【ルデン5ー4】ストレリチア殿下との対話
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またしばらく馬で駆けると、中継地点と思われる場所に簡易拠点が設営されていた。
「今日はここで野営し、明日の早朝ここを発つ。ここら一帯の魔物は殲滅させたが、万が一に備え各自警戒は怠るな」
ストレリチア殿下の言葉に耳を傾けつつ、ルデンに支えてもらい馬を降りる。
「…………」
(ルデン、どうしたんだろう……。少し前から元気がないように見えるわ……)
「ルデン……? 大丈夫?」
「ん?」
声をかけるが、ルデンはなんだか上の空といった感じだ。彼の体調は問題なさそうに見えるのだが……。
(気のせい……ではないと思うのだけれど。疲れてしまったかしら? ずっと、私と相乗りしていたもの)
きっと、普段より気を張っていたに違いない。
「ルデンは休んでいて」
「え……ベリルは?」
「私は夕食の用意を手伝いに行ってくるわ。兵の皆さんには道中守っていただいてばかりだったから、何かしたくて……。いいかしら?」
「……ベリルは本当に優しいね。うん、いいよ」
「ありがとう! それじゃあ行ってくるわね」
ルデンにも了承を得たところで、夕食の準備に取り掛かっている兵の皆さんのところへと足早に向かった。
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日もすっかり落ちて、辺りの木々は黒々としている。
等間隔に置かれたいくつかの焚き火を、兵の皆さんが囲んで食事と談笑で盛り上がっている。
普段の夜の森であれば、静けさと木々の鳴る音が不気味さを際立たせるけれど、今は皆の宴のような雰囲気のおかげで野外なのに暖かいとさえ感じるほどだ。
「うまっ!! 今日の飯当番だれ!?」
夕食を兵の皆さんに配っていると、至る所から「美味しい!」という言葉が飛んでくる。
お手伝いした身としては嬉しい限りだ。
「今日はなんとベリル嬢が作ってくれましたー!」
「嬢ちゃん! これあんたが作ったのか!? すげー美味いよ!」
「いえ……私はお手伝いしただけで───」
私が手伝った方の鍋がみるみるうちに空になって行く。
「おい! こっちの鍋も残すなよ!」
「うわっ、こっちの皿もうねぇのかよ! おーいベリルちゃん! 他にどれ作ったー!?」
「あ、奥のチーズが乗ったマッシュポテトの───」
「なにっ!? 早く取りにッ」
「あぁっ、お前らッ!! 走るなー!」
「おーい! こっちにもおかわりをくれー!」
「あっ、はーい!」
(殿下が率いる兵だからもっとお堅いのかと思っていたけれど……みんな気の良い方ばかりね)
昼間あんなに鋭い眼光で魔物を切り刻んでいた人たちが、美味しそうにご飯を食べたり、笑顔でお酒を酌み交わしている姿は、なんと言うかギャップがすごくて……なんだか見ていて微笑ましかった。
(ルデンはさっきテントで仮眠を取っていたから、まだ起こしに行かない方がいいわよね)
ストレリチア殿下の近くを通りがかると、私の姿を見つけた殿下が声をかけてくださった。
「すまないな、ベリル。騒がしい奴らが多くて。夕食の手伝い、ありがとう」
「いえ、お手伝いさせてくださってありがとうございました!」
ストレリチア殿下も食事をしながらお酒を嗜んでいらっしゃる。
(お酒をお注ぎした方がいいかしら……? でも毒の混入とか気にされるわよね……? この場合どうしたらいいのかしら……)
こんなことならもっと積極的に夜会に出ておくんだった、と後悔した。
そんな迷いが伝わってしまったのか、ストレリチア殿下はクスッと笑ったあと手招きをした。
「少し話さないか? よければ酒を注いでくれ」
(あ、気を遣わせてしまったわ……申し訳ない……)
「はい、喜んで」
「君も呑むといい。学園に通っているなら、年齢的にはいけるだろう?」
「よろしいのですか?」
「ああ、気兼ねなく話をしながら酒を呑める相手はなかなかいないからな。君とならルデンの話をしながら楽しく呑めそうだ」
「……気兼ねなく話を、ですか───」
ストレリチア殿下にお酒を注ぎながら、ルデンのことを想った。
