【ルデン5ー3】古代遺跡へ
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《Side ベリル》
───時計塔にて。
今日はルデンから、話があると呼び出されていた。
「───ということなんだけど……」
魔獣の森にて古代の遺跡が発見されたこと。
その中に入るための入口に特殊な結界が張られていて、その結界を破れる可能性が私にあること。
そしてなんと、これは第一王子のストレリチア殿下直々の頼みであることなどを聞いて、若干頭がパンクしそうになった。
(ストレリチア殿下が、何故私のことを知っているのかしら……)
「それでその……ベリルさえよかったら今回の調査に同行してもらえないかな。あぁもちろん、ベリルが嫌だったら全然断ってくれて構わないから! 危険もあるだろうし……」
「ええ、いいわよ」
「そうだよね……やっぱり嫌───え!? い、いいのかい……?」
ルデンは、私が二つ返事で了承したことに驚いていたけれど、私としては元よりルデンからの頼みであれば断るつもりなどなかった。
「ええ。あ、でも力になれるかは分からないわよ? 光の精霊とか、よく分からないし……」
「う、ううん! それは全然大丈夫だよ! ……ありがとうベリル。君の安全は僕が守るから」
そう言って差し出された彼の手に、私は迷わず自分の手を重ねた。
「ふふ、頼りにしているわ」
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───と、いうわけで。
私は今、魔獣の森に来ているわけなのですが……。
(す、すごいわ……右を見ても左を見ても、名のある戦士ばかり───)
ストレリチア殿下が率いる兵は、皆屈強な戦士たちで。纏うオーラが別格だった。
(竜種を倒したと噂で聞いたけれど、この人たちなら頷けるわね……)
彼らが護衛を務めるのだ。道中魔物に襲われて死ぬ、なんてことにはならないだろう。
「君がベリル・エーデルシュタインか」
「!」
兵と打ち合わせをしていたストレリチア殿下が、少し離れたところでルデンやレドと共に待機していた私の存在に気がついたようで、兵たちとの会話を切り上げ私たちの元に顔を出してくださった。
私はすかさず、身をかがめ敬意を示す。
「楽にしてくれ。私はヘリオドール第一王子、ストレリチア・ヘリオドール。今日は呼び掛けに応じてくれて感謝する」
「お初にお目にかかります、ストレリチア殿下。騎士、エーデルシュタインが娘───ベリルと申します。本日はどうぞ、よろしくお願い致します」
「ああ、こちらこそよろしく頼む。それじゃあルデン、ベリル嬢はこちらで預からせてもらうよ。護衛をつけるからお前は先に学園へ戻っていてくれ」
(え……ルデンは一緒ではないの……?)
少し不安になってルデンの顔を見ると、彼は私を安心させるように微笑んだ。
「兄上、僕も同行します」
「お前も?」
「ベリルは僕の大切な……友人です。彼女のことは僕に護衛させてください」
(ルデン……)
ストレリチア殿下は少し考えるような素振りを見せたが、ルデンの真剣な眼差しを受けて観念したように頷いた。
「……分かった、いいだろう。だが今回は少数精鋭で遺跡に潜る。移動も早く済ませたい。人数を考えると、お前の従者は連れて行けないが、それでも構わないか?」
「はい、ありがとうございます。レドは学園で待機を、いいね?」
ルデンに命じられたレドは、短く「……はっ」と了承を口にする。
「よし、では皆、出発するぞ! ベリル、君はルデンの馬に乗ってくれ。少し早足になるが、すまないな」
「承知しました」
「ベリル、おいで」
「え、ええ」
ルデンと共に待機していた馬の元まで行く。
白馬の前で止まったルデンは手を差し出した。
「お手をどうぞ、お姫様」
「………………!?」
「ん? ベリル?」
「…………っは! ご、ごめんなさい。今のルデン……すごく王子様みたいで……」
「ふふっ、僕は本物なんだけどな?」
「そ、そうよね。ごめんなさい」
(な、なんで私……緊張してるの……)
目の前にいるのはいつも一緒にいたはずのルデンなのに、妙に緊張してしまう。
「あ、あの! ルデン……私、馬に乗るの、初めてなの……」
「あ、そうなんだ。じゃあ相乗りも初めて?」
「ええ……」
「そうか、ふふ、大丈夫だよ。手網は僕が握るから。それじゃあ……ちょっと失礼するね」
「え……、わ……っ」
ルデンは私を抱き上げ、自身の愛馬へと乗せる。
そして素早く、彼も私の後ろに飛び乗った。
「……っ」
自然と、ルデンに後ろから抱きつかれる形になる。
想像以上に彼を近くに感じて、心臓が激しく音を立てた。
「ベリル、緊張してる? ふふ、大丈夫だよ。この馬はすごく大人しいんだ。それに、僕もそばにいるから。落ちたりしないよ」
「あ、ありがとう……」
(き、緊張しているのは多分、馬じゃなくて貴方のせいなのだけれど……)
ルデンが走る準備のため、手網を少し動かす。そのたび身体に力が入ってしまった。
「…………」
(お、お願いだから落ち着いて私! 今更動揺するなんておかしいでしょう……)
スゥーハァーと深呼吸し、心頭滅却に努める。
「ベリル……もしかして────僕を意識、してくれてる?」
「……!! えっ……と……」
自分でも目を背けていた事実を突き付けられ、なんとか誤魔化そうと言葉を探す。
けれど、こんな時に限って言葉が出てこなかった。
それどころか、どんどん頬に熱が溜まってきている気がする。
「(…………そっか。意識、してくれてるんだ。……耳まで真っ赤。…………可愛い)
ルデンは私の耳元の髪束を掬い、それをそのまま耳へとかける。
「ふふ、ベリル───」
彼は身を屈めて、私の耳に顔を近づけた。
「照れてるベリルもすごく可愛いけれど、あんまり緊張すると……馬に緊張が移っちゃうから」
「〜〜〜っ!」
わざと───囁くように耳元で言うルデン。
(ぜ、絶対分かっててやっているわ……!)
