【ルデン5ー2】第二王子と人工精霊
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《Side ルデン》
「自分のことでなくても、大切な友人を侮辱されたら誰だって腹が立つでしょう!?」
僕のために、怒りを顕にしてくれた彼女を見て、どうしようもないくらい幸せな気持ちで心が満たされた。
「ルデンがどれだけ民のために尽くしていると思っているの!? 何故……あんな人達に馬鹿にされなきゃいけないの……」
目を潤ませながら、悔しそうな表情を浮かべる彼女を、今すぐ抱きしめたいという衝動が身体を動かしてしまいそうだった。
自分を理解してくれて、寄り添ってくれる───僕の……愛しい人。
「これからも、私と友人でいてくれると嬉しいわ」
───友人。
……これは、僕が望んだこと。
(本当は……友人以上の関係になりたい、だなんて────王子が軽々しく言っては駄目……だよね)
王子として、身分とそれに伴う責任は弁えているつもりだ。
僕の言葉で───感情で、彼女に迷惑をかけるわけにはいかない。
ベリルへの気持ちを封じ込めたまま、僕は彼女の隣で────。
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────王城にて。
父上───国王との謁見に際し、到着した時にはすでに多くの有力貴族たちが両端で控えていた。
僕は兄上と共に王の前に傅いた。
「陛下───ストレリチア、並びにルデン、只今戻りました」
代表して、兄上が挨拶を済ませる。
「おぉ、ストレリチア、此度の遠征もまた大儀であったぞ! 良くぞ戻ってくれた!」
「はっ」
王座に鎮座する陛下が、城に帰還した第一王子ストレリチアを礼賛した。
「お前の素晴らしき活躍は聞いておるぞ。竜種を討伐したそうではないか」
「はい。北西の国境付近にて、魔物の動きが活発になっております。次の遠征にて残党の処理を行って参ります」
ストレリチアの返答に陛下は満足した顔で深く頷いた。
「うむ。では引き続き北西の政策はお前に任せるとしよう。次の公務までゆっくり身体を休めると良い」
「はっ。お気遣い感謝致します、陛下」
「うむ。……あぁ、そしてルデンよ」
「はっ」
「獣人の新たな法案についてだが、後で目を通しておこう。お前も下がって良いぞ」
「……はっ。ありがとうございます」
獣人たちの待遇改善に繋がる新たな法案。
数ヶ月前に陛下へと進言した書類には、まだ目も通されていないらしい。
(忘れ去られていないだけいい、か……)
落胆する気持ちを抑え、兄上の後ろに控える。
陛下からの兄上への檄を後ろで静かに聞きながら、時が過ぎるのを待った。
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───謁見の間を出てすぐ、ストレリチアに声をかけられた。
「久しいな、ルデン」
僕と同じ金色の髪が揺れる。その間から覗く切れ長の青い瞳は大人の色気を放っている。
端正な顔立ちと凜とした佇まいに、男女問わず感嘆の声を上げてしまうほどに美しいお方だ。
実弟の僕でさえ、思わず目を奪われる瞬間が何度もある。
「お久しぶりです、兄上。此度の遠征、お疲れ様でした。お元気そうで何よりです」
「ああ、ありがとう。お前も変わりないか?」
「はい、こちらも問題ありません」
「そうか、良かった」
兄ストレリチアとの関係は、悪くないと思っている。
遠征から帰ると必ず僕の元を訪れ、声をかけてくれるのだ。
貴族の中には第一王子派と第二王子派とで勝手に派閥を作り、王位継承権の問題で度々小競り合いが起こっているようだが、僕は元よりこのまま兄上に王の座を継いで欲しいと心から思っているし、兄上もまたそのように考えているため、兄弟間での争いは皆無である。
巷では僕が王の座を狙っているだの、兄弟間の実力差がありすぎて不仲だの、様々な噂が流されているようだが、実際はこの通り。
まぁ……兄と僕では実力差がありすぎるという点は否定しないけれど。
「加護の調子も大丈夫か?」
「……はい、今のところ正常に機能しています」
「そうか。人工精霊とも上手くやっているようだな」
「…………」
ニコリと微笑む兄上。
彼の言葉に悪意がないのは長年の付き合いで分かっているのだが、どうしても、少し気持ちが沈んでしまう。
───人工精霊。
僕に宝石の加護を与えた精霊は、錬金術で人工的に造り出された……言わば小さなホムンクルスである。
魔力を持つ者は精霊から宝石の加護を受けている。大抵の人間は幼少期で魔法の才に目覚めるが、僕は……自分の精霊に出会えなかったのだ。
そう……僕は───魔法が使えなかった。
ヘリオドールは魔法使いの大国。
そんな王国の王子が、宝石の加護を持たない。それは、許されることではなかった。
王宮魔導師が実験に実験を繰り返し、ようやく完成した人工精霊。
