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第29話 大事なのは経験

僕は校長に連れられ、空き教室へと入る。


「ここに来てみて、どうかね。何か、変われたかい?」


 校長は穏やかな声でそう問いかけた。


「……分かりません。楽しいことは、ありました。でも――失った人もいます。

 僕は、弱かった。守れなかったです」


 アレンは、視線を落としたまま答える。


 校長は静かに頷いた。


「アレンくん。ここは“守る術”を学ぶ場所だ。

 私は、その経緯を知らない。慰めることも、できない。

 失ったものは、戻らない」


 一拍、間を置き、校長は続ける。


「なら、背負うしかない。忘れてはいけない。

 その人たちのような悲しみが、これ以上生まれないために」


 その言葉は、重く、しかし優しかった。


「……はい」


「アレンくん。人を守るために、本当に必要なものは何だと思う?」


「力……ですか?」


「違う。経験だ」


 校長は、まっすぐにアレンを見つめる。


「誰かを守れた。感謝された。救えた。

 その“経験”が、人を強くする。

 だが、逆もある。守れなかった経験もまた、人を形作る。

 今の君と同じだ」


「……そうですね」


「君は、多くの人を救える。君の力は、大きい。

 だが君は、その力を“誰かを守るため”に使っている。

 世の中には、その力を悪として使う者もいる」


 校長は、穏やかに微笑んだ。


「誇りなさい。君の心は、強い」


「……ありがとうございます」


 少し胸が、軽くなった気がした。


「それでだ。アレンくん。私から一つ、課題を与えたい。

 まぁ、任務の一つなんだがね」


「任務……?」


「“ゴーストタウン”と呼ばれる場所がある。死者の街とも言われている。

 そこで最近、奇妙な現象が起きているらしい」


「奇妙な……現象ですか?」


「白い紙のようなものが、大量に舞っている。

 それも、何百枚という数だ」


 アレンは、眉をひそめた。


「……紙、ですか?」


「うむ。その正体と原因を、調べてきてほしい」


「分かりました」


「3日後の朝九時、校門に来てくれ。

 一人、助っ人を呼んである。それも、君と同じディアセントの能力を持つ子だよ。」


 その言葉に、胸の奥がわずかにざわつく。


「……誰ですか?」


 だが、校長は答えず、ただ意味深に微笑んだ。その顔に何か見覚えも感じた気がした。


「幸運を祈るよ、アレンくん」


 そう言い残し、校長は静かに去っていった。


 その背中からは――

 これから始まる出来事の、ただならぬ重みが、はっきりと感じられた。

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