彼にも、こんな意地悪な一面があるとは……全然知らなかった。
「───よし、皆! 均等に間隔を開け隊列を組め! 先行部隊は斥候を!」
「「はっ!」」
「───では、出発する!」
ストレリチア殿下の号令で、一斉に馬を進める。
初めは少し不安だった乗馬も、風を切って駆ける馬の速さと爽快感が気持ち良くて、そんな不安はすぐに消え去った。
ドッ、ドッ、ドッ、ドッという馬が地を蹴る音がとても心地良く感じた。
休憩を挟みつつ、2、3時間馬で走ったあと、次の拠点までは徒歩での移動となった。
道が入り組んでいる、というのもあるが、ここから先は魔物がよく出るのだとか。
「皆! 警戒は怠るな!」
「「はっ!」」
ストレリチア殿下率いる屈強な戦士たちでも苦戦するような強い魔物が出るのか……? と身構えたが───予想通り、私たちの出る幕もなく、魔物は姿が見える前に切り刻まれていた。私たちはその魔物であっただろう残骸の横を、ただ歩くだけの簡単なお仕事……。
今歩いている順は先行部隊、ストレリチア殿下、ルデンと私、そして背後を守るのは残りの兵である。
つまり、先行部隊が全ての魔物をなぎ倒してくださっているため、私たちは安全なルートを歩くだけとなっているのだ。
「ベリル、大丈夫かい? 疲れた?」
「いいえ、大丈夫よ」
ルデンもこうして、度々私の身体を気遣ってくれる。
(改めて思うけれど……私、凄い人たちと一緒にいるわよね)
隣を歩くのは第二王子、前を歩くは第一王子。
そして前後を守るのが名だたる屈強な戦士たち───。
(一般人が紛れるには場違いすぎるわ……)
これで遺跡でも役に立たなかったら、完全なお荷物だ。
(最初にできないかもしれないと断りを入れているとは言え、遺跡で何もできなくても許してもらえるかしら……いえ、許してもらえても私自身耐えられないわね、その状況……)
……胃が痛くなってきた。
「……あ、左の方から何か来る───」
胃の痛さを抱えながら、ポツリと呟く。
するとその言葉を聞き取ったルデンとストレリチア殿下は、ほぼ同時に私に視線を移した。
「ベリル?」
「ベリル嬢、どうし…………───っ」
少しして、大きな足音を鳴らしながら左側の茂みから飛び出してきたのは、大型の魔物だった。
だがそれを認識する前に、ストレリチア殿下が引き抜いた剣が、魔物を真っ二つにした。
こういう時、詠唱時間が必要な魔法使いや魔術師は咄嗟の対応が取れないため、剣を握れる人には利があるなと感じる。
(私もお父様から剣術を少し習ったけれど、身体強化無しだと全然動けないのよね……)
しかも父様の剣術は癖がある……というか。なかなかに玄人向けだと母様は言っていた。
「申し訳ありませんッ、殿下! 一匹取り逃がしました……ッ。お怪我はありませんか!?」
前方から斥候兵の一人が血相を変えて走ってきた。
「問題ない。こちらにいち早く察知してくれた者がいるからな」
「え…………殿下よりも早く? 一体誰が……」
ストレリチア殿下は剣についた魔物の血を振ら払うと、剣を鞘に収めた。
「やるな、ベリル。どうして魔物の襲撃が?」
ストレリチア殿下に尋ねられ、下手な誤魔化しは通じないと瞬時に悟った私は、早いうちに全て白状する。
「日頃から、魔物の出る地帯では常に探知の魔法を使っているのです。決して、殿下の護衛の皆様を信頼していないわけではないのですが、日頃の癖で……申し訳ありません、出過ぎた真似を───」
「いや、助かった。にしても、常に探知を張っているとはな。その膨大な魔力が成せる技、か……。はは、ますます君が欲しくなってしまうな」
「……!」
ストレリチア殿下の言葉に首を傾げていると、ルデンが私とストレリチア殿下の間へと入った。
その様子に、ストレリチア殿下だけが何かを察したかのように小さく吹き出した。
「兄上………」
「くく、いや悪い。冗談だ。───皆、隊列を立て直せ! 拠点まで気を抜くなよ!」
「「はっ!!」」
「……………………」
何とも言えない表情でストレリチア殿下の背を視線で追うルデン。
少し様子がおかしいと感じた私は、彼に大丈夫かと問う。けれど、彼は眉を下げ「ありがとう」と礼を言うだけだった。




