ラルドルート 序章
第四章 〆
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【ラルド√】
後夜祭のパーティーが始まる直前、俺の元にある人物が訪ねてきた。
「ラルド兄さん、久しぶりだね」
「……クォーツ」
現れたのはブロンドの髪を短く後ろで結った、いかにも貴族らしい身なりの男。
クォーツ・アメシス────俺の、義弟だった。
「……来ていたのか」
「まぁ、暇だったし。あの人たちは来てないけど」
「……だろうな」
義弟の言う〝あの人たち〟とは、クォーツの両親────俺の義父と義母のことだろう。
俺は、アメシス家と一切血の繋がりはない。
俺の本当の両親は昔、父親は庭師として、母親はメイドとしてアメシス家に仕えていたらしい。
当時アメシス家は長年子供ができず世継ぎの問題を抱えていた。
両親は産まれた赤子を金と引き換えにアメシス家に売り渡した。
その後しばらくして、庭師とメイドは辞めたようで、その後の二人の行方は分からない。
……今となっては、どうでもいいことだが。
「それにしても、まさか兄さんが殿下と一緒に演術代表者になるなんてね。ダイヤモンド……だっけ? なんかすごい組織にも選ばれたみたいだし。手紙に書いてあったことはホントのことだったんだ?」
「……」
(定期的にアメシス家には報告書を送ってはいるが……一応、読んではいるのか)
俺の顔を見て、クォーツはつまらなそうに息を吐いた。
「ま、兄さんのことはどーでもいいけど。それよりさ、兄さんと一緒に演術に出ていた女の子、知り合い? 確か……ベリル・エーデルシュタインって子」
「!」
クォーツの口から彼女の名が出た瞬間、全身に力が入り身体が強張ったのが自分でも分かった。
まずい、と思った時にはすでに遅く、クォーツは目を細めた。
「(……ふーん? 兄さんの表情が変わるなんて珍し〜。そんなに大事な子なんだ?)」
「あの子、兄さんの知り合いなんでしょ? 可愛いよねぇ、美人だし。時間潰すために気まぐれで交流祭に来てみたけど、あんな子が学園にいるなんて、思わぬ収穫だったなぁ」
「……知り合いだったら、なんだ」
冷静に、動揺を悟らせないように言葉を絞り出す。
これ以上、クォーツの興味が彼女に向いてはならない。なぜなら───
「あの子、紹介してくれない? 僕、あの子欲しくなっちゃった。魔導学園に通ってるってことは、あの子もどっかの貴族なんでしょ? 婚約者にはピッタリだよね」
「婚約者……だと?」
「そ、正確にはその候補だけどね。最近、父さんがよく僕に縁談話をたくさん持ってきてさぁ。紹介された令嬢はみーんなパッとしない顔してるし、大した魔力も持ってないしで……そん中から選べって言われても正直困るっていうかさ。僕がアメシス家を継ぐんだし政略結婚にはなるだろーなーって思ってたから、それに関しては別に何とも思わないんだけど。どうせなら夜を楽しめる相手がいいだろ? だから、適当な相手探してたんだよねぇ」
「…………」
冷静に───頭では、分かっているつもりでいても。
「あはっ、何、その顔? 怒ってんの? あの子、兄さんの女だった?」
「……いや」
「なら問題ないじゃん! まぁ、仮に兄さんの女だったとしても、兄さんなら譲ってくれてたよね? だって兄さんは、アメシス家には逆らえないんだし」
「…………」
「じゃ、僕との縁談の話、あの子にしといてね。そのうち彼女の方にも話がいくはずだからさっ。じゃーね兄さん」
一方的に話終えると、クォーツは嘲るような表情をしながらこの場を去って行った。
「…………っ」
強く握り締めた拳から、ポタポタと赤い液体が地面に数滴落ちる。
掌にくい込んだ爪が皮膚を傷つけていく。
その痛みなど、今の俺には感じられなかった。
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