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第32話 なんで...。

その日、アレンは普段通り授業を受け、帰宅するとすぐに眠りについた。

意識の奥で、明日の任務のことを考えながら。


――ゴーストタウン。

死者の街。

白い紙が舞う、奇妙な場所。


胸の奥に、小さな不安と、かすかな高揚が混じる。


不思議なことに、その日は夢を見なかった。


そして翌朝。


アレンは身支度を整え、校門前へ向かった。


時計は、八時五十九分。


「……まだ来てない?」


周囲を見渡しても、助っ人らしき姿はない。


――寝坊かな。


そう思った瞬間。


「おー、早いやん。僕は時間ピッタリやな〜」


背後から、間の抜けた声が響いた。


「……っ!」


振り返ると、いつの間にか一人の男が立っていた。


細身の体格。

細く笑った目。

身長は百八十ほど。

掴みどころのない空気をまとっている。


「君は……?」


「知らんのか、ひどいな〜。

僕はカイルや。よろしゅう」


「君が……カイルくん? ごめん、来たばかりで知らなくて。僕はアレン」


「知っとるよ〜。君のこと、学園で知らん人おらんでしょ」


「そんなに有名なのか……。とにかく、今日はよろしくね」


「ああ、ディアセントどうし、よろしゅう頼むわ」


カイルは、口元だけで笑った。


その笑みが、なぜか胸に引っかかる。



やがて街は姿を変えた。


崩れた建物。

人気のない通り。

霧のような靄が、街を包み込んでいる。


「……着いたみたいやで」


「ここが……ゴーストタウン……」


「俺らが用あるんは、この先や」


「何があるの?」


「さぁな〜。政府ですら、よう分かってへん場所や。

幽霊、呪い、消える人間……噂は山ほどある」


カイルは歩きながら続けた。


「それを利用して悪さする連中もおる。

殺し、盗み、なんでもありや」


「……気をつけないと」


「せやな」


そして。


カイルは、ふと足を止めた。


振り返る。


「せやけどな」


霧の奥で、細い目がわずかに開く。


「――味方も、信用したらあかん」


「え……?」


次の瞬間。


冷たい感触が、胸を貫いた。


「……?」


視線を落とす。


自分の胸に、剣が突き立っている。


「……カ、イル……?」


「信じたらあかんよ。誰も」


淡々とした声。


「僕はディアセントやけどな。ほぼ使えへん能力や。

せやから努力した。殺気を消す。動きを抑える。

昨日、教えてもらったみたいやけど……僕には通じへんねや」


剣が引き抜かれる。


体から力が抜け、アレンは膝をついた。


血が、霧の石畳に広がっていく。


「……なんで……」


「理由なんてないよ。

恨みもない。あるとしたら――君の能力やな」


意識が、遠のいていく。


それでも。


アレンは反撃しなかった。


剣を握ろうともしない。


「……なんでや。不意打ちとはいえ、君ならできたやろ」


「……力は……使わない……」


「は?」


「……守るための……力だから……」


カイルの眉が、わずかに動いた。


「……まぁええわ。これで終いや」


剣が振り上げられる。


その時。


「何してんのよ!!」


鋭い叫び声が霧を切り裂いた。


「……っ!」


一人の少女が駆け込んでくる。


迷いなくカイルへ手を向け、短い詠唱を紡ぐ。


「縛れ――」


空気が震えた。


「なんや、これは……!」


カイルの体が、動かない。


見えない何かに拘束されている。


その隙に、少女はアレンを抱き上げた。


「しっかりしなさい!」


霧の中を駆ける。


どれほど走ったのか分からない。


やがて街外れの崩れた建物の陰に辿り着いた。


「……ありがとう。助かったよ」


「“助かった”じゃないでしょ!!」


少女は怒鳴った。


「何してんのよ、あんた!

力を使えば、あんなやつ簡単に倒せたでしょ!」


「……」


「どうして使わなかったのよ!」


アレンは、かすかに笑った。


「……力は、人を守るために使うものだから」


少女の目が、見開かれる。


「……本気で言ってる?」


「……うん」


「……信じられない」


呆れと怒りと、わずかな戸惑い。


その視線を受けながら、アレンは思う。


――待て。


なんで、この人は。


僕の力を、知っている?


胸の奥に、新たな疑問と不穏が広がった。


霧は、まだ晴れない。


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