第28話 恋
ショッピングモールからの帰り道。
エリスは学園の寮へと続く道を歩きながら、胸の高鳴りを抑えられずにいた。
「はぁ……」
小さく息を吐き、頬に手を当てる。
――熱い。確実に、赤くなっている。
「エリス? どうしたの?」
隣を歩くクラスメイトの女子が、首を傾げて覗き込んできた。
「えっ!? な、なんでもない!」
慌てて手を振るが、誤魔化しきれた気はしない。
「絶対ウソ。さっきからずっとニヤけてるし」
「え、そんなこと……」
言いかけて、脳裏に銀色の髪と赤い瞳が浮かぶ。
――アレン。
お化け屋敷で出会った、あの少年。
間近で見たその姿は、まるで物語の中から抜け出してきたようで、現実感がなかった。
「……同じ学園の一年生、だっけ?」
「そうそう。しかも噂の転入生だよね」
「え、あのアレンって子が?」
後ろから別の女子が会話に混ざってくる。
「最近、色々と話題の……あの?」
「うん。まさに本人」
エリスは思わず、口元を押さえた。
「え、なにそれ。エリス、そんな子とどういう関係?」
「たまたま……ほんとに、たまたま一緒にラーメン食べただけ!」
「それだけでその反応?」
「う、うるさい!」
そう言いながらも、胸の奥は落ち着かなかった。
怖がらせ役の仮装をしていた時、暗闇の中で見たあの姿。
銀色の髪、闇の中で光る赤い瞳。
一瞬、本物の“何か”かと思ってしまったほどだった。
なのに、話してみれば――
驚くほど素直で、少し控えめで、優しい。
「……反則でしょ」
ぽつりと零れた言葉に、友人たちは一斉に食いついた。
「なになに?」
「なにが反則?」
「エリス、完全に恋じゃん」
「ち、ちがっ……!」
否定しようとしたが、言葉が詰まる。
自分でもよく分からなかった。
ただ――
あの少年の姿が、頭から離れないだけだ。
⸻
一方、同じ頃。
学園へと戻る道すがら、アレンは静かに息を吐いていた。
エリスと別れてから、周囲の視線が妙に増えた気がする。
クラスメイトたちの様子も、どこか落ち着かない。
「……なんか、疲れた」
「そりゃそうだろ」
隣を歩くコウキが、苦笑しながら肩をすくめる。
「いきなり学園のマドンナと飯とか、心臓に悪ぃわ」
「そ、そんなつもりじゃ……」
「わかってるわかってる」
前を歩くサーレとレミアも、時折振り返っては小さく笑っていた。
クラスの空気も、どこか変わり始めている。
アレンを見る目は、以前よりも少しだけ柔らかい。
けれど、同時に。
――何者なんだ、こいつは。
そんな戸惑いと警戒が、まだ完全には消えていなかった。
アレン自身も、それを肌で感じ取っている。
それでも。
今日一日、誰かと笑い、普通に話し、普通に過ごせたことが、どこか心を軽くしていた。
そんな帰り道。
「――アレン君」
背後から、低く落ち着いた声が響いた。
その場にいた全員が、同時に足を止める。
振り返った先に立っていたのは、学園の校長だった。
白髪交じりの髪、穏やかな微笑み。
だがその瞳は、底の知れない静けさを湛えている。
「少し、時間をもらってもいいかな」
「……はい」
アレンが小さく頷くと、校長は満足そうに微笑んだ。
夕暮れの校舎を背に、
物語は、再びゆっくりと動き出そうとしていた。




