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第22話 戻ってきてよ。

指先が、裂けそうだった。


 岩に食い込ませた爪が震え、腕が悲鳴を上げる。

 足場はもう、ほとんど残っていない。


 ――落ちる。


 その現実だけが、やけに鮮明だった。


 崖の上から、声が聞こえる。


「サーレ!!」


 アレンくん。

 そして、コウキ。


 二人がこちらへ駆けてくるのが見えた。

 だが、その前に――狼の魔物たちが立ちはだかる。


「クソッ……!」


【ネビュラ解放!!!】

【炎掌!!】

コウキが周りの狼の魔物を殴り伏せる。

 アレンは、迷いなく力を解放した。


 黒い魔力が奔り、魔物たちを薙ぎ払う。

 ――早い。

 きっと、僕を助けるためだ。


 その瞬間。


 掴んでいた岩が、音を立てて崩れた。


 あぁ。


 僕、死ぬのか。


 ……今でも、僕は死にたいのか?


 違う。


 嫌だ。


 生きたい。


 生きたいよ。


 誰か――


「……助けて……」


 声は、驚くほど弱かった。

 自分でも、聞こえたか分からないくらい。


 それでも。


 僕は、落ちなかった。


 何かに、手を掴まれていた。


 恐る恐る、上を見る。


 満月。

 白い光に照らされて、そこに立つ影。


 ――なんで。


 なんで、僕を助けてくれるの。


 なんで、君がここにいるの。


「……サーレ」


 その声で、分かった。


 レミア。


 どうして、泣いてるんだろう。


「戻ってきてよ」


 戻る?


 その言葉と同時に、何かが胸の奥で重なった。



「サーレ、また怒られたの?」


「……うん」


「もー。一人で泣かないでよ。私がいつでも話、聞いてあげるのに」


「……なんで、そんなに優しいの」


「ほっとけないから」



 あぁ。


 思い出した。


 僕とレミアは、幼なじみだった。


 でも――父に見つかってしまった。


「これ以上、いらないものを作るな」


 そう言われた。

 誰も近づけないようにすると。


 僕に、選択肢はなかった。


 それから僕は、思った。


 自分が近づけば、誰かが傷つく。

 だから、誰にも興味を持たない。


 そうして、世界は色を失った。


 思い出したくなかった。

 忘れたかった。


 傷つけたく、なかったから。


 ……でも。


 レミア。


 君は、ずっと気にかけてくれてたんだね。


 崖が、また崩れる。


 レミアの体が引っ張られ、二人とも宙に浮いた。


 でも、不思議と――怖くなかった。


「サーレ!!その子を、絶対離すな!!」


 声が響いた。


 次の瞬間、強烈な衝撃。


 アレンくんが、魔王の力を使い、二人を掬い上げ

 上へと、投げた。


 身体が地面に転がる。


 息を吸って、吐いて。


 生きてる。


 ……生きてる。


 生きる意味なんて、今は分からない。


 でも。


 生きる意味は、誰かに教えてもらうものじゃない。

きっと、自分で、掴み取るものだ。


 友達がほしい。


 傷つくなら――

 今度は、僕が守る。


 もう、死にたいなんて思わない。


 月が、静かに空に浮かんでいた。

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