぬかもしれない》


「……嫌だ」


震える声。


《戻ってこい、アレン》


温もりが、胸に灯る。


凍りついていた心が、わずかに溶ける。


《しばらくお別れだ》


声が遠ざかる。


《誰かを救える、かっこいい勇者になれよ》


光が弾けた。



「……よくも、俺を殴り飛ばしてくれたな」


意識が戻る。


男が小刀を振り上げている。


「死ね――!」


その腕が、止まった。


「させませんよ」


冷えた声。


次の瞬間。


男の胸を、黒い刃が貫いた。


声をあげる間もなく、身体は灰となって崩れる。


現れた男は、無感情に呟いた。


「弱いくせに、誇りだけは高い一族ですね」


周囲を見渡す。


「……あと一人」


その視線は、倒れているカイルへ。


「死んではいないか」


闇の奥から声が返る。


「魔王様、どうなさいますか」


低く、愉悦を含んだ声。


「使えるかもしれん。あそこへ連れて行け」


「承知しました」


霧が揺れる。


運命は、まだ終わっていなかった。


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