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第33話 なんで君が

「……なんで君が僕の力を知っているのかは分からない。でも、確かに力を使えば彼には勝てたよ」


「じゃあ、なんで……!?」


彼女は声を荒げる。


「同じ人間だからだ」


「……は?」


目を見開き、信じられないものを見るようにアレンを睨む。


「殺しに来たのよ!? 何言ってるの!? 馬鹿なんじゃないの!?

本当に死ぬところだったんだよ!」


霧の向こうで、かすかに風が鳴る。


アレンはゆっくりと視線を落とした。


「……僕は、傷つけたくないんだ」


「――っ」


「それに……彼から、悲しみを感じた。

あの能天気な態度は、きっと演じてる。何かを隠してる」


「だからって……!」


「僕が死んで済むなら。彼が救われるなら、それでもいいって……思ってしまった」


その瞬間、彼女の目に涙が浮かんだ。


「ふざけないで……」


震える声。


「誰かを救える力があるなら……そんなこと言わないでよ……!

その分だけ、救ってよ……!」


胸の奥が、わずかに痛む。


「僕には……誰も救えない。力を持っていても……守れなかった」


かつて失った人たちの影が、脳裏をよぎる。


「なら――」


彼女は一歩、踏み出した。


「救えるようになってよ……!

死なないでよ……!」


涙がこぼれる。


「誰かを……私の弟を……私を……救ってよ……」


「……君の弟と、君自身を?」


彼女は唇を噛みしめ、静かに語り始めた。


「私は……弟を失った。

村を離れていた間に、村は焼き払われていたの」


声が震える。


「生き残った子供が一人いるって聞いて……その子が弟だって、少しだけ希望を持った。でも……違った」


拳を強く握る。


「私は、あそこで死ぬ運命だった。

でも、生かされた。父も母もいない。弟だけが、本当の家族だったのに……」


しばらく沈黙が落ちる。


やがて彼女は、小さく言った。


「でもね……弟は生きている気がするの。

ううん、違う。生きてる。そう信じてる」


アレンは静かに頷いた。


「あの日から、私は空っぽだった。

気づいたら、海にいた。そこであなたを見た」


――人魚編の戦い。


「すごい力で戦ってた。

……あなたなら、弟を探してくれるって思った」


涙を拭わず、まっすぐ見つめる。


「だから……死なないで。

勝手な願いだけど……私を、助けて」


沈黙。


霧の向こうから、微かな殺気が漂う。


アレンはゆっくり息を吐いた。


「……わかったよ」


「え……?」


「彼に勝つ。止める。

そして……君の弟を探そう」


彼女の目が揺れる。


「でも……傷つけられるの?」


「傷つけるんじゃない。救うんだ」


静かだが、はっきりとした声。


「彼にも理由があるはずだ。

それに……僕にも守りたい日常がある」


学園での時間。仲間の顔。


「友達がいる。守りたいって……今、思った」


――誰かを救うことが、自分を支える。


ですよね、校長。


アレンは一歩、踏み出す。


霧の奥へ。


カイルが待つ場所へと。


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