第31話 夢の続きと特訓
また、夢を見た。
昨日と同じ“何か”が、そこにいた。
顔は見えない。姿もはっきりしない。
けれど、その何かは――泣いていた。
気づけば僕は、その存在を抱きしめていた。
一緒に、泣いていた。
理由なんて分からない。理屈もない。
ただ、胸が張り裂けそうなほど悲しかった。
その何かは、優しく僕の頭を撫でる。
そして――
目が覚めた。
━━━━━━━━━━━━━━━
「……もう、こんな時間か」
時計は十一時を指している。
今日は休みだ。
けれど、何もしない一日がどうしても耐えられなかった。
じっとしていると、余計なことを考えてしまう。
だから僕は、学園へ向かった。
職員室の扉をノックする。
「失礼します……一年、アレンです。すみません、ベルダ先生はいらっしゃいますか……?」
書類から顔を上げたベルダ先生が、こちらを見る。
「ん? どうした、アレン。今日は休みだぞ?」
「……僕を、強くしてください」
一瞬、沈黙が落ちた。
「……先に訓練所へ行ってろ」
それだけ言うと先生は席に戻り、書類を片づけ始めた。
僕は無言で訓練所へ向かう。
しばらくして、ベルダ先生がやって来た。
「人魚島で何があったかは、コウキから聞いた」
先生の声は、低い。
「俺は慰めるつもりはない。打ちのめされて、それでも前に進むしかないからな。お前は今、前を向こうとしている。その気持ちを俺は踏みにじりたくない」
胸が、少し熱くなる。
「俺はお前の力の本質は知らん。だが、武器の扱いと体の使い方くらいなら教えられる」
「ありがとうございます」
「まず、お前がこれから戦う相手には、ネビュラを使う奴もいるだろう。同じディアセントの使い手もな」
先生は腕を組む。
「その時、一番大事なことは何だと思う?」
「……勝つこと、ですか?」
「違う。そのために“何をするか”だ。――分析だ」
先生は続ける。
「サーレとコウキの戦い方は違う。コウキの攻撃はサーレに当たりづらい。なぜだ?」
「攻撃が来る位置を予測しているから……」
「そうだ。行動の前には、必ず“前兆”がある。能力も同じだ」
木刀を手に取る。
「受けていい攻撃と、受けちゃいけない攻撃を見極めろ」
「受けていい……?」
「大技ほど事前動作が大きい。軽い攻撃は、あえて受けて押し返すこともある。――実践だ」
先生の木刀が振り下ろされる。
たった一振り。
だが、圧倒的な重みが乗っていた。
「人間は、とっさには強い力は出せん。全身を使う必要がある。足、腰、肩……相手がどこに力を入れているか見ろ」
――見える。
理屈ではない。感覚で分かる。
「先生。その攻撃、僕に向けてやってください」
「……分かった。怪我はするなよ」
向かい合う。
静寂。
目を閉じる。
風の音。
踏み込み。
木刀が振り上げられる気配。
――ここだ。
僕は木刀を振り上げ、受け止める。
足りない力を、ほんのわずかだけ魔王の力で補う。
衝撃が腕を貫いた。
だが、弾き返す。
再び静寂。
「……出来るじゃないか」
先生が小さく息を吐いた。
「なら、あとは能力だな」
ネビュラの説明が続く。
「ネビュラは何かに纏わせる。五属性に応じた光が出る。見極めて動け。……と言いたいところだが」
先生は苦笑する。
「アレンはとにかく距離を詰めて速攻だ。それが一番向いてる」
「えぇ……対策とかは……」
「ネビュラの対策はネビュラだ。頑張れ!」
「はは……」
最後に、ディアセント。
「能力は使われるまで分からん。一説では、前世の願いが形になったものとも言われている」
こうなりたかった。ああなりたかった。
「だがな。無敵の力なんてない。必ず弱点はある。分からなければ考えろ」
「……はい」
胸の奥に、確かな灯が宿る。
「これで明日も頑張れます」
「明日?」
「はい。校長先生から“ゴーストタウン”へ行けと……」
一瞬。
先生の表情が曇った。
「……そうか。気をつけろよ、アレン」
そして、静かに続ける。
「――必ず、帰ってこい」
その言葉が、妙に重く胸に残った。