「ん? 何か変なことを言ったか?」
「あ、いえ……以前ルデン───殿下も、同じことを言っていたので。改めて、兄弟なのだなぁ……と」
「ははっ、あいつも君に同じことを言ったのか。学園でのルデンはどうだ? 馴染めているか?」
「はい。皆に慕われていて……特に女性からはいつも歓声を貰っています」
「はは! あいつは特に顔立ちがいいからなぁ」
(あ、身内でもそう思うのね)
分かります、と深く頷き同意を示した。
「他には? あぁ、せっかくだ、ルデンに直してほしいところとかはないのか?」
「えっ……直してほしいところ……ですか?」
うーん、と懸命に考えるがなかなか出てこない。
(ルデンってばいつも完璧だから、直すところなんて───)
「…………あ」
「お、あるんだな?」
ケラケラ笑いながら次の言葉を待つ殿下。
お酒が入っているからなのか、はたまた弟の話だからなのか、ストレリチア殿下はとても上機嫌に私の話を聞いてくれた。
「ルデン殿下は……いつも自分よりも他の誰かを優先していて───。もちろん、その行いは素晴らしいと思うのですが……反面、何故と思ってしまうのです。ルデンが手を差し伸べる者の中には、彼をよく知りもせず、彼に対し誤った意見を述べる者もいて。私は……彼のように出来た人間ではないので、何故自分を陥れようとする者にまで手を差し伸べるのか……ずっと分からなかったんです。私は、他の誰かではなく、ルデン自身に幸せになってほしい───そう……思ってしまうのです。まぁ……どんな者にも平等に思いやることができるという点が、彼の良いところでもあるのですが。……恩を仇で返される彼を見るのは、やはり苦しいです。私たちも……何か彼の役に立てたら良いのですが」
途中から、ストレリチア殿下は真面目な表情で私の話を聞いていた。
そして最後まで聞くと、殿下は柔らかくふっと微笑んだ。
「───ルデンは、良い仲間に巡り会ったな」
その笑顔は、ルデンの面影があった。
(……ふふ、やっぱり兄弟って似ているのね)
───ガサッ。
木の後ろの草が揺れたような気がして、そちらに視線を向けようとする。
「───なぁ、ベリル」
その前に、ストレリチア殿下に名を呼ばれた。
「はい」
「昼間も少し言った気がするが……卒業したら本気で、俺の配下に加わらないか?」
「え?」
「君の魔法の才は、野良の魔法使いにするには惜しい。君が俺の隊に加わわってくれれば、戦線も安定するだろう。卒業したら王宮魔導師の資格を手に入れるのだろう? どうせ城で働くなら、王宮での後ろ盾も得られる俺の部下になるのも、君にとって悪い話では無いと思うが」
「……」
想像もしていなかった提案をされ、驚いてポカンとしてしまう。
(冗談……? それとも本気……? 殿下の真意が表情からは読み取れないわ……)
「ええと……申し訳ありません。大変素敵なお話なのですが、お断りさせていただきます」
「ほう?」
気を悪くさせたかとヒヤヒヤしたが、その心配を他所に、殿下は面白そうに口元に弧を描いた。
「理由を聞いても?」
「殿下のお誘いはとても嬉しかったです。しかし私は、学園を卒業したらルデンの配下に加わりたいのです。もちろん、彼の近くで働くことは難しいでしょうが……それでも、どんなに離れていても、彼の力になりたいのです。これは、私だけではなく、私たちダイヤ生───ルデンと共に活動している組織の仲間の総意でして。……ふふ、ルデンには、まだ内緒なんですけど」
「……そうか。良い目標だな。私も応援しているよ」
「……! ありがとうございます! ストレリチア殿下!」
「ふっ、引き止めてしまって悪かったな。話に付き合ってくれてありがとう、ベリル」
「いえ! 私も殿下とお話することができて光栄でした!」
席を立とうとすると、最後に、ストレリチア殿下から声をかけられた。
「───ベリル。ルデンのことを、よろしく頼む」
「……はい!」
私はストレリチア殿下にとびきりの笑顔で答えたのであった────。
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