人工精霊が授けた宝石───キャッツアイが、僕に魔法の力を与えてくれた。
僕は加護を持つ魔法使いとして、生まれ変わることができた。
(けれどそれは……僕自身の力ではない)
いくら学園で優秀だと讃えられても、これは借り物の力でしかない。
偽物の力で評価されることに、常に罪悪感があった。
───そんなことを感じていたからだろうか。
年々、加護の力が弱まりつつあるのだ。
人工精霊の加護の効力が、いつまで続くか分からない。いずれ、僕は魔法が使えなくなるかもしれない。
そうしたら───僕はもう、彼らと共にはいられなくなる。
(だからせめて……学園を卒業するまでは持ちこたえてくれるといいんだけど───)
「ところでルデン、聞いたぞ。魔導学園にて交流祭があったそうだな。演術の代表になったと聞いたぞ。お前の勇姿を見に行きたかったんだが、あいにく遠征が重なって行けなくてな。すまない」
「いえ……ふふ、兄上が来られたら皆パニックになってしまいますよ。お気持ちだけいただいておきます」
「はは、そうか? あぁ、そういえば、魔導学園の演術者にとても優秀な魔法使いがいたと王宮魔導師たちが話していたな。確か……エーデルシュタイン卿のご息女だとか」
兄上の口から彼女の名が上がり、心臓が嫌な音を立てた。
「……はい。学園の組織で共に活動しております」
「そうなのか。膨大な魔力とそれを無詠唱で扱う技量───すぐにでも城に引き抜きたいと話していたが……彼女の能力はお前から見てどうなんだ?」
「…………彼女の能力は、圧倒的という表現が一番的確かと。技量で言ったら、すぐにでも前線にて活躍できる……と思います」
我ながら最後の言葉は要らなかったと後悔した。後悔しても、一度発してしまった言葉は戻らない。
「おお! それはすごいな。ぜひとも私の隊に加えたいところだ」
「………………」
はは! と愉快に笑うストレリチアに対し、僕は作り笑いすら上手くできなかった気がする。
「その実力なら……ふむ」
「……どうかされましたか?」
「ルデン。その娘に合わせてはくれないだろうか」
「……っ!? お、お待ちください兄上! ベリルは……彼女はまだ学生なのです! 前線にて活躍できると言ったのはあくまで───」
兄上がベリルに興味を持ってしまっただけでなく、考え得る最悪の状況になってしまうことを恐れた僕は、兄上に詰め寄った。
そんな僕に対し、ストレリチアは驚きつつも冷静に僕を宥めた。
「あぁ、分かっている。私も学生を隊に加えたりはしないさ。ただ、彼女に協力してほしいことがあるのだ」
「協力……?」
「魔獣の森にて発見された遺跡については、お前ももう知っているだろう?」
「はい……確か、入口に特殊な魔法結界が張られていて、中に入ることができないのですよね……」
「ああ、そうだ。あれは恐らく古代の遺跡。文献によると遺跡には、巨大な宝石が眠っているという伝説があるんだ」
「巨大な宝石?」
「王宮魔導師たちの推測だが、もしかしたら人工精霊のエネルギーになるかもしれない」
「え……!?」
「人工精霊のエネルギーを得られれば、永久に宝石の加護が使えるやもしれん。お前の加護も安定するだろう」
「……!」
「しかし、古代文明の結界を破るには、光の精霊と呼ばれる精霊の、宝石の加護を持った生娘の魔力が必要なんだそうだ。王宮魔導師たちの話によると、ベリルという娘は光の精霊から加護を受けている可能性が高いのだという。私はひとまず、その可能性を確かめるべきだと思っている」
「…………」
(ベリル……が────)
「───だから、ルデン。まずはお前から、彼女に話を通してもらえないだろうか? 彼女が嫌だと言うのなら、強制はしない。あぁ、勿論道中の安全面も抜かりはないと伝えてくれ。私と、私の兵が彼女を護衛する。───ルデン、頼めるか?」
……本当は、少しでも危険を伴うことに彼女を巻き込みたくはない。
けれど───
「…………わかり、ました。彼女に聞いてみます……」
考えた末、僕は兄上にそう答えてしまった。
「本当か! ありがとうルデン。彼女の返答次第で兵を動かすつもりでいる。答えがどちらにせよ、なるべく早めに報告を入れてくれると助かる。私も次の遠征が近いからな」
「……はい」
では、と立ち去るストレリチアの背から、目を逸らした。
兄上からベリルの話を切り出された時から、気が重かった。
まさか、兄上までベリルに興味を持つなんて……と。
兄上にベリルを合わせたら……ベリルは兄上の元に行ってしまうのではないか────。
だが、人工精霊の力が、永久に使えるようになるかもしれない。
そんな淡い期待にも、僕は縋りたかった。
「………ベリルを巻き込みたくない。………でも────」
僕は、いつまでもみんなの……彼女の仲間であり続けたかった。
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