シェナルート 序章
第四章 〆
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【シェナ√】
後夜祭のパーティーを抜け出し、私は時計塔の螺旋階段をゆっくりと上がる。
扉を開けると、中には窓辺に腰をかけ、つまらなそうに外を眺める小さいシェナの姿があった。
シェナは驚いたようにこちらを見ている。
「ベリル?」
「ふふ、やっぱりここにいた」
「どうかしたのか? お前、パーティーの主役だろ。こんなとこにいていいのか?」
「隙を見て抜け出してきたの。目立つの、好きではないから」
「もう、自分を偽る必要はねぇのに?」
「それとこれとは別。今まで散々嫌ってきた私のご機嫌を取ってくるような人たちとの会話なんて、ロクなものじゃないわ」
「はっ、それは確かに」
「それよりほら、見て? シェナが好きそうな料理が出されていたから、貰ってきちゃった」
大きめのバスケットの中から料理を取り出す。
運んでくるまでに冷めないよう魔法を施しておいたから、味も問題ないはずだ。
「! 美味そうな匂いしてんなぁとは思ってたが……」
「後夜祭が終わるまで人の出入りがあるから、シェナが帰れないでいるかなって。そうなると、時計塔で時間を潰しているかなと思ったのだけれど、予想が当たってよかったわ」
「お前……わざわざ俺のために料理を持ってきてくれた、のか?」
「せっかくの後夜祭だもの。シェナにも楽しんでもらいたくて……。と、いうのももちろんあるのだけれど、本当は私がシェナと後夜祭を過ごしたくて?」
ふふっ、と微笑むと、シェナは一瞬弾かれたように目を見開いたあと、耳まで赤く染めた。
「……そうか、ありがとな。……にしても、本当に美味そうだ。弟たちにも食べさせてやりてぇな……」
「あ、そういえばシェナには弟さんと妹さんがいるのよね。今どうしているの? シェナは寮暮しよね」
「ああ、今は信頼できる獣人夫婦に預かってもらってる。つっても行き来できない距離じゃねぇから、しょっちゅう帰って顔見に行ってんだけどな」
「そうなのね、それはよかった! もし近々帰省する予定があれば、日持ちしそうなパンやお菓子も貰ってくるけれど……」
「サンキュな。けど気持ちだけで十分だ。この前王都の菓子を大量に買って帰ったら、弟たちに無駄遣いするなーって怒られちまったばっかだしな」
「ふふ、しっかりした弟さんたちなのね」
「あぁ、俺なんかよりよっぽどな。俺のこの呪いのせいで、あいつらには苦労ばかりかけてきたからな……。本当、頭が上がらねぇよ」
「そう……。シェナに似てみんな優しい子たちなのね」
「お、俺に似てっかは知らねぇけど。いつかお前にもあいつらを紹介できたらいいな」
「本当? ぜひ!」
(ふふ、今から楽しみだわ)
「そういや、ルデンたちはまだパーティー会場にいんのか?」
「ええ、みんななら相変わらず忙しそうに取り囲まれていたわ。それに、私が彼らと皆の前でダンスを踊ったのがまずかったわね……。女性たちが次から次へと名乗りを上げてきて……」
「あー……目に浮かぶな」
場面を想像して眉を寄せたシェナと目が合い、共に笑い合う。
『(俺も……こんな姿にならなきゃ、お前と────)』
「ん? どうかした?」
「……いや」
そう言いながらも、シェナは私から視線を逸らした。
『(……ダンスって柄でもねぇか。それにこいつも、あいつらも……貴族で、人間で────俺とは住む世界が違うんだから)』
「……シェナ?」
「あぁ、悪い、お前は可愛いやつだなと思ってただけだ」
「…………その顔、からかってるわね?」
「ふっ、さぁな」
「もう……」
ティーカップを取りに行こうと立ち上がると、シェナに腕を引かれた。
「……もう、行くのか?」
「え?」
「悪い、今は……もう少しだけ、そばに居させてくれ」
月明かりに照らされ揺らぐ彼の瞳は、ガラス玉のように澄んでいて、とても綺麗で。目を奪われた。
(飲み物を取りに行こうとしただけなんだけれど……)
それは、今じゃなくて良いような気がした。
シェナの隣に再び腰を下ろす。
しばらく二人で、静かな夜を過ごした。
ふとした瞬間に見せる、彼のやるせない表情に気が付かないまま────。
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